第124話 英雄と勇者=世界の社畜じゃん。お断りだ

 紅葉達が五稜郭のダンジョンを踏破した頃、奏達は桜島の火口に到着したところだった。


 シュウをスカウトした後、一旦双月島に戻った奏達は、シュウをカグラに会わせ、シュウとカグラにコンビを組ませた。


 【創造クリエイト】で笛を創り、シュウに渡したことで、シュウは試しに笛を吹いてみた。


 その音色に誘われて、カグラも歌い始め、2体の音楽性があっていることを確認できたので、奏達は安心して桜島に戻って来たのである。


 シュウと遭遇した場所に戻り、そこから少し進むと、奏達は桜島の火口に到着したという訳だ。


 奏達が桜島の火口の中を覗くと、そこには梟の頭をした燕尾服の男の姿があった。


 その男が、桜島のボスモンスターであることは間違いなく、雰囲気からしてソロモン72柱に入っていることを奏達は容易に想像できた。


 そんなモンスターを見て、バアルは嫌そうな表情になった。


「げっ、アモンじゃねえか」


「むっ、バアルか。死ね。【地獄炎ヘルフレア】」


 ゴォォォォォッ!


 奏の周りに浮いているバアルを見て、アモンは奏のお株を奪う初手ぶっぱをやってのけた。


「【聖域サンクチュアリ】」


 キィィィィィン!


 すかさず、楓が【聖域サンクチュアリ】を発動し、アモンの攻撃を防いだ。


「サクラ、これは俺達が戦うぞ」


「キュル」


 【地獄炎ヘルフレア】の威力から、奏が自分達で戦うと言うと、サクラは駄々をこねることなく、首を縦に振った。


「支援します。【天使応援エンジェルズエール】」


 【聖域サンクチュアリ】で守られている間に、楓はパーティー全体の強化を済ませた。


 すると、アモンは忌々しそうに楓に視線をやった。


「貴様を殺すには、そこの小娘から始末せねばならぬらしいな」


「・・・あーあ、お前、地雷踏んだな」


「何?」


 バアルがご愁傷様と呟いたが、それはアモンの耳には届かなかった。


 何故なら、アモンはバアルなんて気にする余裕ができないプレッシャーをその身に受けたからだ。


 その発信源は、当然のことながら奏である。


 楓を殺すと言われたことで、絶対にそんなことはさせないと奏は静かにキレていた。


「【魂接続ソウルコネクト】」


「身の程を知れ。【世界停止ストップ・ザ・ワールド】」 


 ルナが奏の怒りを察知し、先に【魂接続ソウルコネクト】を発動していたおかげで、奏が世界の時間を止めた時もルナは奏と一緒に動くことができた。


 いや、ルナは確かに奏の怒りを察知していたが、自分も怒っていたのだ。


 それも当然のことで、ママと慕っている楓を殺すと言われれば、ルナだって穏やかではいられなかったのである。


 しかし、ルナは奏が自らの手でアモンを倒すことを望んでいることを十分に理解している。


 だから、自分は望まれれば動けるようにするだけでなく、奏の全能力値を強化する意味合いも込めて、【魂接続ソウルコネクト】を発動した。


「【転移ワープ】」


 奏がスキル名を唱えると、奏とルナはアモンの真正面に瞬時に移動した。


「【技能付与スキルエンチャント:<蒼雷罰パニッシュメント>】」


 バチバチバチバチバチィッ!


 奏の殺意が込められているせいで、天叢雲剣に付与された蒼い雷がいつもよりも鋭い。


「楓はやらせない。お前が死ね」


 スパパパパパァァァァァン! ズドォォォォォォォォォォン! パァァァッ。


 一刀両断するだけでは足りず、蒼い雷で伸びた刀身が、【刀剣技ソードアーツ】によって洗練された動きで、アモンの体をバラバラな肉片に変えた。


 そして、アモンだった数多くの肉片それぞれに蒼い雷が移り、黒焦げになって消滅した。


 すると、魔石とモンスターカードがドロップし、奏は【世界停止ストップ・ザ・ワールド】を解除した。


 世界に色が戻るのと同時に、奏達の耳に神の声が届き始めた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、天叢雲剣を使いこなしてワールドクラスのモンスター3体の討伐に成功しました。伊邪那美からの計らいで、奏は八咫鏡やたのかがみを会得しました》


《おめでとうございます。個体名:ルナは、奏が天叢雲剣を使用してワールドクラスのモンスター3体の討伐するのに多大なる貢献をしました。伊邪那美からの計らいで、ルナの<賢獣姫>が<神獣姫しんじゅうき>に上書きされました》


《サクラがLv99になりました》


《サクラがLv100になりました》


《サクラは【魔力接続マナコネクト】を会得しました》


《サクラはLv100になったことにより、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》


《サクラの<不老>が、<不老長寿>に上書きされました》


 神の声が、サクラの進化を告げた途端、紅葉達のいる辺り一帯が光に包み込まれた。


 神の声が止んでからしばらくして、光が収まり始めた。


 何度か経験したとはいえ、突然の発光したせいで、奏達の視力が元通りになるのに少し時間がかかった。


 紅葉は目を開けられるようになってから、自分が乗っているサクラの体を隅々までチェックした。


 すると、サクラの見た目はピンクの体に紫色の目のイルカであり、体のサイズもバイク並みにも大きくなった。


 体の大きさも変わったが、注目すべきなのはサクラの額に赤い水晶玉があったことだろう。


「おかーさん!」


「サクラ、喋れるようになったんだね?」


「うん! サクラ、喋れる!」


 まだ片言のようだが、サクラは喋れることが嬉しくてたまらないという様子である。


「良い子だね、サクラ。じゃあ、ちょっと見させてもらうよ。【分析アナライズ】」



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名前:サクラ  種族:クリスタルケートス

年齢:5歳 性別:雌 Lv:100

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HP:1,300/1,300

MP:1,300/1,300

STR:1,300

VIT:1,500

DEX:1,500

AGI:1,300

INT:1,300

LUK:1,300

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称号:<楓の従魔> <不老長寿>

スキル:【浮遊フロート】【吹雪ブリザード】【舞氷刃ダンシングアイスエッジ】【銀世界スノーワールド

    【氷守護アイスガード】【氷城アイスキャッスル】【氷霧アイスミスト】【氷分身アイスアバター

    【健康ヘルス】【魔力接続マナコネクト

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装備:従魔の証(楓)

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 サクラの全能力値が1,000を超えていたため、楓は感慨深く思った。


「サクラ、強くなったね」


「おかーさん、サクラ、偉い? 偉い?」


「偉いよ。私も主人として誇らしい」


 ドヤ顔で訊ねるサクラの頭を、楓は優しく撫でた。


 そんな楓とサクラを温かい目で見守りつつ、奏は近づいて来たバアルに訊ねた。


「バアル、クリスタルケートスって新種?」


「おうよ。新種だぜ」


「ルナに続いて、サクラもか。ちなみに、もうバアルも進化条件はわかってんだろ? 教えてくれよ」


「任せろ。まず、ルナだが、Lv100到達、世界樹の果実の摂取、固有スキルの保持だ。というか、グリフォンは本来、元々が強いから進化しねえ」


「エヘヘ、ルナ強いの」


「だな。ルナは強い子だ」


「わ~い」


 ルナは奏に褒められ、とても嬉しそうに笑った。


「んじゃ、次はサクラだ。Lv100到達、世界樹の果実の摂取、ワールドクラスのモンスターのダンジョンでの無双だ。ケートスもまた、本来は強いから進化しねえ種族なんだよな」


「そう、それだ。ワールドクラスって何? さっきの神の声で、突然ワールドクラスなんてニューワードが出たから気になったんだけど」


「それな。俺様も初めて聞いたぜ。天界の連中の考えることだから、放置すると世界に影響が生じるモンスターをワールドクラスって括ったんだろうぜ。フォートレスホエールも、ニーズヘッグも、ソロモン72柱も放っておけないだろ?」


「さてな。俺にワールドクラスに対する意見を求められても困る。俺が正義感で戦ったことなんて、1回もないんだしさ」


 奏の言い分を聞いて、バアルは確かにと頷いた。


「英雄や勇者と呼ばれる資格は、世界の誰よりも持ってるのに、当の本人は称賛よりもダラダラ過ごすことの方を優先してやがる」


「英雄と勇者=世界の社畜じゃん。お断りだ」


「まあ、下手な大それた野心を持たれるよりも、天界の連中は安心して見てられるだろうさ」


「天界の連中って言葉を繰り返すが、バアル自体ははどうなんだよ?」


「あん? 俺様は奏の相棒だぜ? ずっと一緒さ。奏が道を外れても諫めてやるぜ。つーか、奏といるのは飽きねえ」


 そう口にしたバアルは、照れているのを隠そうとして笑っていた。

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