モンスター・バトル・フロンティア

灰猫

第1話 プロローグ

 日常に潜む日常それは、何処にでも現れる。そう例えばゲームの中から。


「ギャハハハ!」


「嘘だろー!?」


「ホントだって!」


 騒がしい。


 高校に入ってから一か月も経つと化けの皮が剥がれて、素の表情を見せるものだが、所詮は子供と言う処だろうか。


 窓際の席で、一人黄昏ボッチしている俺がとやかく言えた義理ではないが。


「ほら、お前ら席に就けー。主席を取るぞー!」


 担任の……担任名前忘れたの先生が名簿を片手に生徒の出席を確認し始めた。


「東…五十嵐…遠藤…」


 名前を呼ばれる度に利き手を上げて答えている。


野守のもり祐介ゆうすけ


「…」


 名前を呼ばれたので、皆と同じような右手を上げる。


「浜西…」


 こうして、いつもの日常が流れていく。



                       ♪



 数年経った今でも『アライン』の話題は尽きない。


 飽きられそうになれば更新し、それぞれの用途に適した特化型の発売。企業は挙って購入を決めただろう。


「金が足りない」


 俺の様な学生が欲しがる『アライン』と言えば、ゲーム特化の『リンクス』である。


 他の分野に適した能力を削って作られた特化型と言っても、学生が購入しようとすればやはり高い。去年の発表で、新型『リンクス』の発売が決まった。


 その発売日が今日なのである。


 しかし。


「金が足りない」


 新型ともなれば、前回の『リンクス』よりも値段が高くなるのは間違いない。


「仕方ない…借りるか」


 そんな訳で家の爺婆に頼んで、金を借りた。


 本人たちは「欲しい物があるなら、買ってあげるよ」と孫可愛がりなのだが、俺は借金に留めている。借金にしているのは、人の金に頼らない様にしたいからだ。とは言え、返済は小遣いなので人の金ではあるのだが。


「β(ベータ)版では『リンクス』を持っていなかったからな…楽しみだ」


 『リンクス』を持っていなかった為に、新型と同時にリリースされるオンラインゲーム『モンスター・バトル・フロンティア』のクローズβに参加できなかった。


 β時の情報は完全にシャットアウトされており、公式ホームページとゲーム雑誌だけが俺の知りえる『モンスター・バトル・オンライン』の情報だった。


 急いで家から飛び出し、知り合いのゲームショブに向かう。


 本来『リンクス』はゲーム機というより、パソコンの親戚である。普通はゲームショップで販売されているも物ではない。まぁ『リンクス』がゲーム特化なせいで、取り扱いされているのだが。


「おう、祐介。遅かったな」


「金の工面に手間取ったんだよ」


 知り合いのゲームショップに付くと直ぐにその知り合いと出くわす。


 会計を担当するレジの場所が出入り口の直ぐ近くある為に、知り合いのおっさんに発見されるのも早かった。


「相変わらず人がいないな」


「趣味の店だからな、無理に人気店になる必要はないさ。えっと今日は『リンク—Ⅱ』だったな」


 『リンク—Ⅱ』は新型の正式名称である。


 安直だが、分かり易さが求められたのだろうと予測されている。


「おっさ…おっちゃんもやんのか?」


「オッサンで良いよ…今作はゆったり出来るらしいからな。やるつもりだぜ」


 『グリモワール・オンライン』の流行から、アクションRPGがVRゲームの主流として広まった。その弊害として、別のジャンルのゲームが少なくなるのは必然だ。『アライン』の開発者が「そろそろ別のジャンルのゲームをやりたい」と言い出さなければ、今しばらく同じようなゲームが続いていただろう。


 開発者は間違いなくゲーマーである。


「そっか」


「時間があれば会おうぜ」


「負けないよ?」


「戦わねぇよ!」


 こうして『リンク—Ⅱ』を手に入れた俺は、家に帰りセットアップを始めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る