05 プリンセス、スピード婚する

「この画」


「あ、これですか。いま大人気の王室漫画です。アポネスの貴族っていうんですけど」


 アポネスの。


 貴族。


「あの」


「見たいのですね。どうぞ」


 宮廷。これは城。


 主人公。これは国王。これは皇后。これは、事実。


「なんで、これが」


「今週から、お見合い編が始まったところです。ここから先は、私も知らないところなので楽しみなんです」


「私も知らないところ?」


「おっと」


「あなたは、もしかして」


 彼。顔に見覚えはないが。


「アポネスの、貴族?」


「あはは。漫画の話ですよ」


「国王はミッツ・ザーヌ103世。皇后は代々エイス。娘はプリンシア エイス」


「漫画の中ですし、書いてあることです」


 ええと。なんだ。私しか知り得ないこと。


「主人公は5才年齢を詐称してて」


「それも描いてありますね」


「ええと、あとは。そうだ。お見合いと言ったわね」


「はい」


「アポネスの王女は、顔も知らない人と十五で結婚させられて」


「もう大丈夫です。わかりました」


「でも」


 何を言えば、信じてもらえるのか。


「私もアポネスから来ました。ヒノウといいます」


「あっ」


「はい。あなたと同じです」


 ここまで教えてくれて。一緒に付き添ってくれて。


 分かってきた。


「これは夢では、ないのですね。何かの拍子に、私がここへ、来てしまった」


 これは現実。さっきの肉まんも、夢とは思えないぐらいに、熱くて、美味しかった。


「あなたも、親切すぎる。これはおかしい」


「あ、いや。親切なのは、私があなたを好きだからです」


「は?」


「この国ではですね、恋愛が自由なんです」


 恋愛が。自由。


「有り体に言えば、親が決めない結婚相手を、自らで見つけなければならないんです」


「そう、なんですか」


「なので、気に入ったかたには、なるべく親切にして、お互いのことを知らなければならないので」


「じゃあ、わたしに親切にしたのも」


「ひとめぼれしたからです。走っていた姿が、美しかったので」


「すぐに返答をしなければ、いけませんか?」


「ああいや。そんなことはまったくありませんし、私の言った好きという言葉も、巷には溢れているので。あまり重くとらえないでください」


「と、言われても。さっきまで貴族だったのに、いきなり平民のように」


「平民とも違いますね。お互いが好き合わなければ、結婚はできない仕組みなんです」


「え、それは」


「ええ。たいへんです。しかも、男女問わず妾は禁じられています」


「かなり」


「たいへんです。なので、好きだと思ったら、なるべく、仲良くならないと」


「わかりました。わたしも好きです」


「ありがとうございます」


「結婚しましょう」


「へ?」

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