お隣さん

甘夏蜜柑

第1話

「ありがとう!」

香奈実は弟の祐樹に言った。

祐樹はやはり男だけあって力持ちだ。

香奈実一人だときっともっと時間がかかっただろう。20個ほどある段ボールを半分ずつ運んだ。ここは3階。エレベーターがないので、全部階段で運ばなければならない。なかなか大変な作業だ。

でも、2人でやっていると、気がまぎれる。新しいマンションは綺麗だ。香奈実はここが気に入っている。


箱を開けて中のものを取り出す。机や棚は先に運んでおいたので、あとは小物を置くだけだ。祐樹がいなくても、一人でできる。


「ねえちゃん。なにこれ。笑」

という声がして、振り返ると、シルバニアファミリーの段ボールだった。


去年、ショッピングモールのおもちゃコーナーで見つけたものだった。香奈実が小さいころからシルバニアファミリーは有名だった。おもちゃ界のトップであったが香奈実はあまり欲しいとは思わなかった。小さなうさぎさんやねこさんの人形。赤い屋根のおうち。かわいいと思わなかった。


それがここにきて。

急に興味が湧いてきたのだった。


「かわいいでしょ?笑」と香奈実は返事をした。

祐樹はまじまじと人形を眺めて、「うん。」と返事をした。

祐樹のこういう素直なところはかわいい。

「僕も買おうかな。」とまで言っている。香奈実は今年22歳になる。祐樹は二歳年下なので20歳だ。

香奈実は別に祐樹がどうしようが知ったことではないが、20歳男の部屋にシルバニアファミリ―が置いてあるのは、異様な光景だ。

香奈実は祐樹のためを思って、「辞めたほうが良いと思うよ。」と言ってあげた。


「もういいよ、ありがとう。」

と香奈実は言った。外を見ると、もう夜になっていた。まだ、全部の荷物を出したわけではない。が、とりあえず、必要なものは出した。キッチン用品や、お風呂で使う物。トイレットペーパーなど。生活していくには十分だろう。


祐樹は実家に帰っていった。


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お隣さん 甘夏蜜柑 @natsu_mi

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