12
隠しても、隠しても
話しかけて良かった
……誰かが泣いてる。
なんだか、聞いてるだけで胸が張り裂けそう。
『泣かないで』
ほら、ぎゅーってしてあげる。
温かいでしょう?
私もね、泣いてた時、青葉くんにぎゅーってしてもらったからわかるんだ。
そのあとは、
『泣き止んだら、おしゃべりしよう』
楽しいお話して、美味しいもの食べよう。
甘いものはどう?
それとも、がっつりご飯食べる?
あなたが安心して眠れるまで、側にいるから。
だから、1人で泣かないで。
***
「……」
アラーム音で目が覚めた。
なにか、夢を見ていた気がする。けど、どんな内容だったのか思い出せない。
まあ、夢ってそういうもんね。
「おはよう、うさちゃん」
私は、抱いていたうさぎに挨拶をした。……流石にもう、青葉くんの匂いはしない。
久しぶりに風邪引いちゃった。
私、倒れるまで熱出てるのに気づかないんだよね。毎回。
瑞季たちに心配かけちゃったから、お礼言わないと。パパなんて、倒れた日の夜にひかるの家に駆け込んでケーキ買ってきたらしいし。
なんかね、病気ではないんだけど低糖体質なんだって。薬も何もしてないのに、低血糖になりやすいってやつ。
まあ、甘いもの好きだし、何もなければ病院行くこともないから私生活は困らない。お母さんとパパは、何かあった時のためにお金貯めてるらしいけど。
前、先生に「甘いもの大好き」って話したら、「それは症状と関係ない」って言われたっけ。
「準備しなきゃ」
ベッドの上でボーッとしていた私は、スマホ画面の時計で覚醒する。
土日を挟んだおかげで、学校は休まずに済んだ。寝たらスッキリしたし、良かった良かった。
にしても、なんであんな不安になってたんだろ。
仮に、理花と青葉くんが付き合ったとしても、このぬいぐるみも一緒にご飯食べた思い出も取られるわけじゃない。クラスメイトなことにも変わりないし、悲観するようなことはないでしょう。
「よし!」
そうよ、私には瑞季たちに家事に。そうそう、夏休み入ったら撮影もあるんだった。
やることがたくさんあるわね。悩んでる時間がもったいない!
***
……とは言ったものの、昇降口で青葉くんを見つけた時はドキッとするよね。普通に挨拶だけしよう。自然に、自然に。
「あ「五月くん、おはよう!」」
「おはよう、佐渡さん」
私が後ろから声をかけるも、前から来た理花の声にかき消された。……待ってたのかな。カバン持ってないし、1組の昇降口ここじゃないし。
こうなったら、2人に気づかれないように教室行っちゃお。
そう思った私は、音を立てないよう静かに靴をしまう。
……うん、気づいてない。
「今日、昼休み空いてる?」
「空いてるよ」
「良かった! 用事あるんだけど、クラスで待っててもらえる?」
「いいよ」
「ありがとう! ……あ、梓おはよう」
ああ! 気づかれた!
ちょうど方向転換した時に、理花が声をかけてくる。
「おはよう、理花と青葉……くん?」
挨拶をするため理花たちの方を向くと、気まずさよりも青葉くんの顔色の悪さに目が言ってしまった。
……顔色だけじゃない。この表情、すごく怯えてるわ。
理花は、なんで普通に会話してるんだろう。心配じゃないの?
「じゃあ、五月くんまたお昼にね」
「わかった」
「……青葉くん?」
理花が教室の方へと行ったのを確認した私は、震えている青葉くんに声をかける。
寒いだけだったり? でも、セーター着てるから寒いわけはないか。体調悪いのかな。
「おはよう、鈴木さん」
「おはよう。……具合悪いの?」
「特に」
「……朝ごはん、食べてないとか?」
「食べてない、けど。何で?」
「あ、えっと……。顔色悪いから、その、食べてないのかなって」
「いつも食べてないから、大丈夫」
「そう……」
大丈夫と言っておきながら、何でそんな辛そうな顔してるの?
今にでも、泣きそうだよ。全然大丈夫じゃないよね。
上履きを履き終わったタイミングで、私は青葉くんと一緒に教室へ向かう。
何か食べさせないと、倒れちゃうよね。何か……。
「あ、そうだ。おにぎり、今朝のあまりなんだけど。私作ったやつで」
カバンの中に、入ってるはず。お母さんが、「倒れたら食べなさい」って入れてくれたやつ。
もう学校着いたし、私には必要ない。
「……くれるの?」
「うん。あ、無理に受け取らなくても」
「お腹空いたから、もらっても良い?」
あ、笑った。
お腹空いてたんだ。良かった。
お母さん、入れてくれてありがとう。
「うん! 中身は、シャケだよ。瑞季と要がほぐしてくれたんだ」
「そうなんだ」
「でも聞いてよ! パパがつまみ食いするから、一向に増えなくてさあ」
「あはは、透さんらしい」
「コンビニとかのおにぎりより具材少ないけど、許してね」
「うん。教室行ったらいただきます」
「どうぞ!」
良かった。
いつもの青葉くんだ。
話しかけて、良かった。
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