アヒルさん、好きだけど……


「テスト終わってからも、していいならするよ」

「……それって、どういう「梓ちゃーーーーん!!」」


 青葉くんの言葉の意味を聞こうと思い、口を開いた途端、


「!?」

「!?」


 バーンと大きめの音と共に、ドアの向こうからパパがやってきた。何故か、アヒルさんがたくさん入った風呂桶を抱えている。


 私も青葉くんもびっくりして、離れちゃったわ。

 ……パパ、気付いてないかな。気付いてたら面倒だな。


 なんて思っていると、満面の笑みだったパパの表情が険しいものになっていく。


「あん、ゴラ? 自分、うちの梓ちゃんになにしとんねん」

「テスト、勉強を。その、えっと」

「勉強やて!? 勉強すんのに、なあんで梓ちゃんの部屋でやらなあかんねん!」

「いいじゃないの! 集中したいのよ!」

「梓ちゃんは黙って「はあ? パパみたいなのがいるから、静かにできる部屋へ来たのに!」」

「あ、梓ちゃん。それって「私たち、テスト近いのよ! これで赤点取ったら、パパのせいなんだからね!」」

「ご、ごめんなさい……」

「で? 何しに来たの?」


 全く、パパは!

 なんで、青葉くんを目の敵にするのよ!


 朝、セイラさんの息子だって聞いてから静かになったと思ったのに。これじゃあ、変わらないじゃないの!


「えっと……その。梓ちゃんとお風呂入ろうかと」

「はあ!?」

「ほ、ほら。ロフトで梓ちゃんの好きなアヒルさん買ってきたから一緒に……」

「入るわけないでしょ!」

「そんなあ。……アヒルさん、少なかったかな? やっぱり、あと1セット「そういう問題じゃありません!!」」


 あ! 青葉くん笑ってるじゃないの!

 もう、恥ずかしい!


 高校生にもなって、パパと入るわけないでしょうに!!


「もうやだあ。瑞季たちと入ってよお……」

「断られたからこうやって来たんだよ」

「私もお断りよ!」

「………………青葉くんとやら」

「は、はい!?」


 私に拒否されたパパは、ドア前でメソメソしながら青葉くんの方を向いた。……なんだか、嫌な予感がするわ。


「アヒルさんは好きかね?」

「へ!? あ、えっと……」

「無視していいから」

「アヒルさん、嫌いか?」

「………………好きです」

「そうかそうか! じゃあ、僕と一緒にお風呂「ちょっと! 何で青葉くんと入ろうとしてるの!」」


 私だって一緒に入ったことないのに!!


 あ、いや。そういう問題じゃないわね。

 どこに、娘の友達をお風呂に誘う父親がいるのよ! 聞いたことないわ!


「断っていいからね」

「……えっと」

「青葉くん、泊まって行きなさい。家に帰っても1人だろう。まだ着てない僕の服あげるから」

「え、でもそれは……」

「大丈夫だ、僕も梓もアヒルさん好きだから。恥じることはない」

「………………えっと」

「よし、入ろうじゃないか! アヒルさんは、20個あるから僕と半分こな!」

「……………………はい」


 え!? いいの!?!?


 なんだかすごい展開になってきたんだけど。え、ちょっと思考が追いつかない。


 青葉くんは、それでいいの!?


「……嫌なら嫌って言ってね。パパ、人の話聞かない人だから」

「あ、うん……。だ、大丈夫。多分。はは……」

「……ごめんなさい」

「…………うん」


 あ、ひかるに会った時と同じ顔してる。

 確かに、ひかるの家族とパパは似てるかも。


「今日は、お仕事ないの?」

「テスト期間だから、入れてない」

「そ、そう。……あの」


 私は、浮かれながらアヒルさんを数えているパパをチラッと見てから、小さな声で青葉くんに話しかける。


「刺青、見られて大丈夫?」

「あ……。鈴木さんのお父さ……警視長さん、見たらアレだよね」

「アレって?」

「刺青って昔は罪人がつけてたやつだから。その」

「昔でしょ? 今は今よ。うちの人たちは、そういうの気にしないから。青葉くんが見られたくないかどうか聞いたのよ」

「…………俺は別に「青葉くん! 今見たら、2つだけ音の鳴るアヒルさんが居たんだ! 1個ずつでいいかい!? アデッ!」」

「パパ、うるさい!」

「……はは」


 私が背中を叩くと、パパってば必死にアヒルさん庇ってるの。そんな格好されると、なんだか私が悪者みたいじゃないの。


「はあ……」

「ありがと、鈴木さん」

「……?」


 なんで感謝?

 むしろ、私が土下座して謝りたいわ。パパがごめんね。


「よし! アヒルさん好き同士、仲良くしようじゃないか!」

「……ははは」


 青葉くんは、乾き笑いをしながらパパに連行されて、お風呂場へ続く廊下を歩いて行く。

 …………大丈夫かしら?


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