親友は、可愛いものがお好き


「五月ー」

「おー」


 月曜は、1週間ぶりのオフだった。って言っても、1時間前に急に現場がバラしになっただけな。午前中は別の現場入ってたけど、午後はフリー!

 ダメ元で五月に連絡入れたら、家に来て良いってことで早速来ちったぜ!今日はゲーム三昧か?


「あれ、梓は?居ると思ってたんだけど」

「鈴木さんは、クラスの友達となんかのイベント行くんだって」

「へえ。ライブかなんか?」

「かなあ。口頭だったから、詳細聞けなくてよくわかんない」

「梓、音楽にも興味あるんだ。意外」

「俺も知らなかった。今度好きなアーティスト聞いてみよ」


 リビングに入ると、テーブルの上には学校の教科書やノートが散らばっていた。……やべ、そろそろ期末じゃんか。

 1日目は既に仕事入ってるけど、2、3日目はオフだから受けないと。出題範囲、後で正樹に聞いておこう。


「てか、うさぎ増えてね?」

「え?……ああ。鈴木さんの家にあったの可愛かったから作ってみた」

「…………はあ。お前、ホント器用だよな」


 さっきまで五月が座ってただろう席には、ピンクの丸々としたうさぎのぬいぐるみがチョコンと置かれていた。しかも、オレの顔よりデカいやつ。


 五月ってば、可愛いもの好きなんだよな。ラインのスタンプも、可愛いの見つけたら即買いしてるし。

 前、こいつとのラインを高久さんに見られて「特定の女性との連絡はやめて」って言われたっけ。五月ですって言ったら笑ってたよ。


 料理できるし裁縫できるし、メイクも上手いしホント、女みたいなやつ!


「鈴木さんにも今度作ろう。自分の部屋に結構ぬいぐるみあったし」

「は?お前、梓の部屋入ったことあんの?」

「うん。勉強しに入った」

「2人で?」

「2人で」

「……」

「……」

「……お前、男として見られてねえだろ」

「……うるせぇ」

「…………ドンマイ」


 普通、意識してたら自分の部屋になんか入れないよな。

 ……そっか、両思いに見えたけどオレの勘違いか。これはさすがに茶化せねぇわ。


 まあ、付き合う気ないって言ってたし、良い距離感なんじゃねえの?



***



「梓〜、こっちこっち!」


 駅ビルは、私と同じくらいの年齢の女子で賑わっていた。

 天井から吊るされた広告をボーッと眺めていると、数歩先を歩くマリに声をかけられる。危ない危ない、はぐれるところだったわ。


「結構人が多いのね」

「そりゃあ、天下のセイラ様だもん!」

「ここまで人が多いと思ってなかった」

「ねー。まあ、芸能人が来てれば一目見たいよね」


 由利ちゃん、橋下くん以外に間近で芸能人見たことないんだって。すごく楽しそう。

 って言っても、私もだけど。

 瑞季と要の付き添いで、デパートの屋上でやってた戦隊モノのイベントは行ったことあるけど、それはノーカンよね。


「セイラさんのサイン、絶対ゲットする!」

「色紙持ってきたの?」

「うん!ペンもバッチリ〜」

「いいなー」

「色紙、5枚持ってきたからみんなのもあるよ!」

「さすがマリ!」

「一生ついていきます!!」


 サイン会もやるんだ。演技だけじゃなくてファンサもしないといけないなんて、芸能人ってすごいな。雲の上の人って感じ。やっぱり、憧れるよね。


 マリがカバンから色紙を取り出すと、詩織が抱きつきながら喜んでる。準備いいなあ。後で、何かお礼しないと。


「まだ時間あるから、プラネットの新作ネイル見に行こう!」

「私、デイリー用で買いたい」

「お!由利ちゃん、ネイルに手を出すのね!」

「うん!土日だけ」

「いいじゃんいいじゃん〜。ネイルは、梓が得意だから色々聞きな」

「梓ちゃん、教えてね」

「人並みにしかわからないわよー」


 あー、楽しい!

 やっぱり、おしゃれアイテムって気分あがるよね!


 私たちは、セイラさんのイベントが始まるまで混み合うお店の中を散策する。


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