ルースパウダーとメイクブラシ
青葉くんの過去
青葉くんは、私の姿を見て無言でどこかへ行ってしまった。
「……」
「鈴木さん?えっと、あ、梓?」
あれ?
私、なにしてたんだっけ?
みんなとお昼食べて……ううん。まだ食べてない気がする。
そうだ、先輩に呼ばれてノコノコついてったんだ。それからは?
思い出そうとしても、頭の中が真っ白になっちゃう。
真っ白なのに、私の脳裏には青葉くんの後ろ姿だけが焼きついている。
私に背を向けた、彼の姿が。
「……」
「梓、どうした?」
せっかく友達になれたのに。
また、遠くに行っちゃう。
私が見ないフリしてたとき、青葉くんもこんな気持ちだったのかな。
胸が痛くて、痛くて、うまく息ができない。
視界がどんどん歪んでいく。
ああ、そうか。私、悲しいんだ。
青葉くんに拒絶されたから、悲しいんだ。
「……嫌われた」
私は、隣に橋下くんが居ることを忘れて涙を流した。
すると、その呟きを聞いていた彼が、
「は?嫌われたって、梓が?五月に?」
「……だって、青葉くんどっか行っちゃった」
「ねぇよ。他人にあれだけ感情剥き出しにする五月、久しぶりに見たわ。梓のこと嫌いになったからそうしたんじゃねぇよ」
と、眉間にシワを寄せながら言ってきた。
いつのまにか名前呼びになってることに気づいたけど、不快じゃなかったからそのまま受け入れる。それより、どういうことなの?
「でも……」
「嫌ってんなら、上着掛けてくか?って。嫌いな奴には近づきもしねぇよ。あいつ、そういう冷たいとこあるから。特に女には」
「異性が嫌いなの?」
「というより、怖いんだって」
「なのに、女の人と遊んでるの?矛盾してるわ」
「あー。自分からは近づかねぇってこと。相手が寄ってきたら断れないだけで。……まあ、オレにしてみれば羨ましいけどな。黙ってても女が寄ってくるって」
「……橋下くんは不健全」
「あはは、そうかも。でも、言うならタダだよ。やったらスキャンダルだけど」
橋下くんが軽口たたいてくれるから、少し気分が落ち着いてきた。でも、まだ身体に力が入らない。情けないけど、橋下くんを頼るしかないわ。彼、以前話した時よりずっと話しやすい。
それにしても青葉くん、なんで女の人が怖いんだろう。私のことも怖いって思ってるのかな。
「……青葉くん、私のことも怖いの?」
「さあ、それは知らん。本人に聞けば?」
「聞けるわけないでしょう!嫌われたくないもの」
「……逆に聞くけど、梓って五月のこと好きなの?」
「うん。友達だもの、好きだわ」
「いや。その、恋愛的な意味で」
「…………わかんない。まだ、青葉くんと初めて話して1ヶ月くらいしか経ってないし」
「は!?そんな短いの!?クラスメイトじゃなかったか?」
私は橋下くんに向かって、手短に出会いからご飯を一緒に食べたこと、妹と弟の世話もしてくれたこと、連絡先交換したことなどを話した。……私が、人の名前と顔を一致させるのが苦手なこともね。
すると橋下くんは、
「……それ、本当に五月?ドッペルゲンガーとかない?」
「ない、と思うけど。なぜ?」
「いや、あいつ人前で飯食うの嫌いだし、連絡先を自分から交換すんのもありえねぇ」
と、心底驚いたような表情になった。……演技ではなさそうね。
「嘘じゃないわ……」
「梓が嘘ついてるとは思ってねぇよ。女嫌い克服したんかなあ」
「なぜ、女の人が嫌いなの?」
「……あいつ、顔面偏差値高いじゃん?勉強も運動も出来るから、昔から女にモテたんだよ。で、逆恨みされてトラブル起こしてな」
「トラブル?」
「オレが言っていいのかな……。あいつ、告白断った同級生の女からナイフで心臓付近めった刺しにされたことあんだよ。中学の時な」
「……え?」
その時、5限のチャイムが廊下に響き渡った。
いつもなら、急いで教室に向かっているところだけど。私の頭に、そんな考えは浮かばなかった。
それよりも、橋下くんの言葉が頭の中に反響している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます