冷静になりすぎると余計なことを思い浮かべる



 学校からついてきてくれた青葉くんは、学童に寄って家に上がるとすぐにセーターを脱いで髪を縛りだした。すると、刺青とピアス穴のすごい耳、真っ赤なインナーカラー、鼻筋の通った少しだけ日本人離れした顔が現れる。昨日から何度か見てるけど、慣れないものね。

 彼、相当暑かったようで、その後しばらくは案内したソファで動かなかったわ。……見ている私ですら暑く感じたんだから、本人はもっと暑いと思うの。これからの季節、どうするんだろう。


「……どっちが青葉くんなの?」

「…………え?鈴木さん、何か?」

「すぐスーパー行くけど、どうします?って聞いたの」

「ああ、ごめんなさい。ありがとう」


 私は、無意識にその言葉を呟いていた。


 ……幸い本人には聞こえていなかったみたい。

 私は聞くつもりのなかったそれを急いで飲み込んで、冷蔵庫から持ってきた冷たい麦茶を手渡し、ソファに倒れ込んでいる青葉くんに話しかける。

 すると、彼はお礼を言って物凄い勢いで飲み干してしまった。


「ごちそうさま。……どうしようかな」

「兄ちゃんと行きたい!」

「わたしも!」

「……じゃあ、荷物持ちします」

「ごめんなさいね。良かったらご飯、食べて行って」

「本当ですか!嬉しい」

「やった!今日は、兄ちゃんも一緒!」

「わたしも嬉しい!」


 私がそう提案すると、青葉くんは嬉しそうに笑った。

 ……彼の笑顔を初めて見たかもしれない。青葉くんは、こんなことで喜ぶんだ。


 その笑顔で、私は青葉くん自身のことを知りたくなってしまった。


「……」


 あなたは、どんな生活を送ってるの?なぜ、そんな格好なの?


 会って間もない人にこんな私生活を曝け出しているのに、あなたのことは何一つ知らない。


「……鈴木さん、どこか着替えるところお借りできますか」

「脱衣所でよければどうぞ」

「ありがとうございます」

「ぼくもついてく!」

「一緒に行こうか」


 ボーッとしていると、青葉くんが声をかけてきた。やっと動けるようになったらしく、麦茶を入れていたコップを持ってこちらを見ている。


「ごちそうさまでした。これ、キッチン持って行っても?」

「あ、私持って行きますから」

「ありがとうございます」


 昨日から思ってたけど、彼、結構律儀なんだよね。同い年なのに、私も敬語になっちゃう。

 そのまま、ソファに投げ出されていた黒いリュックからシンプルなTシャツを取り出した青葉くんは、大はしゃぎする要に案内されて脱衣所へと消えて行った。


「わたしはおねえちゃんと着替える!」

「はいはい。早く着替えて、スーパー行きましょう」


 さてと、私も急いで準備しないと。……今日は、ワンピース着て行こうかな。別に、青葉くんを意識してってわけじゃないわよ!


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