声をかける理由



 お昼を食べ終えて教室に戻っても、まだ青葉くんは帰ってきてなかった。

 学食出た時は、いなかったんだけどな。


 教室に戻ってきた私たち4人は、5限目が始まるまで後ろの方でおしゃべりをする。クラス中がそんな感じだから、すごいザワザワしてて騒がしい。


「やっぱ、梓のお弁当最高〜。栄養とってる感じがする!」

「それって褒めてるの?」

「褒めてるって! 私、料理できないもん」

「え、梓って料理できるの?」

「簡単なものだけね」

「嘘! 卵焼きにシラス入れるとかもうプロじゃん!」


 あ、いや。それは、朝食べたやつの残りを入れただけで……。シラスって、塩っけあるから調味料要らなくて楽なのよね。

 ていうか、ただ入れるだけだし3秒もかからないんだけど。やっぱり、マリは面白いなあ。


「てか、マリが極端に料理できないだけだと思う」

「できるわけないじゃん! お米もとげない!」

「あの時はマジで大変だったよ」

「ごめんごめん〜、手がすべっちゃって。でも、その後ちゃんとマックおごったじゃん!」

「まあねえ」


 詩織とふみかは、いまだに根に持ってるらしくジトッとした視線でマリのことを見ている。いや、由利ちゃんも。


 マリ、家庭科の時間にお米とごうとしてボールひっくり返して先生に怒られてたことがあってね。漫画みたいなこぼし方してて、私もすごい笑ったなあ。でも、その後のお米を1粒ずつ拾う作業は辛かった!

 先生が、「農家の人たちが丹精込めたものだから全部拾って洗いなさい」って言って。テーブルの上だったから良かったけど、あれが床に散らばってたら……って思うとゾッとする。


「鈴木さん、隣のクラスの横田くんが呼んでる」


 すると、クラスメイトの女子……誰だっけ? ……が、肩を叩いてきた。その子が指差した方を向くと、ドア付近にこちらを覗いている男子が立っていた。……横田くん?何かしたかな。


「ありがとう。なんだろ」

「頑張ってね」

「……?」


 伝言してくれた女子は、応援の言葉を私にかけるとそのまま席に戻ってしまった。なんなの?


 気づくと、その様子をニヤつきながら見ている3人と視線が合う。


「梓、モテモテじゃん」

「先週も隣のクラスの子から告られてなかった?」

「断ったわよ。知らない人と付き合う趣味はありません」

「じゃあ、今回も玉砕かな〜」

「……行ってくる」


 そういうことか。

 私なんかのどこが良いんだろう。


 私は、横田くんが待っているところまで急ぎ足で向かった。待たせたら申し訳ないもんね。


「……あ」

「……」


 すると、ちょうど教室に青葉くんが入ってくる。あの、いつもの暗い青葉くんが。

 私の声に反応した彼は、小さく会釈をして通り過ぎていく。


「あ、あの!」

「……何か」


 私は、とっさにその腕を取ってしまった。


「……あの、その。き、昨日」

「昨日?」

「昨日……えっと」

「……?」

「その、放課後! 放課後待ってて!」

「はい」


 何を話そうか考えてなかった私は、しどろもどろになりながら小声で会話をする。なんだか、顔が熱い。


 そんな私を見ながら、青葉くんは頷いてくれた。しかし、無駄な話をしたくないのかなんなのか、そのままあっけなく席へと戻ってしまう。

 ……これで良かったのかな。


「待たせてごめんね。何か用?」


 私は、背中にマリたち3人の視線を感じつつ、改めて横田くんのところへと向かった。

 なんだか、気分が軽い。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る