02

確認したい

悪夢にうなされて起きる金曜の朝



『鈴木さんって、本当はスッピンで髪の毛ぐちゃぐちゃにしてパーカー姿で家中走り回ってんだって』

『え〜、マジ? あの鈴木が? 幻滅するわ』

『俺も、見てから超幻滅した。びっくりしすぎて「かわいいね」って言っちゃったくらい』

『ぶは! マジウケる! 男子の中で結構人気あったのにな』

『先週も隣のクラスの飯塚くんが振られたって』

『よかったじゃん、振られて! 飯塚に教えてきてやろうぜ!』

『何々、何の話〜?』

『鈴木がさ〜』


 教室に入ると、ピアス穴と刺青を曝け出した青葉くんが他の男子たちとおしゃべりをしていた。

 その話題は、私のこと。あの姿、やっぱりダメだったみたい。そうだよね、笑える姿だもんね。私もそう思う。


 ほら、どんどんその周りに人が集まってきてる。

 マリも、その話聞きたいよね。噂好きだし。


『……』


 心のどこかでわかっていた。

 私は、ただ外見を着飾っているだけの人。その化けの皮が剥がれれば、こうやって笑い者にされるんだってことも、わかっていた。


『早く本人登校してこないかなあ〜』

『無理っしょ! そんな恥ずかしい姿、見られちゃったらさあ』

『あはは〜、言えてる!』


 でも、私がいないと要たちの面倒は誰が見るの?

 誰がご飯作って、掃除して、お風呂入れるの?

 私だって、いつもおしゃれしていたいよ……。


『……帰ろう』


 私は、そのまま教室から出て行った。

 


***




「っっっっっっっっっっ!!!」


 目覚ましの音に飛び起きると、背中を伝った冷や汗が気持ち悪く肌とパジャマを張り付かせてくる。

 今の今まで見ていた夢は、なぜか鮮明に覚えていた。


 私の格好を、クラスメイトに話す青葉くん。

 それを笑い者にするクラスメイトたち。


 実際に有り得るから、怖い。


「……いやいや、そんな被害妄想よ。ただの夢じゃないの」


 私は、そう言って勢いよく足を地面につける。

 ……勢いが良すぎたせいか、ドン! と大きな音が立ってしまった。足裏が痺れる!


「どうしたの、お姉ちゃん」


 すると、ドアの向こうから瑞季の心配そうな声が聞こえてきた。


「な、なんでもない! すぐご飯作るから」

「うん! 要も起こしてくる」

「お願いね。学校の準備は、玄関に置いておくのよ!」

「はあい。わたしは置いてきたよ」

「いい子!」


 ……大丈夫。大丈夫。

 私は強い。


 私は、何かを払い除けるかのように首を強めに横に振って身支度を整え始める。

 今日の朝は、トーストと目玉焼きにしよう。夜は、お魚と味噌汁と、昨日の残ったカレーに……。

 

 

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