第7話 家に連れてきたお客さん
山道から降りてきて瑠希はドレミを連れて山の中腹にある神社の敷地へと辿り着いた。
そこに建っているのはネットにも載っている伝統と由緒ある竜神を祀る神社。瑠希の暮らしている家もこれと同じ敷地の中にある。
ドレミは神社に興味はあるのだろうか。瑠希は気になって振り返るが、山で会った彼女は髪に付いた小枝や葉っぱを取るのに忙しい様子だった。
瑠希は山を歩きやすい服装をしていたが、よそいきのドレスに近い恰好をしたお洒落さを感じさせる彼女には不慣れな山道は少し過酷なようであった。
「瑠希さん、あなた結構足が速いんですのね。驚きましたわよ」
「別にそんな事は無いと思うけど」
瑠希は別に学校の体育の成績がいいわけではない。下に近い方だし、小学校の頃に一緒に遊んでいた友達でも瑠希より身軽に山を進める者などいくらでもいた。
中学生となった今ではすっかり山での遊びはしなくなったが、幼い時の経験はまだ瑠希の中に少しは生きていた。
さて、これからどうしようか。瑠希は少し考えて山で会った不思議な少女に訊ねることにした。
「ここが家の神社だけど。さっそくドランのところに行く?」
「え……ええ、参りましょうか」
彼女には他に行きたい場所もないようだ。少し戸惑いながらも決意を固めたように真っすぐ頷く。
「案内をお願いしますわ」
「うん、どうぞ」
再び手を繋いでくる彼女は多少ぎこちないように見えた。緊張しているのだろうか。
彼女はいいとこ育ちのように見えるし、婚約者に会うんだもの。そういうものかもしれなかった。
それから瑠希とドレミは少し歩いて家の玄関の前に到着した。
「ただいまーって、誰も返事するわけないか」
いつもなら瑠希は家にいる時間。みんなも忙しい時間だ。返事を期待するものでもないだろう。
思い切って玄関から進んで廊下の前まで来てみると、さっそくリビングの方から朝の特撮番組の音が聞こえてきた。状況は瑠希が家を出てきた時から変わっていないようだ。
「ドラン、まだテレビ見てる。どうぞ上がって」
瑠希はドレミを促して玄関を上がる。靴を並べるドレミの指先は少し震えていてやはり緊張が見えていた。
瑠希は何か和むような言葉を掛けた方がいいのではと思ったが、特に良い台詞が思いつかなかったので黙って口をごにょごにょさせてしまった。
思えばここまであまり役立つ会話をしてこなかった。瑠希の知らないドランの話を聞くチャンスでもあっただろうに。
だが、もう着いてしまったのだから仕方がなかった。ドレミの方からも促してくる。
「ここにドラン様がいらっしゃいますのね」
「うん、いるよ」
「よし、行きますわよ」
どちらも小声だ。警戒しているのだろうか。気持ちは分かる。
ドレミはじっと待っている。先に行けと言う事なのだろう。瑠希はまた案内する事にしてリビングのドアを開けた。
リビングに入るとそこにやはりドランはいた。竜神を祀る家だからってもうすっかり自分の家のようにくつろいで、瑠希が出かけた時と変わらず朝のテレビ番組を見ている。
両親がいないのは都合がいい。話しかけようとしたが、それより早く彼の方から話しかけてきた。
「どこに行っていたのだ、瑠希。一緒にテレビを見ようではないか」
「あたしはもうそういうのは卒業したので」
もう子供向けの番組を見るような年ではないし、今ではテレビよりスマホを見ている時間の方が長い。まあ、今はそんな事より連れてきた客人の紹介だ。
あれこれ考えて、結局シンプルにただ紹介しようと決めた。相手はドランだ。難しく考える必要は無いだろう。
「そんなことよりもあんたにお客さんが来てるんだけど」
「ん? 誰だ?」
あんたの婚約者だろう、なぜ知らない。
予想外に不思議そうな顔をするので振り返るとそこに客人がいなかった。瑠希は少し探して扉の陰から髪の先っぽが見えた事に気が付いた。
瑠希は廊下に出てそこに隠れている人物を捕まえて話しかけた。
「ちょっとどうして隠れてるのよ」
「だってドラン様がいらっしゃるじゃありませんか」
「そりゃいるよ」
いると言って連れてきたんだから当たり前だ。ドランはテレビに集中していると思ったが、言い合いに気づかれたようだ。
「ドレミじゃないか。こんなところで会うとはな」
「はい、ドラン様。お久しぶりです」
覚悟を決めて姿を現して礼儀正しく初々しい挨拶をする少女。
後は若い二人に任せておくか。瑠希は自分の部屋へ向かうことにした。
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