第58話 10日前の出来事

「葵巫女様

昨日の都民裁判において

問題が生じているようであります!」


「一体何が起こったというのですか?」


「流行病についてです・・・」


「流行病と都民裁判と

どういう繋がりがるのですか?」


「実は・・・」

(葵は詳しく説明を求めた)


事の発端は10日前の出来事であった!

王都で流行病が発生し

原因不明の発熱と痙攣

呼吸困難があり どのような薬もきかず

徐々に幼子達の体力を奪い

弱りはじめていたようです


そしてある朝

ついにひとりの幼児が

命を落としてしまいました


母親は深く動揺し

子の死を受け入れられず

夜中隣の家に忍び込み

なんと自分の子と隣の子を

入れ替える暴挙を働いたのです!!


翌朝、母親は添い寝をしていた子が死んでいることに

ひどく驚きましたが

よく見ると自分の子ではなく

隣の子と入れ替わっている事に気づいたそうです!


母親はすぐに隣の女を問い詰めましたが

「この子は私の子で、死んだ子は

あなたの子だ!」という主張を譲らず

逆上した母親は、隣の女に掴みかかり

激しい口論になってしまいました


すぐに兵士が派遣され

仲裁を図りましたが

どちらの母親が本当の母親なのか?

確かな証拠が得られていません・・・


またこの流行病の救済法が

見つかっていないことも

都民の不満を増大させているようで・・・

王都の医師団が薬の開発を急いでいるのですが

まだまだ時間がかかりそうなのです・・・


「それは!一大事ではないか!!」

ドルモンド候が叫んだ!


「葵巫女様をこのような緊急時に

王都に入られては

暴動に巻き込まれる可能性があるではないか!


葵巫女様!!

いったん私の屋敷にお越しください!」


「その方が良いでしょう!!」

アーバス隊長と兵士達が一同に叫んだ!!


その時である!

後方より大声で発言する少年の声が

辺りに響き渡った!!

そしてその場にいたドルモンド候と

アーバス隊長と兵士達の

不安と疑念を消し去させた!


「ドルモンド候!

お待ちください!

このような緊急時だからこそ

急ぎアダム皇帝にお会いし

共に対策を論じ合う必要があるのでは?」

側で聞いていたラックが

思わず叫んだのである!


「ラック!?」

思わず父親であるヨーデルが叫んだ!

まだまだ少年の筈の息子の

力強い発言にひどく驚いていた!


リムラ村救済チームの派遣の際

唯一神具「琴笛」を扱い

悪根に縛られている村人を

恐れる事なく 近づき

ひとりひとりに優しく語り掛け 

悪根の術を解放する姿は 

まるで勇者のようであった!


どうやらラックは

大切な使命を感じると 

黙っておれなくなり 

心に示された使命を力強く発言する!

勇者として必要な『勇気』が

備わりつつあるようであった!


そしてラックの発言に応答するように

葵巫女が所持していた

『聖典』が輝き出すと

葵は聖典を手に取り 叫んだ!


『強くあれ!

雄々しくあれ!

恐れてはならない!

おののいてはならない!

あなたの神、主が、あなたの行く所どこにでも

あなたとともにあるのだから!!』


すると!

葵巫女の強い言葉力によって

騒然とした状況の空気が一変し

使者によってもたらされた

不安の根が完全に かき消されたのであった!!


「ドルモンド候!

私達は何の為にここへ来たのですか?

よく考えてください!!」


「葵巫女様

申し訳ございません!

私としたことが・・・

葵巫女様をお守りしたい思いが先行し

愚かにも葵巫女様に

意見を申してしまいました・・・」


冷静さを取り戻したドルモンド候は

部隊に王宮に向かうように命じた!

「アーバス隊長!

急ぎアダム皇帝の元へ!!」


「ハハ!!!」


「ありがとう!ラック!

あなたの頼もしい発言!

とても心強かったわ!!」


「いいえ!

葵巫女様

共に力を合わせて 

王都の問題を解決していきましょう!!」


「ええ!

頼りにしてるわ!ラック!」


■□■◆◇


葵巫女一行は

スンツヴァル王国に到着し

スンツヴァル城の最上階にある

アダム皇帝の玉座の間に通された


「あなたが

アダム皇帝ですか?」


「葵巫女様

ようこそお越しくださいました!

本来なら私が出向くべきでしたが

数々の失礼をお許しください!!」


アダム皇帝は葵の前に跪くと

皇帝の王座のさらに上座に設けられた

巫女座に葵を招きいれた!


「やめてください!

アダム皇帝!

私があなたより上座に座るなど!!!」


「何をおっしゃるのですか?

歴代の巫女様が座られてきた巫女座に

私の時代に・・・

あなた様をお迎えできることが

いかに光栄なことか!!」


「皆の者!!!

葵巫女様に!最敬礼を!!!」

するとアダム皇帝を筆頭に

12人の王都軍団長、祭司長、上級貴族、役人達がひれ伏した!


「今の深い混迷の時代に

あなた様が誕生されたことには意味があります!

わたしはあなた様にお遭いできる日を

どれ程待ち焦がれていたことか・・・


本当は、私の右腕であるドルモンド候ではなく

私自身が、あなた様の元へ出向きたかったのです!

しかし皇帝という立場上、それが適わず・・・


葵巫女様

どうか我らをお助けください!

救いの道を示していただきたいのです!!!

あなた様は、我が国だけでなく

全世界の人々が待ちわびていた

救世主なるお方です!!!」


「アダム皇帝

私はまだ幼い少女に過ぎません・・・

頭を上げてください


しかし私は巫女として 

できる限り

力を尽くしましょう!!!


まず先に知らせのあった

裁判の案件ですが・・・

ふたりの母親をここに連れてきてください!」


「アーバス隊長!

裁判長に命じて

尋問している者達を

連れてまいれ!!」


「ハハ!

直ちに!!!」

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