ワンエピソード・天
八咫千穂の周辺ストーリー①
これは、機神の出没が密かに増えてきた頃のお話し。
女子高校サッカー県代表準決勝戦──1ー1で迎えた後半40分。
ガルーダ女学院の
(潰すっス!)
転倒したFWの女子学生から、ルイが弾き奪ったボールが味方に渡り、そこから繋がったカウンターが決まり。
対戦相手校のゴールネットを揺らすことに成功して。
2ー1でルイのガルーダ女学院が勝利して、決勝進出が決まった。
試合終了後のガルーダ女学院の選手ロッカールーム──キャプテンの
「どうして、あんな危険なプレイをしたんだ! ルイ!」
鬼子母ルイは、平然とした口調で答える。
「でも反則のホイッスルは鳴らなかったっスよ、勝てたんだからいいじゃないっスか」
「そういう問題じゃない、一歩間違っていれば大事故に繋がりかねないプレイだったんだぞ!」
「相手も自分もケガしていないから、いいじゃないっスか……そんなコトよりも次は決勝戦っスよ、次勝てば県代表決定っスよ」
「決勝戦の『聖龍高校』には、あの『八咫千穂』がいる……今日みたいなラフに近いプレイは通用しないぞ……八咫千穂は準決勝の試合で、オーバーヘッドシュートを決めている」
「八咫千穂……将来、女子サッカーの代表が期待されているエースストライカーっスか……潰すっス」
怒りの形相で、ルイの胸ぐらをつかむ、ガルーダ女学院のキャプテン。
「ルイ! いい加減にしろ! おまえ他校のチームから、なんて言われているのか知っているのか! 『FW潰し』だぞ! 恥ずかしくないのか!」
「ぜんぜん、勝てばいいっス……そのために、先生もルイをメンバーから外せないっスよ」
「おまえというヤツは、どこまで」
ルイの胸ぐらをつかんでいた手を離した、キャプテンの女子生徒はルイに背を向けると。
「そのうちに、取り返しがつかない大ケガするぞ」
そう言い残して、ロッカールームを出ていった。
高校女子サッカー県大会決勝戦──聖龍高校VSガルーダ女学院。
0ー0のまま、後半のアディショナルタイム5分に突入したところで、聖龍高校はついに【天空の隼】の異名を持つエースストライカー『
千穂が入ったことで、聖龍高校のチーム雰囲気は一気に勝機へ転じる。
サイドから渡ったボールを、上体軽く後方に反らした胸トラッピングでボールコントロールから。
ドリブルてボールをキープしたまま、次々とガルーダ女学院の選手を交わして、ドリブル突破していく天空の隼。
千穂のフェントやターンの高度なテクニックに
千穂に向かって駆け出すルイ。
(ペナルティエリアに入られる前に、八咫千穂を潰すっス!)
千穂に向かって得意のスライディングアタックを仕掛ける、鬼子母ルイ。
千穂は、ボールを空中に浮かせるのと同時に、自分もフワッと浮いてルイの凶悪なスライディングをかわした。
(かわされたっス!?)
残り時間数秒──エースストライカーの千穂が自分からシュートを放つかと思いきや。
千穂のシュートコースを予想してゴール内で位置取りしていた。
ガルーダ女学院| GKの裏をかいて千穂は、サイドから上がってきた味方のMFへのアシストパスを選択した。
千穂からのパスを受けた、聖龍高校選手のボレーミドルシュートがガルーダ女学院ゴールのネットを揺らしたのと同時に、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響き。
1ー0で聖龍高校が県大会を制した。
歓声の中で、スライディングした姿勢のまま茫然とする鬼子母ルイ。
(負けたっス……うッ!?)
ルイは片方の足に違和感と、激しい痛みを覚える。
試合中は夢中で気づかなかった。激痛に顔を歪め、ピッチでのたうち回る鬼子母ルイ。
「あがぁぁ! ヤバいっス! 足を……があぁ!」
担架に乗せられてフィールド外に運ばれていくルイを、八咫千穂は心配そうな表情で眺めていた。
数週間後の病室──ベットに横たわったルイの姿があった、決勝戦で負傷した足は、ギブスで固定され包帯が巻かれ、できるだけ限り足に負担がかからないように浮かして吊られていた。
ルイが見ているスポーツ雑誌の巻頭には、優勝の笑顔を仲間たちと一緒に輝かせている、八咫千穂の姿があった。
奥歯を噛み締めたルイが、千穂の笑顔が載っているスポーツ雑誌を病室の壁に投げつける。
「八咫千穂……あいつさえ、あの時──潰れてさえいれば」
吊られていた足を、吊り具から外しベットから下りて、痛む足で床に無理して立とうとしたルイが、勢いよく転倒する。
病室のドアが開き、看護士が厳しい口調で怒鳴って、ルイを起こす。
「何やっているんですか! 絶対安静だって先生から言われているでしょう! 今ムリをしたら一生走れなくなりますよ、またサッカーがしたいんでしょう!」
「手を離すっス! こんなところで! こんなところでルイは! があぁぁぁぁぁ!」
手術をしたルイの足が激しく痛み、看護士が担当医の名を同僚の看護士
に告げる声が聞こえた。
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