ワンエピソード・海

九頭竜由良の隠されているエピソード


 これは、機神と人間の最終決戦が近い【機神天國】のちょっとした、人間は知らないエピソード。


 どこにあるのか定かではない【機神天國】──海軍師団長『惑わしのセイレーン』は、下半身を人間形態に変化させて。

 機神四天王の一人【闘将スクナ】の冷血回路『冷機』の人体実験室にいた。

 その部屋では日々、捕らえてきた人間を使った非人道な実験が繰り返されている。


 将校帽子を被り、腕組みをして眺めるセイレーンの視線の先には、人間が一人入るくらいの容量がある。

 液体が満たされた円筒の水槽が設置され。水槽の中には高校生くらいの少年が一人……入れられ、水中で苦悶の表情でもがいていた。


 少年の口から空気の泡が漏れるたびに、少年が首につけている、金属片のレプリカ軍隊認識票〔ドッグタグ〕が水中で揺れる。

 セイレーンは、近くの台の上に置かれた。少年が埠頭で持っていたもりを眺めながら冷機に訊ねる。

「どうですか? 機神化できそうですか?」


 口から白い冷気を吐きながら、冷機が答える。

「通常の人間よりも水中適合値は高いようなので改造すれば、良い機神兵になる、水中機神兵にして海軍師団の兵力にすれば」

 水中で苦しみもがいていた少年──由良の親戚のお兄ちゃんの口から、大量の泡が出る。

 断末の声が水槽の中から聞こえた。

《がはあぁっ!!》

 体が大きく痙攣した後、少年の体は水中で揺らぎ動かなくなった。


 冷機が冷たい口調で言った。

「死んだ……早速、機神に改造しよう」

 水槽内の液体が抜かれ、少年の体が運搬車機神のマジックハンドで取り出され、機神処置室へと運ばれていくのを見ながら。

 惑わしのスイレーンは初めて少年と埠頭で会った時のコトを思い出していた。


 陸の様子を見るために夜の海上に上半身を出した、スイレーンは埠頭で銛を膝に乗せて座っている高校生の少年を発見した。

(いったい、あんな所てで何をしているのかしら?)

 少年に興味を覚えたセイレーンは、こっそり上陸して少年に近づき声をかける。

「こんばんは、こんな所で何をしているの?」

 急に声をかけられて、最初は驚いた少年だったがセイレーンの微笑みと、澄んだ声に少年は心を許した。


 少年と会話を進めるセイレーンは、少年がテレビ番組で寂しい思いをしている親戚の女の子を、慰めるつもりで思わず「海の機神を倒す」と豪語してしまい、夜の海を眺めながら……この先、どうするか思案をしているのだとセイレーンに言った。 

 微笑みセイレーンが少年に質問する。

「親戚の女の子のために機神を……その銛で機神を倒すの?」

「人間サイズの機神なら、なんとかなると思う。心臓のあたりを突けばさすがに機神だって」

 少年は自信満々にセイレーンに言った。話している相手が機神本人だと知らずに。

「ふ~ん、人間サイズならねぇ………残念だけれど、それじゃ機神は倒せないわよ。機神の弱点は心臓の位置じゃない」

「えっ!?」


 海から埠頭に次々と上陸してくる、カッパ型の機神たち。

「うわぁ!?」

 逃げる間もなく、少年は銀色の機神たちに捕まり、海中へと飛び込み連れ去られた。

 少年が持っていた、銛を拾い上げたセイレーンが呟く。

「機神の弱点を知りたかったら、自ら機神になってみればいい……こんなモノでも機神を倒そうとしていた、あなたの意気込みは高く評価するわ……気に入りました。わたくしの、海軍師団の兵士に加えてあげます」

 惑わしのセイレーンは、夜の海に飛び込んで消えた。


 回想が終わり、くつろいでいたセイレーンに、処置室から出てきた冷機が言った。

 冷機の機体と手には血がついている。

「処置が終わった」


 セイレーンが、処置室に行くと。そこには真新しい銀色のカッパ型機神が、床に片ヒザをついてセイレーンに対して頭を下げていた。

 完成したばかりの機神の首には、レプリカの軍隊認識票ドッグタグが下がっている。

 セイレーンは、新たな同胞の頭を優しく撫でた。


 ~おわり~

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