第二十話『ザラスシュトラ』
「うおぉ! 燃えろ! セフィロトの炎!」
火力が強化された、那美のセフィロト・ムリエルが両腕の火炎を、ムチのように振るうと。
機神たちが炎でドロドロに溶かされた。
炎は那美の足もとからもクモの巣のように八方へ広がり、機神を焼きつく。
天空では、千穂のセフィロト・ファムが出現させた、幻の天使たちが放つ光の矢が次々と機神を貫き粉砕していく。
さらにファムは、光りの粒子で翼が生えた筒状のプロペラ吸引機を出現させて、空の機神たちを吸い込んで、バラバラにしていく。
大地に鋼鉄の強化グロブ姿で立った、金属のセフィロト・ニューレンが跳躍して着地と同時に、大地に拳を打ちつけると。
衝撃でクレーター化した大地にいた機神たちが空中に浮かび、時間が停止したような状態から粉塵と化して消滅する。
水で作り出した水竜の頭に乗った由良のセフィロト・イムラアは、無数の三日月型の水手裏剣を機神に向かって飛ばし、機神の体を切断していく。
水竜自体にも水圧の切断力があり、口から吹き出す高圧切断機のような細い水流が、前方に立ちはだかる機神たちを貫いたり、払い斬ったりしていく。
機神軍団とセフィロト&アポクリファ機構の戦いを離れた場所から眺めていた、最後の四天王【花鳥】の背後に伏義龍之介が近づいてきた。
振り返った花鳥は歯車顔で伏義を見た。
軽い雰囲気で、花鳥に片手を挙げて挨拶する伏義。
「よっ、四天王最後の一人……決着をつけるとするか」
「いまいましい人間でおじゃる、その片腕は妹機神の【風月】でおじゃる……仲間になるフリをして失った片腕の代わりに、機械の腕を機神天國で移植してもらった裏切り者の人間でおじゃるな……人間に酷使され、風月も可哀想に」
「悪いな、最初から機神の仲間になるつもりは無かったのでな……機神を倒す力を得るために利用させてもらった」
金属の扇を広げる花鳥──伏義の左腕は、腕だけの義手機神、花鳥の妹【風月】だった。
左手を広げたり閉じたりしながら、伏義が言った。
「いい腕だ、この腕には風月の人格データは残っていない……データは消去した、使い勝手がいい器用な腕だ」
左手の中から手品のように、対機神用の弾丸が排出される。
「この弾丸が作り出す工場の役割の他にも、この機神腕は」
メモと筆記具を取り出した伏義は、左手でメモ帳にサラサラと花鳥の似顔絵を描いて見せた。
「人間のマンガ家の作画力と創作パターン能力のデータが吸収されている、機神の腕だからあらゆるマンガ家のマンガパターンが描ける……マンガ家の中には、長年かけて得た才能を簡単にコピーされたショックで自殺した者もいた」
「風月は人間の絵を描く才能を、わたし花鳥は音楽の才能パターンをコピーして人間から奪ったでおじゃる……創作意欲を失った人間が、文明を衰退させるために」
「奪わせねぇよ……創造する喜びまでAIに取って代わられたら、人類は本当に終わりだ……創作者と制作者のデータを組み合わせて作られたモノが。人間が作ったモノか、機神が作ったモノかわからなくなる」
「それは妹の【風月】も漏らしていたでおじゃる『描いたマンガの著作権があるのは機神か? 人間か?』と」
伏義が弾丸を積めた銃の銃口を花鳥に向ける、花鳥が広げた金属の扇で構える。
宇宙から押し寄せた、機神宇宙軍の円盤群が千穂が住んでいる町と地域を襲い。
子供も大人も老人も、男も女も、富める者も貧しき者も、健康な者も病める者も、身分や役職の上下も関係なく。
次々と人間を捕らえては、無造作に宇宙空間に人間を放り出して、また捕獲に戻ってくるという。
アリの往復列のような作業を淡々と、花鳥と伏義の上空で続けていた。
宇宙空間に無慈悲に放り出されて、漂う多数の人間の死体。
対峙している伏義と花鳥の頭上を、機神空軍師団長のテンペストが低空飛行で飛んでいったのを合図に、花鳥は扇を伏義に投げつけ、伏義は銃のトリガーを引いた。
弾丸は花鳥の顔面を貫き、金属の扇が伏義の横腹に突き刺さった。
倒れながら花鳥が言った。
「人類の滅亡は定められた運命でおじゃる……もうすぐ、深海の師団長が浮上してくるでおじゃる」
仰向けに倒れた花鳥の機能は、完全に停止した。
伏義は扇が刺さった腹部を見る、扇から突出した金属の虫脚が抜けないように伏義の体に食い込んで、牙から毒を伏義の体に流し込んでいた──扇自体が小型の道具機神だった。
膝つきで倒れた伏義は、残る力で銃口を自分の左腕に向けると、微笑み呟く。
「おまえが描くマンガ……おもしろくて、オレは好きだったぜ……あばよ、風月」
伏義は機神の左腕を、撃って爆発させ、ハル・メギドの丘で絶命した。
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