切り傷

荼八

第1話

縋る先の無い彼女に僕は手を差し伸べた。正確には人の生立ちや習慣、生活環境に興味が有るから聞き手として話を聞いた。


僕は知っている、熱と云うモノは他者に押し付けなくては冷めることはないのだと。冷めている、なんて言葉はあるがあれは自分の中の熱に知らぬ間に侵され、慣れ果てた先にそう感じるものであって心身ともに熱く熱せられた鉄のように他者からは見えているのだ。そんな中、彼女は打ち明けてくれた。何に苦悩し、自分を蝕み熱くするのかを。僕は其れを肯定と云う形でつめたく冷えた手を差し伸べる。この願いが叶うのなら、抱きしめてあげたくなった。これは飽くまでも隣人としての愛であり、他意は無い、そう思いたい。だが、やはり自分もまた熱に侵されているのだと気付く。だからこそ、隣人の愛は必要であり苦しみを産む。赤熱した心身を誰かにさまして貰いたい。愛とはそういうものなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切り傷 荼八 @toya_jugo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る