細胞レベルの話

奈々星

第1話

得体の知れない大きな流れ、


そんなものに取り巻かれながら私たちは生きている。


それがあるから私たちは生きていける。

でもそれがあるから壁にぶつかって

苦しい思いをしないといけなくなる。


でも、自分が直面したことが

大きな流れの恩恵なのか、はたまた

災厄なのかはその場では分からない。


どんな引力が働いたのか分からないが私と2人の男の子が遠い昔に出会ってそれからずっと3人は一緒だった。


A君は3人の中でもムードメーカーでいつも私たちを笑わせてくれる。

A君がいないと始まらない。

そんな感じの人。


B君はどちらかと言えばクールな人。

でもよく笑うしイタズラもする。

かわいげのある人。


私たちは多分ずっと前から一緒にいる。

いつ出会ったのかすら覚えてないくらいずっと前から。


ある時、私は転んで怪我をした。

たまたまそこにA君がいなくて隣にいたB君が

手当をしてくれた。


いつもイタズラばかりしている彼は私を心配してくれた。


またある日3人で遊んでいた時、私は2人と

はぐれてしまった。


とても寂しくて不安で人混みが怖くなった。

その時はいつも明るいA君が真剣な表情で

私の手を掴んで心配してくれた。


また別の日、3人で夜道を歩いていた時、

たまたま空を流れ星が横切った。

それから私たちはすぐに手を合わせて

願い事をした。

2人が何を願っているのか分からないが、

私はそんな大好きな2人が幸せになりますように、とそう願った。


それからまもなく夏の終わりが近づき

空に花火が上がる夜。


いつものように3人で空を眺めて花火を見ていた。


空に咲き誇り、輝きながら散りゆく花に

私たちは見とれていた。


それから少し間を開けて大きな花火の種が

空を駆け上がっていく。

空気を切り裂くような鋭い音を立てながら。


それと同時に両隣の2人が私の手を握った。


私は花火の種から目を離さなかった。


2人の行動なんて、全然気にしてなかった。


夜空に花が咲く直前2人が何か言っていた、

いや何か言い始めていた。


夜空に散っていく花を見ながら、

2人の言葉を最後まで聞く。


2人とも同じことを言っていたみたい。

それはたった3文字で、一瞬で、花が咲く瞬間で、私が空を見上げていた時、


「好きだ。」


私はどうしたらいいのか分からなくて

もう花は散ってしまったのに

空を見つめたままだった。


A君もB君も何も無かったかのように

また空を見つめ直す。


だんだん時間が経ってきて、状況が理解出来てきた。


2人は私に告白した。花火が上がる瞬間に。

2人は自分と私にしか聞こえないその瞬間に思いを告げてくれたんだ。


ただ、昔から一緒にいるから、いつも一緒でとっても仲が良かったから、同じことを考えて、同じことをしてしまった。


大親友なら当たり前のこと。


それが今とても気まずい。


私も花火みたいに盛大に開花して消えてしまいたい。


私はこんな無責任なことを考えた自分が嫌いだ。

流れ星には2人の幸せを願ったくせに。


ああ、私が2つに分裂出来たら、2人を幸せにできるだろうに。



あ…………………






私、細胞分裂しちゃえばいいんだ!

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細胞レベルの話 奈々星 @miyamotominesota

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