消える記憶

るびび

◆1


 神崎かんざき 優里香ゆりかは、学園一の才女である。

 この様な断言をした所で、それは紛れもない事実なので、学園内の人間から反論は一切得られないだろう。別に反論が欲しいわけじゃないけど。

 成績優秀な彼女は、聞くところによれば教科書の全てを記憶しているので授業に臨むのに教科書が必要ないだとか、100点満点のテストで103点を取ったことがあるだとか、入学からの定期テストで失点は片指で数えられる程度だとか。

 本来であれば根も葉もない噂でしかない筈だけど、それをやったのが神崎優里香だと言うならば途端に嘘であることが疑わしくなる。それくらい、頭の出来が違うのであった。

 頭が良いだけならまだしも。背は高く、顔は美人、腰まで伸ばした髪は美しく整えられ、身体のプロポーションは黄金比のそれとも呼ばれ。誰にでも誰とでも隔たりなく親しげに話す。そんなだから、男子からの人気は当然あるし、女子からも羨望と嫉妬の眼差しを向けられているのは想像に難しくないし、教師ウケが良いのも言うまでもない。

 他者への関心をあまり持てない私ですら、神崎優里香の事はそれくらい知っている。

 言い換えれば、それしか知らないわけだが。

 ともかく。次元が違うという表現があるが、神崎優里香はまさしくそれである。神崎優里香の為にその表現があると言っても過言ではない。そんな別次元の存在がクラスメイトで、私の隣の席で授業を受けているのであった。

 私が神崎優里香の大ファンでその事が嬉しいだとか、私が神崎優里香をライバル視していてどうしても彼女に勝てず劣等感に苛まれているだとか、そんな馬鹿げた話ではない。そもそもこの二年、神崎優里香とは片指で数えられる数回しか言葉を交わしたことがないし、友人ですらない。

 ただのクラスメイトだ。

 褒め言葉として頭のおかしい超人がたまたま私と同じ学園に通っていて、たまたま私と同じクラスに所属していて、たまたま私の隣で授業を受けているだけ。ただそれだけの話なのだ。

 それ以上の関心を持つのは私には難しかったし、酷だとさえ思う。


 だけれど今からするのは、紛れもなくその神崎優里香の話だ。他者への関心が薄い私の、関心が薄いなりの他者の話だ。

 結論から言えという教えに則るならば――は、いくらか面倒くさい女だ。

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