第24話 勉強会ってなんですか? 3
「へへへぇ〜」
にこやかに笑う美空先輩。僕の隣を歩き、様々な食材の入ったビニール袋の一つを僕と共有するように持っている。
僕だけで良いと言ったんだけれど、先輩は断固として譲らずこうなった。
街ゆく人々に生暖かいような、微笑ましいような視線を投げつけられ、僕はどうしていいか分からない。
それでも楽しそうに僕に会話を続ける先輩とのこの時間が、楽しいからまぁ、それでいいかな、とも思う。
「それでそれで、日向くんは何を作るんですか?」
「あ、豆腐ハンバーグにしようかと。あとは適当に何品か作る予定ですね〜」
「豆腐ハンバーグ!」
嬉しそうにはしゃぐ先輩。
結局あの後、僕は美空家の夕食を作ることを提案した。微妙な顔の桃さんと、それはそれはとても有難いように泣き笑い、ん?あれどうゆう表情なんだろう?
まぁともかく、夕食は僕が作ることになった。すぐに家に帰る予定も無くなったし、良いかなと思って。
夕暮れ時、帰りたくないとごねる子ども達の声をどこかで聞きながら、僕達はゆっくりと家へと帰っていった。
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なれない場所での料理だったけど、どうにか上手くいったみたいでよかった。調理器具も使いやすかったし、今度買いに行こうかな。
目の前のプレートに乗った料理に三人で手を合わせた。
「「「頂きます」」」
恐る恐る箸を入れる。うん、大丈夫そう。そのまま一口大に切り分けて、一口。美味しい。
僕は美味しいと思うけど、二人の口には......。
美空先輩は、頬っぺたに手を置いて美味しそうに食べててくれるし、桃さんも何やら震えているけど、食べてくれてる。良かった、少し安心した。
「バター醤油の敗北......?」
うん、美空家の食事が心配になってくる。というか絶対的な信頼を置きすぎでは......。
少しだけ呆れたような顔になってしまい、顔を降ってその考えをけす。そしてふと、居間の柱に付いてある傷に気がついた。
「美空先輩」
「はい?なんですか〜?」
「あの柱の傷って、もしかして身長とかのあれですか?」
「そうですよ〜。昔から付けてて。あ、日向くんって何センチなんですか?」
「僕ですか?僕は172cmですね。先輩は?」
「私は155cmですね〜あ、花蓮ちゃんにその話題は禁句ですよ?」
「り、了解しました......。」
何やらみぞおちがゾワゾワとしてきたけど、きっと気の所為だろう。気の所為であってくださいお願いします。
その後、たわいもない話をしながら、楽しい夕食は終わった。
「ご馳走様でした。」
「ご馳走様でした〜美味しかったです〜」
「いえいえこちらこそ。それじゃあ僕は―」
「え、もう帰っちゃんですか!?」
引き止めるように、美空先輩がそんなことを言ってくる。でも、もう夜だし、夕飯は作ったから、もう帰らないといけないんだけど......。
ぎこちない笑顔で別れを告げようとすると、桃さんが僕の近くに寄ってきた。え、なんで?
「も、桃さん......?」
「臭い」
「え?」
唐突に、突然に、なんの脈絡もなくそんなことを言われたらさすがに僕も傷つくんだけど!?
自分の匂いを確認しようとして気がついた。
待って。
牡丹さんも、梨花さんも今居ないんだよね?てことはあの無駄にデカい温泉を、僕が今から用意しないといけないってこと?
男の僕でも大変なあれを今から一人で?というかなんで小柄な梨花さんはすぐにできるんだ......。今度梨花さんの好物作ってあげなききゃ。
いやいや落ち着け花影日向。近くの銭湯とかやっていたはずだよね。
僕は慣れない手付きで家の近くの銭湯を調べると、そこには『定休日』の三文字が嘲笑うかのように書いていた。
え?現実?
僕は涙目を浮かべながら、状況を話した。
「あ、あの、えと、今からお風呂用意するのあれなので、えと、銭湯調べたんですけど、定休日で、ど、どうしましょうぉぉぉぉ!?」
「落ち着いて」
狼狽える僕に、冷静な眼差しで、低くそう言う桃さん。なんてしっかりしているんだ!
「え、あ、はい。すぅぅーーーーはぁぁぁぁ。ありがとう、ございます。」
深呼吸したら少し落ち着いた気がする。
「お風呂、湧いてる」
「え、でも」
「夕食作ってくれて申し訳ないので、そのぉ...日向くんが嫌じゃなければ、入っていってくれますか?」
上目遣いで可愛く言う美空先輩と、入る以外の選択肢をくれなさそうな威圧感を僕に向ける桃さん。まるで火と水だ。火が怖すぎるんですけど?本当に年下?
「そ、それじゃあすみません。お風呂入っていきますね......」
恥ずかしい気持ちを抑えながら、言ったけれど美空先輩が嬉しそうに笑ってくれるから良かったな、なんて僕は思った。
後ろでジト目な桃さんに、臭いと言われた傷は癒えてないですけどね?
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