第21話 視察授業ってなんですか? 5

「それで、普段の学校生活のあれはなんなんですか?」


 視察授業の期間が無事終わり、ようやくゆっくりとした時間が取れた部活動時間。珍しく部活動に顔を出している杠先輩と当然のように隣には座っている美空先輩に僕は疑問に思っていたことを口に出した。


「え、えぇと......」


 何やら言いずらそうな美空先輩とため息をつく杠先輩。そしてわけを話し始めた。


「色々と都合がいいのよ、あっちの方が」

「都合ですか?」

「そうよ、まず同じ趣味持ってるやつなんてほぼ居ないのよ。普通の高校なら分からないけど、ここお嬢様とかお坊ちゃま学園でしょ?だから普通はオタ隠ししながら通うのよ。」


 オタクという事を隠すとあんな感じになるのか。女性ってすごい。


「ま、あたしは演じれるけど、楓花は違うわね〜。人見知りで若干内弁慶だし、それでも寄ってくるやつはいるのよ」

「そ、そうだったんですか。」


 ミステリアスと言うよりかはどんよりとしたオーラがあったけれども、楓花先輩はそれでもじっと耐えていたんだ。


 でも、あれ、なんで僕に教えてくれるんだろ?僕もそのオタク知識というものを持ち合わせていないし......。僕がそう聞くと、楓花先輩はモジモジしながら僕に話してくれた。


「そ、その......私の話を聞いてくれましたし......こうやって......実際にやってくれるので......」

「?」

「居るのよ。遊んでみるわ〜とか読んでみる〜とか口では言って行動しないやつ。」


 まぁ自分の知らない世界に踏み出すのは怖いけれども、僕は知らない世界がとてつもなく多いんだけど、でも。


 あの時楽しく喋る美空先輩が僕の世界を広げてくれたんだ。


「でもまぁ楓花は特殊よね。普通そこまで心開かないわよ」

「い、いやでも―」

「チョロイン」

「チョロインじゃないですよ!!」

「ま、まぁまぁ。それで先輩達にこれ返しますね?」


 ずっと借りていたPAPを僕は返す。本当はもう少し触っていたかったけれども。


 というか自分のやつを買いたいと思う。なんかボタンが潰れてて非常に使いにくいだよねあれ。


「あら、もういいんですか?」

「これ以上やっていたら、他のことを疎かになりそうで......」

「わかるわ、もんのすごく、その気持ち分かるわ。

 試験勉強の前とかついついやっちゃったり、説明書だけ読んで満足しようと思うんだけど、どんどん読み進めたり、なんなら説明書開けたら違うゲームソフト入ってるから整理し始めちゃって夜遅くになるとか。」


 杠先輩からゲームあるあるが飛び出してきて、止まらない。それはそれは湯水の如くしゃべり続ける先輩。


 そんな事ってあるんだね。さんざん喋り通したあと、先輩はため息をつくようにいった。


「だから最近ネトゲもインできてないのよ。はぁ、デイリーとか色々やらないといけないこと多いのに...まったくもう......」


 やれやれと手を振る杠先輩に対して、僕と美空先輩は不思議な顔をした。なんで最近ネトゲに入れないんだろ?やればいいのに。


「なんでネトゲしないんですか?」


 小首を傾げる僕達を見ながら呆れたように言葉を口にする。


「だって、もうすぐ中間試験じゃない。はぁホントやになるわ」

「「え」」


 え、中間試験!?中間試験って言った!?


「美空先輩―」

「あわあああわああああくぁああわあわわわわわわ」

「先輩が壊れたー!?」


 何やら呪文のような事をうわ言のように呟きながら、青ざめている美空先輩。え、でも先輩って文武両道だったんじゃ?


 僕のそんな表情を汲み取ったのか、杠先輩が補足してくれた。


「いや、その子普通に馬鹿よ?」

「馬鹿って酷くないですか!?華蓮ちゃん!?」

「いや事実でしょう。」

「で、でも文武両道って噂じゃ......」

「あーあれね。運動はこの間見たけど、まぁそうゆうことよ。勉強の方はこの子普通に出来ないから。噂の独り歩きよ。」


 ええええ!?それで今までいい感じにできてたの逆にすごいことなんじゃない!?縋るように美空先輩は杠先輩の肩を掴みながら、懇願する。


「勉強教えてください〜!華蓮ちゃん〜!」

「嫌よ。生徒会でこの間の視察の件まとめないといけないし、普通に楓花に構ってる時間ないのよ」

「そんなぁ〜一人で勉強とか無理ですよ〜!!!」

「そんなに言うなら花影と勉強会すればいいじゃない?こいつもやばいんじゃないの?」


 名指しで言われて僕はギクリとした。確かに普段から勉強はしているけれども、視察授業とかモヌハンで最近勉強できていなかったし......。


 ハッ!だから本能が手を出しては行けないと告げていたのか。これ以上ゲームにハマるとやばいと。


 そんなことを考えている僕と変わって、美空先輩はその手があったかというような顔をしてる。


「じゃ、じゃあ...明日から...私の家で勉強会しませんか?明日から学校お休みですし......」


 え、先輩の家?え、え、え先輩の家?


 そ、それは僕の心臓が死んでしまうような気がしないでもないんだけれども!


 というか普通に図書館で勉強すればいいのでは?と疑問を口にしようとした瞬間、後ろの杠先輩が言葉を口にする。


「それに教科書わざわざ持っていくのもめんどくさいから、それがいいわね。私も行けそうなら行くわ。」


 あ、あああ。決まってしまう。このままでは先輩の家でのお勉強会が決まってしまう。何としてでも防がねば!


 あのご褒美の一件からか、僕は先輩を目の前にすると胸がドキドキしてまともに先輩の顔を見れないでいる。


「ど、どう...ですか......?」

「うぐっ......」


 潤んだ瞳と、上目遣いでそんなことを言われる。そんな先輩、ずるいですよ。そんなの......。


 僕は力なく首を縦に振るしか無かった。そんな僕を上から見下ろしながら、ニヤニヤとした表情の杠先輩。


 この先輩わざと言ったな!?僕は必死に睨み返し、そんな僕達の攻防を知らない美空先輩がぽわぽわとしながら嬉しそうに笑う。


「なら、なら一緒にみたいアニメがあるんです!楽しみに待ってますねぇ〜」

「勉強するんでしょうがッ!!!」

「は、ははは......」


 花びらを背景に浮かべながらそんなことを嬉しそうに言う美空先輩と激怒する杠先輩。勉強会の事を考え、今から大変な僕の心臓に僕は苦笑いを浮かべるしか無かった。





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