第20話 視察授業ってなんですか? 4
「それで、調理実習の内容は...っと......肉を使った自由料理!?」
各班に置かれたタブレットの中に、書かれた文字に僕は大きく驚くというか、なんなんだこの意味わからん指示は。
肉はまぁ分かるけど、調理実習で自由料理ってなんですか......。意味が分からないんだけど。
「調理実習じゃないじゃん......意味がわからないよ......うちの学校......」
「ま、まぁ気持ちはわかるわね......」
ぽんと置かれた可愛らしい手と、心底同意するような声色を僕に向ける杠先輩。
「んで、何つくんだ?日向」
「い、一応もうステーキぐらいしか浮かばないから......」
しかも肉は何故か分からないけどとても分厚い物が用意されている。文句を言おうかとも思ったけど、美しいまでの霜降りに何も言えなくなってしまった。
札束で頬を叩かれているみたい。
「なら、俺は適当に付け合せでも作るわ。米も炊かれてるみてーだし」
「日向くんは分かりますけど......翡翠くんも料理作れるんですか?」
「ああ、俺兄弟多いからな。一通りの家事はできるぜ」
そう言いながら僕達は制服の腕をまくるが、その様子に何やら青ざめた表情を浮かべた先輩達。
「もしかして私たちの女子力低すぎ......?」
「だ、大丈夫よ。まだ慌てるような時間じゃないわ......!」
静かな闘気を浴びた先輩達二人に、何やら嫌な予感がしているのは僕だけじゃないと、汗をかき始めた桜雅くんを見てそう思った。
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「日向くん、日向くん〜!火が、火がァ!!!」
「なんでフランベしてるんですか!?危なっ!!!」
「あら、お砂糖いっぱい入っちゃったわ?」
「なんで大さじ一杯を、袋いっぱいにすんだよ!?」
先輩が勝手にラム酒でフランベするし、杠先輩は調味料をドバっと入れるせいで、とんでもない味付けになりそうになるしで、僕達はその後処理に追われ続けた。
そうしてようやく出来たステーキの乗ったプレート。
白く干からびたような僕達とは対照的に、先輩たちは写真を撮って何やらキャッキャウフフと楽しげだった。
疲れたけど、美空先輩の楽しそうな顔を見れてよかったな、なんて思う。授業中はあんなにはしゃげたり出来ないと思うし、頑張った甲斐があったと思う。
もう本当に二度とごめんだけど......。本当に二度とごめんだけど。
でも、美空先輩は僕の目の前に笑みを浮かべながら来た。揺れるポニーテールと、エプロン姿が何とも表現しにくい高揚した感情になる。
忙しすぎて見れなかったけど、今の先輩はエプロン姿だった。綺麗な黒髪ポニーテールとエプロンの組み合わせって、教科書でも教えてきれない危険物なんだね......。
「一緒に食べましょ......?」
「そうします......」
僕達はその後楽しく調理実習で作ったものを食べた。
でもステーキより、味を調整するために作られた大量の付け合せでお腹がいっぱいになり、その後の弁当が食べられなかったのは言うまでもなかった。
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慌ただしい調理実習が終わった後、僕達は体操服に包まれ大きな体育館にいる。視察授業もそうだけど、いつも通りの授業だとすごく安心する。
僕のところはマンモス高校だということもあって、体育館もとてつもなく大きい。まぁここで全校集会とかやるし、当然といえば当然なんだけれども。
だから仕切りのような網が立ち並んでそこで学年が入り交じって体育も行われるんだ。
今まで気に求めなかったけど、僕の隣には美空先輩達のクラスがバレーボールの授業を受けていた。
「おい、そこージロジロ見んなよー。授業中だぞー」
先生からの注意を受けたうちの男子生徒がいそいそと、授業を受けに戻る。ちなみにうちではバスケが行われている。
僕?僕はそうそうに足を挫いて見学中です。まさかレイアップシュートが、あんなに危ないものだとは......。
保健室に行くほどの怪我でもないし、こうして皆のプレイを見てるけど、そういえば橘さんが美空先輩のことを話していたのが気になって、僕は隣のバレーボールを見てた。
文武両道っていうことは、運動もできるってことだよね。全然想像できないけれども。
あ、美空先輩のサーブの番だ。美空先輩の番になった瞬間、相手の目付きが変わった。
先輩は何やらブツブツと呟きながら、そのままサーブを―。
かなり低めの弾道で放たれたそのサーブ。相手コートの先輩達がサッと受け止めるような格好になった瞬間、バシィと大きな音を立てて、目の前に落ちた。
「お、ネットインだ......。」
ラッキーなのかな、とも思ったけど美空先輩は喜びもせず、またブツブツと呟きながらサーブを行った。
そうして同じようにサーブを繰り返して、やっとの事で相手側がボールを繋ぎ、得点に入った。
そうここまで、先輩はサーブのみで10点分綺麗に決めている。
どうゆうことなんだ......もうわけがわからないよ。
驚いている僕の顔を見つけた先輩は、パァっと顔が明るくなり手を振って僕の横まで小走りできた。
網をへだて、隣同士で座る僕達。
「日向くん、隣のコートだったんですね!」
「え、ええまぁ...そうですけど......。先輩さっきのは?」
「え?ああ、見てましたか、えへへ......」
先輩は照れたように笑う。そして体育座りで、顔を僕の方に向けながら話してくれた。
「ほら、私ってどんくさいじゃないですか。それにあんまし動きたくないので、あまり動かない動作は得意なんですよ〜。
漫画で読みましたし。あ、今度貸しますね?トンカチサービス」
「そ、そうなんですね......」
動きたくないからって普通あんな制度のサーブできないよね......?でもその運動神経が、先輩のあの噂に繋がるんだろうか。うーん、なんか本当に、大変そうだな先輩。
美空先輩のいないコートでは、優雅に飛ぶような杠先輩による強烈なスパイクで歓声が上がる。
「そういえば日向くんはバスケやらないんですか?」
「え、ああ。僕は足をくじいてしまって。まぁ自習みたいなものですし。」
「私達もです!なら、ここでお話していきませんか?」
僕は少しだけ迷ったけど、突き刺さる視線よりも美空先輩との会話を選んだ。その後、流れ弾のバスケットボールが顔面に突き刺さるまで楽しい会話は弾んだ。
バスケットボールの顔面直撃は、本当に痛かった。
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