第12話 お泊まりクエストってなんですか? 4

「ほえーここが日向くんのお部屋ですか〜」


 現在、先輩は僕の部屋にいる。梨花さんに借りたパジャマに身を包んだ先輩がぽわぽわしたような花びらを背景に先輩は楽しそうに僕の部屋にいる。


 食事の後、寝る準備をしたのでそのまま寝ようとしたら僕の部屋に先輩が来たのだ。


 そう先輩が。先程お風呂に入ったのに、汗が止まらない気がするのは気のせい?それともエアコンでもぶっ壊れたかな?


「そ、それで先輩どうして僕の部屋に......」

「あーそうそうそれです。この旅館でWiFiが飛んでることを把握したので―」

「え、うちWiFi飛んでるんですか!?」


 WiFiって飛ぶの?というかWiFiってなに?


「はい。さすがにネトゲできるほど強くは無いですけど、軽く動画程度なら多分見れますよ〜」


 そう言いながらポチポチとスマホを打った後、僕に猫の動画を見せてきた。


 せ、先輩が猫の動画を見せてくるという単純な行為だけでなんて言う破壊力......。


 じゃなくて。


「それで、日向くんLimeを入れようと思いまして」

「あーあの連絡取り合うやつですか?」

「はい、こっちこっち」


 先輩は僕のベッドの下の座ると、手招きしながら僕を誘う。先程見た猫の動画が霞むぐらいの状況に、僕は深呼吸してから隣に座った。


「ここのボタン押して......そうそれです。そしたら電話番号......そう、そうです。それで設定完了です!」


 意外と簡単に出来た!ホームにトーク画面とか色々あるけれども、うん、文明を感じる!


 スマホを買った時みたいに、同じように天井の電気に向けて喜ぶ僕の横で楽しそうに笑う先輩。


「それじゃあ交換しませんか?」

「へ?あ、そうですね。目的完全に忘れてました。」


 そう、僕は今日先輩とスマホを買いに来たけれども、それは連絡が出来ないと色々と不便だからという事だからだ。


 あまりの怒涛の一日すぎて完全に忘れていた。


「どうやってやるんですか?」

「ここ押して...バーコードが出るので私が読み取りますね。」


 ピコンと可愛らしい音がスマホから響くと、友達追加しますか?という文字と共に、女の子のアイコンが僕のスマホに現れる。


 そのまま追加のボタンを押すと、ピコンと音が鳴る。トーク画面に移ると、『美空楓花』と書かれた画面。


 そして名前の横の先程の可愛らしい女の子のアイコンの横に、スタンプを送信しましたと文字が書いてあった。


 トーク画面を開くと、そこにはキャラクターの上に『よろしく!』と書かれている。こうゆう感じでやり取りするんだ。


「せ、先輩。えっと......」

「打ち込んで返信してみてください」


 そう言われて、僕はスマホに目を落としながら必死に文字を打つ。初めて見る画面に、初めて見る文字の羅列で混乱したけれども、どうにかこうにか打って送信ボタンを押した。


 隣からピコンと音が鳴る。よかったぁどうやらちゃんと送れたみたい。


「ふふふ」

「え、なんで笑うんですか?」

「え〜だってぇ」


 指さされたトーク画面。そこには先輩が送ったアイコンの下に『よろしくおねかいしまず;』と誤字だらけの僕の返信が乗っていた。


「ああ、誤字が多いです!け、消します!教えてください!」

「いえ。このままでいいんです。このままで......」


 先輩は大切なものが写っているように、トーク画面を見つめている。

 その表情に、僕はドキドキとしていることが先輩に気付かれないといいけど。


 その後少しだけたわいもない話をしてから、先輩は自分の部屋へと帰っていった。


 僕がえもいえぬ感情を枕にぶつけたのは言うまでもない。


 ゆっくりと電気を消し、自分のベッドに横たわる。


 なんだか色々とな事が起きたような気がするなぁ。別に普通の人ならなんてこともないような事なんだろうけど、僕の人生の中では初めての体験が多かった気がする。


 疲れと静けさからか次第に瞼が重くなるのを感じて、もう寝てしまおうかと考えた時、スマホが鳴った。


「ん〜?」


 スマホに手を伸ばすと、そこには先輩からトークが飛んできていた。僕は寝転びながらスマホのトーク画面を開く。


『今日はありがとうございます』

『色んなことがありましたけど』

『楽しかったです』

『また、デートしましょうね?』


「えっ!って痛ぅ!」


 思わず驚いて顔面にスマホを落としてしまった。鈍い痛みに涙が滲む。


 もう絶対、この体勢でスマホを見るのやめよう!


『おやすみなさい』


 その後ピコンとスタンプが押された。僕はどう返信しようかと迷ったけど、なれないことだったから一言しか返せなかった。


『僕もです。おやすみなさい』


 すぐにその言葉に既読という文字が着いたのを確認してから、僕は瞼をゆっくりと閉じた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 んあ......はぁ...んしょっと...」


 窓から差し込む光に目を覚ます。背筋を伸ばしながら、昨日買ったスマホに画面を落とす。そこに書かれていた『11:35』という文字が!?


 え、もう昼過ぎじゃん!?やばい僕目覚まし時計かけるの忘れてたし、うわっ先輩帰ったんじゃ!?


 ボサボサの髪の毛も、着崩したようなパジャマも今は置いておいて、僕は急いで居間に向かうと、そこにはご飯を食べる使用人の二人と春香姉さんがいた。


 テーブルの上に乗っている人数分のカップラーメン。嘘でしょ、ちゃんとご飯をってじゃなくて!


「おはよう日向!何やら昨日は大変だったようだな」

「お、おかえり春香姉さん...っじゃなくて!美空先輩は?」

「朝には帰られました。」

「あああやっちゃったああああああああ」


 急いでスマホのトーク画面を開くと、そこには数件先輩からの返信が届いていた。


『気持ちよさそうに眠っているので』

『そのままにしておきました』

『学校で会えるのを楽しみに待ってますね』


 そんな言葉と共に、写真が1枚送られていた。それは寝ている僕のそばでピース姿の先輩の姿。


 え、ちょ、うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?寝顔を見られた!最っ悪だああああああああ!


 急いでお詫びの返信を送ると、すぐに既読が着いて先輩から返信が飛んでくる。


『わ、私も調子乗ってすみませんでした!!!』

『しゃ、写真は捨ててください!』



 すぅー......。


 僕は真顔のまま、梨花さんに写真の保存方法を訪ねて、スっとその写真を保存した。

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