第3話 ライトノベルってなんですか?

「日向!日向、帰ったか!」

「ただいまぁ、どうしたの晴香姉さん?」

「いや、誘拐にあったのかと......」

「もう僕高校生なんだけど......?」


 木造作りの門を開けて、石畳の上を歩きながら玄関を開けるとそこには、焦ったような晴香姉さんの姿があった。


 花影晴香はなかげはるか。僕の姉で、今はこの花影の現当主という立ち位置だ。


 暗い銀髪のロングヘアー、豊満な胸を顕にしながらワイシャツだけの姿で仁王立ちしている。


 身内の僕からはよく分からないが、こんな姉でもかなりの人気があるらしい。それはさっぱりとした性格に合うようなキリッとした顔立ちとそのスタイルのお陰だろうか。


 僕は家の事とかよく知らないし、飛び級で海外の大学を卒業するぐらい頭のいい晴香姉さんに家の仕事とかは任せている。


 誤解のないように言っておくが、僕の家はこの土地一帯の地主だ。地主は複数いるらしく、違う家と連携して仕事や業務をおこなっているらしい。


「やはり毎朝と帰りは車で送った方が......」

「いや朝は桜雅くんやもち丸くんが居るから大丈夫だし、今日は色々あって遅れただけだよ?」

「む、もち丸は分かるが桜雅も受かったのか。ふっ、それなら朝は大丈夫だな!」


 僕達には両親が居ない。その代わり祖母と姉と使用人でこの大きな屋敷に住んでいる。


「まぁいいや。それで夕飯食べた?今朝、冷蔵庫に入れて置いたから、レンジで温めれば食べれるけど。」

「ふむ、私もそうしたいのだが、レンジが爆発した」

「......は!?」


 僕はその言葉を聞いた瞬間、靴を投げ捨てるように脱ぐと、急いで台所へと向かった。


「日向坊ちゃんお帰りなさいませ。」

「あ、ただいま」

「日向坊ちゃん〜台所がぁ〜」

「ただいま!わかってる!」


 使用人達に挨拶を軽く済ませながら、僕は台所へ足を踏み入れた。


 そこは......地獄であった。


 電子レンジは爆発し黒煙をあげているし、包丁は壁に突き刺さり、食材は見るも無惨な姿でまな板の上で、その短い生を終えていた。


 そんな台所で、煙管を吹かす老人が一人。


「お、お婆ちゃん?」

「あら、帰ったのかい日向。おかえり、これの後始末よろしく」


 つかつかと上質な着物を来た僕の祖母が台所から逃げるように出ていった。


 祖母の花影雫はなかげしずく。もう還暦は超えているだろうに、一向に耳は遠くならないし、鷹のように目はいい。今日も煙管を吹かしながらどこ行く風だ。


 僕が台所で立ちすくんでいると、申し訳無さそうに晴香姉さんが追いついてきた。


「そ、その色々手を尽くしたのだが......」

「と、とりあえず今から僕が作るから......」

「わ、私もなにか―」

「晴香姉さんは座っていて...いいね......」

「ヒ、ヒェ......」


 静かに燃え上がる僕の怒りを感じたのか、晴香姉さんは今にも泣きそうな顔で帰っていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 和風な居間に立ち並ぶ天ぷらや炊き込みご飯達。僕の家族と使用人が一緒にご飯を食べ進める。


 この家では、全員でご飯を食べる。数少ない花影家の家訓だ。


「それで、どうしてああなったの?」


 僕は無惨な姿になった食材達のかき揚げを食べながら、聞いてみた。


「いやな、冷蔵庫にあるものを温めようとしたんだが、それじゃ芸がないと思ってな。卵を人数分入れて一緒にチンしようとしただけだ。」


 お吸い物を飲みながら、晴香姉さんはそういう。


 うん、姉さんそれ一番やっちゃいけないことだからね......。


 一応まだ生存していた電子レンジは、僕が蘇生しておいたけど。まぁ期待はしていない。


 僕は料理が一応得意だ。この家は基本的な収入は地主の仕事で得ているらしいが、膨大な土地だ。それを利用して旅館のようなものもやっている。


 まぁ大体長期休みにしかお客さんは来ないけど、そのご飯は僕が作ることになっている。


 晴香姉さんは栄養が全部頭と胸にいってるから手先が不器用だし、お婆ちゃんは焼けばなんでも食えると思ってる。


 使用人の梨花りかさんはお掃除とか裁縫担当だし、牡丹ぼたんさんは滅多に料理を作らないというか、僕の指示を全く聞かない。


 なので、何故か僕が料理担当となっている。


 本当に良かった、一応保険にかけていた炊き込みご飯の炊飯器を破壊されなくて。


「まぁ毎度のことだからいいけどさ。次からはどう作り置きしよう......」

「日向坊ちゃん、頑張ってください。」

「牡丹さんは状況を楽しまないで、料理作ってください。」

「嫌です。」


 肩まで伸びる明るい銀髪の髪の毛、キリッとしたつり目にどこか日本人離れの端正な顔立ち。


 どうやらどこかの国とのハーフらしいが、牡丹さんはあまりその事を話したがらないから僕も聞かないでいる。


 仕事はすごくできるのに、僕をいつもからかうような事ばかりしか言わないのが玉に瑕だ。


「はぁ...ご馳走様。僕もうお風呂入って寝るから。」

「あら、もういいのかい?」

「うん、やる事あるし、今日一日で疲れた。お婆ちゃんも食事中は煙管我慢しなよ」


 そう言い残して僕は食卓を後にした。ゆっくりと大きすぎるお風呂に浸かったあと、僕は先輩から借りた小説に目を通す。


 初めて見るような文章というか、変に読みやすくて触りだけ読むはずが、しっかりと文章を追っていく。


「意外と面白いな。特にこのタイムリープ?初めて聞く単語だけど、僕にも分かるような文章だし......。」


 ペラペラとページを進めながら、僕は今日あったことを頭の中で、思い出していた。


「面白かったなぁ先輩。明日からお話できるのは嬉しいけど、ついていけるかなぁ。」


 ゆっくりと浸かったおかげか、体の芯から疲れが滲み出している気がする。偶然とはいえ、今日は色んなことが起きたし、初めて触る世界も多かった気がする。


 明日からどんな毎日になるのか少し僕は楽しみな気分になってくる。


 1巻を読み終え、自然と2巻に伸びる手をそのままにするか、止めるか迷ったけど、僕はそのまま二巻目をとったのだった。



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