グルーヴのあとで

春嵐

01.

 グルーヴのあとに訪れるのは、いつも、寂しさ。


 ずっと、そうだった。


 たぶん、これからも、そう。


 ずっと、街を守ってきた。たまたま、格闘とか、戦う方の才能を持って生まれた。女のくせに。自分でも、思う。


 女のくせに、強い。


 華奢な身体。女の顔。長い髪。しかし、無駄に強かった。


 顔はいいほうだと、自分でも思う。それでも、男は寄りつかない。自分より強いものには、なびかないのだろうか。


 男から敬遠されるので、若い頃は不良のグループに入れなかった。学校では普通の女の子をやって、帰ってから着替えて。フードを目深に被って、不良のグループやわるそうな賊を見つけ次第、ぼこぼこにした。容赦なく。徹底的に。


 そういう、強さの認められる世界に生きたかった。


 でも、女だから。許されない。


 学校を卒業するとき、街に不良や賊はいなくなっていた。


 拳の振り下ろす場所がなくなって、つらかった。そんなとき、たまたま、賊がいなくなって用心棒を欲しがっていた商店街に雇われた。


 フードを目深に被り、街を見て回る。


 何か異状があったら、警察を呼ぶ。そして、警察が下調べをして、その段階で立件できるものは警察が処理して、そうでないものは私がぼこぼこにする。


 そうやって、日々の欲求をしのいだ。


 殴れれば、なんでもいい。


 最近、踊ることの楽しさを、みつけた。街のダンスフロア。夜になると、若者が集まって踊る。夢も希望も娯楽もない街だから、若者は諦めるか踊るかしかない。


 踊っている間は、少しだけ、自分のことを忘れられた。


 ダンスフロア。


 もう、閉店している。


 ひとり。おかしなやつがいた。


 すごく、隙がない。強そう。だけど、何か違う。強さを誇示していない。どちらかというと、隠しているような。そんな感じがする。


 どこかで見たことがあるような気がするけど、思い出せない。


 とりあえず、後を追った。一応、警察にも連絡しておく。


 警察は自分が学校にいるとき内部浄化を行ったので、有能かつ勤勉な人しか残っていない。地方の警察なのに都会並みの練度なのは、この街だけだろうと、思う。稽古もかなりつけた。


『付かず離れずで見ています。ご無理なされませんように』


「ありがとう」


 通信を切って。相手のほうを見る。


 いない。


 目の前。


 飛んできた足を、肘と膝で受ける。掴めば投げ飛ばせたけど、その前に足が引っ込んだ。


 腕が伸びてくる。それに、自分の腕を交差させる。お互いに、右で打って、左で止めた。


 跳び退って、対峙。


「おどろいたな」


 相手が、フードをとった。整った顔の、男性。


「女性とは。それも綺麗な」


 自分のフード。気付かないうちに、目深に被っていたものをあげられていた。顔が、見えてしまっている。


「たったひとりで街を守ってきたのか」


 答えなかった。


 かなり強い。


 言葉を聞いている暇は、たぶんない。


「今日は帰ります。明日、またダンスフロアで」


 それだけ言い残して、消えた。


 屋根まで跳んで走っていったのだと、少しして気付いた。


「女のくせに」


 あの男。


 そう言ったか。


 次会ったら、ぼこぼこにしてやる。

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