第21話 親子揃ってモテモテ?

「遅刻じゃん!」

やっべえ…完全にアウトだ。時計はもうすぐ正午になろうとしている

「俺としたことが朝っぱらから盛ってしまった…」

雰囲気に流されてしま…いや、ケモノが4匹放し飼いされているんだ。俺のせいではないな、事故だと思おう


「若いっていいねー」

「あほう! 元凶のお前がゆーな」

ポスンと枕を投げる

「いったーい! シュウ、やったなー」

「おーっと、当たんない…

「きゃあっ?!」

俺が避けたので真凜に当たった


「大丈夫かっ?!」

「イテテ…」

「真凜ちゃん凄い格好だねー」

尻餅をついて大股開き…大事な所がモロ見えだ


「修さんひどいです」

「えっ?! 俺?!」

投げたフーコが悪いんじゃねーのか?

「避けたシュウが悪い!」

「なんでだよっ」

避けるだろ普通。キャッチボールしてんじゃねーからな


「はいはい、みなさん。そろそろ食事が来ますよ」

パンパンと蜜葉が手を叩く

「飯? いや、飯を食べる暇ねーぞ」

半日も遅刻してるんだ。少しでも早く出勤しないと…


「あ。修様、それは大丈夫です」

「大丈夫?」

「はい。村田さんには電話してありますから」

「いつの間に?」

「寝ていらしてる時に。あと今日から事務所の方が準備で忙しくなりますので、会社の方へは出勤できないと伝えました」

…手際が良すぎるな。自分で秘書を買って出るだけの事はあるか


"ピンポーン"


「食事が来ましたね」

「あ、俺が受け取るよ」

「任せたー」

「「すみません」」

「ありがとうございます」


『いや、気にすんな』と言いながら、食事を取りに行く


「うわー…。5人分ともなると量がすげーな」


昼だけどモーニングを頼んだらしく、パンにサラダ、目玉焼きにウインナー。それにヨーグルトと飲み物がどっさりと…

「修、あんたやるじゃないか」

「…いきなりだねおばちゃん」

しゃがんだおばちゃんと目が合う。いや、一応俺も客だし、顔を見た・見せたらダメだろ!

……

「はいこれ、差し入れ」

おばちゃんから紙袋をもらう

「お?なになに? ありがとおばちゃん」

袋を開けると、1日1本厳守のきっつい精力剤が沢山入っていた


「……死ね、と?」

これ何本あるんだろうか…


「修、女の子に恥をかかすんじゃないよ」

「もちろんだ。どちらかと言えば俺が毎回、恥をかいてるからな」

「それならいいわ」

俺ならいーのかよ…


「しかしあんたモテモテだね。そういう所は仁(ひとし)に似たのかねえ…」

『全く、親子揃って』とおばちゃんはブツブツ独言る


「へー。父さんモテたんだ」

俺が生まれる前の事は聞いたことないし、話してもくれなかった。まだ俺が子供だったからかもしれないが。


「そうよ。仁はモテモテでね。いつも女の子が側にいたわね。さすが勇者だけあって、王女様からも慕われてたわ。…本人は『勇者とは、勇気を持つ者だー』って言う割に夜の…アッチの方はヘタレでね。あんたは違うみたいだからホッとしたわよ」


おばちゃんは『あのヘタレチェリーが!』とご立腹。なんか変なスイッチが入ったらしい


「ん?勇者って?」

ちょっと気になる言葉が出たぞ


「?! い、いや…なんでもない。

あだ名、、そう、あだ名よ」

「あだ名かあ。父さん中二病だったんか」

それはイタイ。生きてればそれをネタにからかったかもしれないなあ


「さ、冷めないうちに食べなさいよ」

トレーを置いたおばちゃんはそそくさと帰って行く

「ありがとねー」


たぶん聞こえてないだろうがお礼を言い、てんこ盛りのトレーを持ってみんなの所へ戻った



「オレンジー」

「ほい」

「コーヒーを」

「あいよ」

「同じく」

「たぶんコレだな。ちょっと濃い目だ」

……

「ジャムある〜?」

「あるぞ」

「私も欲しいです」

「さおりん、パース」

「ありがと風ちゃん」

「私も白いジャムを…」

「出さねーし、やらねーよ。つか、蜜葉黙って食え!」


ラブホではあるが、最近の朝食風景だ。


「……」

「真凜どした?」

俺たちを見ながらパンをかじる無言の真凜が気になった


「みなさん凄く自然…。なんだか家族の様な雰囲気です」

まー、いつもの事だし。家族は言い過ぎにしても、自然にこうなるのは不思議じゃないな


「真凜ちゃん、違うよー。夫婦だよ?」

「一夫多妻ですけどね」

「私は愛人枠の方が…」

「お前たちっ、一言余計だ!」

「ははは…」

ほらー。真凜ちゃんちょっと引いてんじゃんか


「真凜ちゃんもね、この中に入ってるんだよー」

「そうです。遠慮なんて不要ですわ」

「中に挿れるものはアレしかないですし、マスターも遠慮なさらずに…

「蜜葉!お前だけさっきからズレてるぞ!」

このエロメイド、フーコよりグイグイくるな


「はいっ。みなさんお願いします!」

かじりついていたパンを置き、ペコリとおじきする真凜。再びあげた顔を見ればジャムが頬についている


「あらあら」

「そういう所が可愛いですね。妹ができたみたいです」

「真凜さん。口周りを汚していいのは白いジャ…

「お前、ちょっと黙ってろ!」

口を開けばエロしか出てこない蜜葉の口にウインナーを突っ込んだ

「まったく…。飯を食べてる最中でしょーがっ」

「マスターのと比べたら、全然物足りませんね」

ウインナーをポリポリごっくんした蜜葉が澄ました顔で言う


「…。放置だな」

「プレイでしょうか?」

ちげーよ。このままいくと、食べ終わった直後に開戦しそーなんだよ。そんなん体に悪いだろーが!


蜜葉を睨みつつTVをつけた


「火事か?」

「ですね」

「ライブ中継だー」

「て事は、まさに今燃えてる?」

「そうですね。ビル火災ですが、周りに家が無いのが幸いです」

「なんか金融関係のビルみ…ん?」

俺のスマホが鳴った


「正義か。どした?」

アイツからかけてくるのは珍しいな


『兄貴、今TVで火事の中継やってんだけど、観てる?』

「あー。燃えてるな」


『兄貴の依頼こなしたよ』

「あー。それがこれか」

『人がいない時を見計ったから、怪我人とかは出てないと思う』


「うん。よくやった! やれば出来るじゃないか」

『だろ? 俺が本気を出せばこんなもんさ』

「実行はお前じゃねーだろ」

『…バレた?』

「当たり前だ。ま、どっちにしろこれで一件片付いたな。正義助かった、サンキューな」


『あ、兄貴が礼を言った?!』

「バカか?お前は俺をどんな人間だと思ってるんだよ」

『え? 人じゃないよね?』

「人間だよ! …まあいい。TV観るから、それじゃーな」

『りよーかい』


"プツ…"


「さーて、じっくり闇金の最後を見るとしようか」


☆☆☆


「危ないですから下がって!」

消防士から下がれと言われる野次馬たち


「そこの人! 規制線より入らないでっ」

規制線の内側に入ろうとしたチンピラ風の兄ちゃんが止められる


「やかましいっ。燃えてるのは俺の事務所なんだよ!止めんな!!」

「危ないですから絶対許可できません!」

「じゃあなんで、あの小僧はあそこにいるんだよ!」

兄ちゃんが指差して消防士に怒鳴る


「あの方は関係者です」

「なんのだよ!」

軍手をはめ、火バサミでゴソゴソ何かしている小僧。

小僧というほど子供ではないが、よく見れば高校生ぐらいか、見た目は女の子の様な可愛らしさがある男子だ。


「あっつ!」

「ご主人様大丈夫?」

「ちょっと火が強いかも。トイガー、悪いけど消防士さんたちに少し多めに水をかける様に言ってよ。それとラグドール、タマに追加で持ってきてって伝えてね」


少年は外人のお姉さんたちに指示を出す。お姉さんからご主人様と呼ばれていたが、どんな関係なのだろうか…


「「りょ」」


「頼んだよー」


火バサミを持ってゴソゴソする少年

額の汗を軍手で拭う姿は職人だ


「ご主人様、追加分をお持ちしました」

爆乳の外人さんが何か持って来た。見れば大小様々な大きさの、アルミホイルに包まれた何かを持っている


「ちょうどよかったよ。こっちは、今できたみたいだからね」

「じゃ、入れ替えますね」

黒ずんだアルミホイルの塊を取り出して、新しいモノをドバドバ入れる爆乳さん


「消防士のみなさん、出来たよー」

少年は絶賛消火活動中の消防士たちに手を振った


「?! 一旦放水中止!」

「放水中止!」

「放水中止!」

隊長さんが中止を叫ぶと、隊員達は連呼する


「ちょ?! なんで止めるんだよっ」

これにはチンピラモドキも驚いた


「各自手を洗え! 1人一個だぞ」

「「了解!」」

厚手の革手を外し、水圧を弱めたホースの先で手を洗う隊員達


「いい感じに出来てるな」

「あ? 隊長ズルい! それ、じゃがバターじゃないですかっ」

「早い者勝ちだ」

「だから俺らに手を洗えって言ったんですね?」

「作戦勝ちだなー」

隊長含め、隊員達が手にしたアルミホイルの中身は焼き芋だった


「あんたら! 焼き芋食ってる場合か?!」

チンピラモドキは怒鳴る

「冷めたら美味しくないだろ?」

至極もっともな答えが返ってきた。

消防士たちは『うまいなー』とか『お前の方がデカくね?』とか、和気藹々に芋を食べている


「あ…ああ…。契約書や極秘書類が…」

膝から崩れたモドキ。と、そこに

「よかったら、あげるよコレ」

少年は焼き芋をモドキに差し出した


「…くれるのか?」

「うん。あげる」

モドキは焼き芋を受け取ると、一口かじった


「うまい…」

「そう?」

思わず口から旨いと洩れる。それを皮切りにモドキはポツリ、ポツリと語り始めた


「俺の仕事はな…人を騙してなんぼなんだ…」

モドキは自分のしている仕事が悪いことだと少年に話す

「うーん、なるほどね。でも分かるよ僕」

「そう、、か」

「キャバクラのお姉さんたちも、胸を盛って男を騙してるからね」

『あれ、触っても分かんないんだよねー』と少年は言う


「いや、そういう事じゃないんだが…。まあ…汚い仕事をしているとな、いつかソレが自分に返ってくるんじゃないかと…考えたら夜も寝れなくなるんだよ」

「分かる分かる。溜まっている時、授業中に睡魔が襲ってきても、夢精したらどないしよ?って考えたら寝られないよね

ま、ネコたちが搾りとっちゃうから溜まらないんだけどね僕。」


「……。町を歩いても捕まるかもしれないと思ったら、怖くて周りが敵にみえるんだ」

「大丈夫。全裸で町を歩いても捕まらないんだよ?アイツらヌルイからね」


「………」

「どうしたの?おじさん、泣いてるの?」


そう言われ、モドキは頬に手をやると初めて自分が泣いているのに気が付いた


「…芋が旨くて」

汚い仕事をしている自分に対し、少年が優しく接してくれたからなのか、自分の胸の内を話して気が緩んだからなのかは分からない。

分からないが、モドキは恥ずかしくて芋をだしにした


「そっかー。でも、半分腐ってるよソレ」


「……………。」


モドキは号泣した



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