第9話 俺の仕事が…

朝食を食べに食堂へ来た


デカいテーブルには、元就さんと伽耶さんの姿はない。2人とも朝が早いのだろう

その代わり正義が朝メシをがっついている


「正義、そんなにがっつかなくても朝食は逃げんだろ?」

慌てて食べることなんかねーな

「兄貴、それがさっ、俺…昨日の昼からメシ食べてないんだよね…」

「……」

悪い正義。間違いなく俺のせいだソレ。


「和食、洋食、中華どれになさいますか?」

まだ二十歳ぐらいのメイドが、そばにやって来て俺に聞く

フーコや沙織にもメイドがついている…ん?

「なんで蜜葉さんにもメイドさんがついてんのっ?!」

メイドがメイドに…おかしくね?


「総長ですから当然ですね」

と蜜葉は言う

「そうなん?」

蜜葉さんの答えを、答え合わせするかのように若いメイドに問う


「当然です」

どうやらオレが間違えていたようだ


「何になさいますか?」

「じゃあ…ようし

「中華でっ!」

「かしこまりました」

「なんでだよっ! ちょっ…と…」

俺の朝食を勝手に決めたフーコ

メイドは俺の"ストップ、ちょい待て"を聞かずにサッと消えた


「フーコ! 朝から中華はないだろっ」

トーストとコーヒーだけで十分だ

「あのねシュウ。私たち体力を凄く使ったの!

中華でも食べなきゃ、体がもたないよ?」


『私たち体力を凄く使ったの』だと? 俺は知らんし…というか、寝てる俺の体力を勝手に使ったんだろ?お前たちがっ!


「修様、風ちゃんの言う通りです。カロリーをとりましょう」

む?…沙織がそこまで言うなら…

「そうだな。中華もたまには良いか」


そうこうしていると… 俺の前にどっちゃりと、(フルメニューかコレ?)中華料理が並ぶ

「こっ、これはまた…半端なく大量だ…な」

俺の前に置かれた料理を見渡していると、パンをカジっているフーコと沙織が目に留まる


「ちょっと待ったー! お前たち、ついさっき言ったよな?! 中華を食べなきゃって!」

人に中華食わさせて、自分たちはトーストかっ


「誰が、私たちが食べるって言ったの?」

フーコが『私は言ってないよ』と言う

「沙織…沙織はカロリーをって

「カロリーとれば良いかな?ぐらいでしょうか。私が言ったのは」

…確かに言われると、そうとれなくもない


「だが…コレはあまりにも量が…

…正義くん。キミ、お腹が空いてるってさっき言わなかったかい?」


「へ?!」

『なぜ僕に振るの?』みたいな顔すんなって

「正義、漢なら分かるな?」

「…女でもいいです」

……

「貴様、裏切ったな?! …よーし分かった。女でいーのか、そーかそーか。

今すぐ貴様の粗末な竿を出せっ!ちょん切ってやる!!」

「どーぞ、どーぞ」

ノリで正義が出そうとしたその時


"カッ"


「ひぃっ?!」

フーコの皿の横に置かれていたはずのナイフが1本消えていた。そして、正義の頬に赤いラインが入る

どうやらナイフが正義の頬を掠めていたようだ


「ジャスティス、汚いモノを見せようとすな!」

ご立腹されているフーコさん

「あ、姉サン酷いっすよ! 何もナイフを投げなく


"カッ"


「ひぃぃ!!」

沙織の手にしていたナイフも消えた

そして反対の頬にも赤いラインが入る

「手が滑りました。ごめんなさい兄さん…チッ」

言葉は謝っているが、全然謝る態度ではなかった


「沙織っ!腕をフルスイングして、滑ったとは言わねーぞ!」

妹にもやられて頭にきた正義

お前、素直に謝って静かにしといた方が…


「何? 急所を狙って欲しいの兄さん?」

沙織が2本目のナイフを手にした

「違う!誤解だ。そうじゃなくて、ナイフは投げるモノじゃないんだよ! …ですよね兄貴っ」

正義が『僕を助けてー』と泣きついてきた


「バカだなぁ正義は。ナイフは投げるモノじゃないか」

「ちょ?!兄貴、何を言って…

「ほら。コレ見てみ?」

沈黙の男、セガールさんがナイフを投げている動画を見せる


「ちがっ、ナイフの種類が全然ちがーう!」

細かいことゆーなよ。ナイフはナイフだろ?

ご立腹中の女性2人を相手に出来るほど、俺は強くねーからな?


「そう言う訳だ。正義、頑張れよ」

どさくさに紛れて料理を正義の前に運んだ俺は、肉まんらしき物を咥えて席を立つ

「ちょ?! 俺1人じゃ食べれないって!」

泣きが入る


「正義、頑張らないと…昼も夜も、その中華だぞ?」

残してはバチがあたる…正義に。

「嫌だっ! 昼はあっさり、ザルそばが食いたい」

「お前なー。蕎麦も中華も同じだろ? 凄く広い意味で」

「広過ぎっ! 料理ってぐらいしか繋がりなくない?!」

「どっちも箸で食べんだろ?」

「そりゃそうだけど! コッテリは嫌ーっ」

うっせえな。お前が頑張らないと、俺に戻ってくるじゃんか


「蜜葉さん、正義の箸が止まる度に指折って」

「お任せくださいマスター。全部へし折ってやりますよ!」

「酷っ!!」

別に酷くはない。料理を作ってくれてる人たちに、感謝の気持ちを忘れようとするお前が悪い


「じゃ、俺仕事あっから」

『あー、いかんいかん。オヤジに怒られちまう』と大声で呟きながら食堂を出る



「兄貴のアホーっ!」

「黙りなさい!」

"ポキ"

「ぎゃぁぁぁあ?!」

「蜜葉、全部折ってしまいなさい」

「みっちゃん、やれー」

「やめて!本当にやめて!!」



…全部折ったら食べれんだろ?

正義、ドラ○もんになる前に完食出来たらいいな。



◇◇◇



「みんな、すんませんっ。遅刻しました…

   ……あら?」

数日見なかった間に、仕事がおそろしく進んでいた


「先輩ーっ。もう仕事出ても大丈夫なんすか?」

俺を見つけたミノルがやって来た

「全然大丈夫だ。遅くなってすまん。しかし…随分と捗ってんな」

「備前グループより応援が来ましたからね」

「そういや、そんな事言ってたな」

「応援というより正規雇用になりそうですけど」

「は?人員増やすの? …仕事が楽になるから嬉しいが…。でもよ?人が増えたら困らないか?」

期限ギリギリは拙いのだが、あまりに早く仕事が終わっても拙いのだ。要はペースを守って良い仕事をする、これが1番である

それに仕事量に対し、人件費が高くなるのは良くないことだ


「大丈夫っス。今回は5人来てもらってますが、次から3人になるそうっスよ? で、先輩は相談役になるみたいっス」

「ちょっと待った! 相談役ってなんだよ?」

「言葉通りっス。いろいろ相談されて、それを解決するのが仕事?になるとか…」

いろいろ相談されるってお前…

「俺、現場から外される?」


「来たかオサム。俺から詳しく話そう」

「「オヤジっ?!」」


ぬっと現れたオヤジ。遅刻した俺を咎めようとする顔ではなかった


「オサム、会長より先程、感謝の言葉を頂いた。俺は詳しくは聞けなかったが、沙織お嬢様の件だとよ」

「ああ。なるほど…」

体のことか。もうバレたみたいだな


「でだ…お前をいち作業員として働かせては、『社会的損失が大き過ぎる』と会長に言われてな。じゃあ、どうしようかと考えていると『相談役にせよ』だとよ」

相談役…か。備前家の黒服共も言ってたな

まさか相談役のポジションがココでも?


「オヤジ、そもそもいろんな相談って何なんで?」

クレームや苦情の対応なんか俺に出来るとは思えない

「そりゃ会長に聞いた方がいい。何かは知らんが…オサムにしか出来ない事って言っておられたぞ?」

…俺にしか出来んこと?

まさかっ?!


「…女性云々言ってませんでした?」

「知らんっ」

「そうですか…。じゃ、直接聞いてみますよ」

「それがいいだろう。あ、それと近々お前専用の事務所ができるそうだぞ?」

「事務所?! オヤジ、俺…オヤジの所の社員ですよね?」

「……」

「何で無言なんですか!」

オヤジんとこで働きたいんだよ俺は!


「なんとか言ってくださいよっ」

「……世の中にはな、どうにもならん事がいっぱいあるさ」

「そんな…」

「まあ、気を落とすな。相談役として、そんなお前に専属の秘書がつく」

「秘書?…別に要らないと思いますが?」

そもそも、まだやると決めた訳ではない。それに魔法のオイルの事は隠しておきたいし。

まあ、後ろ盾になってもらおうと思えば…ある程度は仕方ないのかもしれないが


「秘書は断れんぞ。なんせ、沙織お嬢さんだからな」

「はあっ?! なんで沙織なんです?」

お嬢様だろっ!秘書の仕事とかする必要ないだろーが


「世間勉強だとよ。お嬢様として家にいるんじゃ、確かに世間の事は分からんよな」

「それはそうですけど…」

「まー、会長が『気楽にやりなさい』っておっしゃってるんだ。気楽にやってみてはどうだ?」

『気楽に』ってね…内容が内容なだけに、気楽にやれないから困るんだよ


「お前の事務所はウチの近くに出来るみたいだし、暇な時は遊びに来ればいいさ」

「オヤジ…。分かったよ、事務所ができるまではここで働くから」

「ああ、それで構わん」

ニヤリとオヤジが笑う



「はー…。面倒臭いことになりそうだなぁ」


俺は雲が覆う空を見上げて呟いた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る