第4話

 海原と共に昼飯を食べた後は午後の授業。

 とは言え先生の話を教科書を開きながらぼーっと聞くだけで時間が過ぎていく。

 そういや隣の海原はどうしてんだろうなんて思いながら、横目で海原を見ると悪びれる様子もなく小説を読んでいた。

 よくもまあそんなに小説を読めるなと関心していた。

 漫画なら読むが小説は滅多に読まない。

 読んだとしてラノベくらいなものであり、純文学などは読む気も起こらない。

 海原はなに読んでんのかなって思った。

 放課後にでも聞いてみようかなんて考えていた。


 *


 ホームルームも終わり放課後。

 俺はさっき考えていたことなど忘れとっとと帰宅の準備をし、いち早く教室を出た。

 昇降口を抜けて自転車小屋。

 今日のホームルームは他のクラスより早く終わったのか、人気はなくガランとしていた。

 取り敢えず今日もさっさと帰ろう。

 妹はどうせ部活だし、両親は仕事で居ないからバイトのない日はいつも1人で家で留守番だけど。

 家に着き、ただいまと言っても誰からも返事がない。まぁ当たり前だけど。

 暇な時間をどう過ごそうか考え、勉強する気にもなれず、ベッドに寝転びながらスマホをいじっていると、眠くなってきた。

 そのまま睡魔に逆らわず眠ってしまった。


 *


 どれほど時間が経ったのか、ようやく目が覚めた。

 外は既に真っ暗で、部屋も真っ暗のはずだったなのだが、何故か明るかった。

 寝る前付けっぱなしで寝たっけ?

 そんなことを考えていると突然声が聞こえた。


「おはよう」


 妹の声ではない。

 学校では絶対に聞かない、でも家ではよく聞く声が聞こえた。


「まだ寝ぼけてんの? 早くしないとご飯冷めちゃうよ」


 山吹渥美だった。

 こいつの家は俺の家から徒歩5分程の場所にある。また渥美は母親のみの片親である。

 何時だったか急に渥美の父親を見なくなった時があり、その時母親に聞いたら離婚したと聞かされた。

 幼かった為に離婚とは何かわからなかったが、もう渥美の父親とは会えないと聞かされた。

 その後渥美の母親は渥美を育てるために頑張って働いている。

 そのため渥美の母親はいつも仕事の帰りが遅く、渥美はいつも、夕御飯はうちで食べている。


「おばさんも悠ちゃんも待ってるんだからはやくね」


 そう言って部屋から出ていった。

 いつもの通りきつい言い方だよなー、なんて寝ぼけ眼で考えながら、リビングに向かう。

 ちなみに悠というのは俺の妹の及川悠(おいかわはるか)である。

 悠も陸上をやっていて、今年は高跳びで全国は固いと言われている程の選手。

 髪は綺麗な黒髪で肩から20cm程下の長さ。

 海原程ではないにしろ、渥美よりは長いという具合だ。

 勉強もできて完璧。

 身長は167cmって言ってたっけ。女子にしては背が高い。

 ちなみに渥美は165cmとか言ってたから渥美よりも高い。

 やはり身長が高いと跳躍は有利ということなんだろう。

 いやー、全国選手が俺の周りに何人も居るとか凄すぎだな。

 顔は実妹故に可愛いなどとは思ったことないが、渥美曰くめちゃくちゃ可愛いと。

 目はぱっちりで、小動物系との事。

 なんで信の妹がこんな可愛いの? と。

 そんなに言わなくても……

 そりゃあ俺は美形でもイケメンでもないけどよ。

 兄貴はイケメンで、悠は可愛い。

 なんで俺だけ……

 というのが俺の妹こと及川悠。

 リビングに行くと既に食べる準備が整っており、俺待ちの様だった。


「信兄早く! お腹減った」

「わりーわりー、寝てた」

「やっぱり! それよりも早くいただきますしよ、お母さん」

「そーね。じゃあいただきます」

「「「いただきます」」」


 今日は母さんいるんだと思いながら、みんな一斉にいただきますをして食べ始める。

 今日の夕御飯はトンカツだった。

 俺は寝起きとは思えない程ガツガツ食べていた。

 すると向かいに座っている悠が話しかけてきた。


「信兄、毎日早く帰ってきて、寝てるかケータイいじってるか、漫画読んでるだけで楽しいの? 」


 楽しいと聞かれれば楽しいのかもしれないが、なんだか今悠が聞いてきたのはその楽しいとは違うような気がした。

 毎日充実してるのか? と聞かれているみたいな感じだった。


「別に、毎日ってわけじゃない。バイトある日は別だ」


 だから俺はぶっきらぼうに、また濁したように言った。


「ならなんかしたらいいじゃん。部活とか」


 そう言ってきたのは隣に座っている渥美だった。


「部活って、この時期に入ってもレギュラーとか無理だろ」

「陸上ならレギュラーなんてないし、信の実力なら……」

「やめろ」


 俺は渥美の話を遮って、気まずくなってしまった。


「あ、いや、ごめん」

「私もごめん」


 ここから嫌な雰囲気が流れた。

 俺はさっさと飯を食べ、部屋に戻った。

 その途中、リビングから話が聞こえてきた。


「まだ優兄のこと引きずってるのかな? 」

「さぁ、知らないけどもうさっさと割り切ればいいのに。まぁ1番優くんのことを目標として憧れてたのは信だから、目標を無くした今何かしら憤りを感じているんじゃない? 」

「そうかなー」

「そう思うしかないと思うよ」

「早く何でもいいからして欲しいよ。全然楽しそうじゃないもん」

「そうだよね」


 悠と渥美の会話を盗み聞きした。

 俺の気持ちなんか何も知らない癖に知ったようなことを言ってんじゃねーよ!

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