第2話

 仲間たちから離れ、国を出ようと思っていたエンが、何故か行った事がない筈のあおいの住処のある山に倒れていた。

 回復した男を招き入れ、居候させていた事をメルに知られたのは、不可抗力、という奴だ。

 骨休めにれんが立ち寄ると知った女が、若者を訪ねてやって来たのだ。

 その時にはすでに、必要以上に左腕を封じていたエンは、その来訪に動揺した。

 慌てて逃げようとする男をメルは捕まえ、いつもの愛らしい顔のまま、凄んだ。

「何で、お前がこんな所に、いるんだあっっ」

「あんたこそ、何しに来たんだ? つうか、良くここが分かったな」

 冷静な若い声が、男の代わりに問い返す。

「何の知らせもなく来て置いて、いきなりうちのもんに、乱暴働くんじゃねえ」

「別に、乱暴じゃ、ねえだろっ。大体、何で、こいつが……まさか、ヒスイを近づけねえ理由は、こいつとの蜜月を……」

「寝言しか出て来ねえんだったら、帰って寝た方がいいんじゃねえのか?」

 あらぬ想像をするメルの言葉を一蹴し、蓮は抱えていた木の枝を下ろす。

「だったら、何でこいつがっっ」

「あんたに、話す謂れはねえな。すぐに探さなくなったくせに、今更気にすんのは、おかしいだろうが」

 エンが去ってから五十年が経っている。

 その間、その行方を捜したのは、いなくなった日から三日ほどだけで、捜索を打ち切っていた。

 それは、近くにはすでにいないと言うロンの判断もあったが、何よりも、雅の声があったからだ。

「仕、方ねえだろ。ミヤの奴が、もうやめようって……探して、生きていなかったら、力不足を実感するだけで、虚しいからって」

 それ以来、エンの話は、出さないようにしていた。

 この五十年、雅は変わらない。

 だが、セイの方は、頑なに自分達と距離を置いていた。

「盆と正月には、あの住処にいるけど、それ以外で顔を合わせる事が、無いんだ」

 顔を合わせた時にも、何を考えているかいまいち分からず、一体、いない間何をやっているのかと、仲間を心配させている。

「ミヤは落ち着いて来たねと笑ってたけど、そんなはずない。いつ、またあんなことをしでかすか……」

 小屋の中に招き入れ、腰を落ち着けたメルが言って身震いするのを、蓮は朝飯が出来るのを待ちながら見つめていた。

 一緒に手分けして、薪になる枝を拾いに行った葵が戻ってこないので、早い所迎えに行きたいのだが、その話は興味があった。

 エンの方からの事情は聞いていたのだが、セイやその周囲の事情は、全く聞こえてこなかったのだ。

 この時までで、セイとも仕事で顔を合わせていたが、群れを自分一人の手で解散に導いた経緯を、若者自身から語られたことはない。

「あんなことってのは、どんな事だったんだ? エンは詳しく知らねえらしくて、事情が全く分からねえんだ」

 正直に訊いた若者に、メルは正直に語り出した。

 ジュリと言う仲間が自分を庇った事で死に、怒った若者が、自分に反目する者たちを次々に塵にし、最後の一人になるまで止まらなかった。

 恐ろしく早い殲滅だったのは、その半分を、雅が葬ったからだ。

「……ミヤが? 率先して殺しを?」

 耳を疑って訊き返す蓮に、メルは真顔で何度も頷いた。

「見てたオレたちも、止める間はなかった。でも、きっと無理してたんだな」

 その証拠に、セイに呼び掛けた雅の声は、僅かに震えていた。

 その声に振り返った若者の顔は、今も鮮明に覚えている。

 微笑んで話す女を、セイは思いっ切り抱きしめた。

「……この頃、これを思い出すといつも、気になるんだけどさ……エンが知ったら、どっちに嫉妬すると思う?」

「どうでもよくねえか、それ?」

 約束を先にしたのは、オレなんだが。

 気のない風にメルには言いながら、内心でそんな風に思ってしまい、雅にイラっとしてしまった、蓮である。

 だが、それは過ぎた話で、今更どうでもいい話だ。

「成程な、そう言う事情なら、心配されるのも仕方ねえか。だが、ミヤの言っている事は、的を射てるぜ。あいつ、最近では落ち着いてきてる」

「はあ? 何で、そんな事をお前が……」

「時々、仕事で鉢合わせてるからな」

 仰天する女を見ながら、蓮は今更ながらメルの訪問理由が気になったが、ろくな用事ではないだろうと判断し、そのままその話題を続ける。

「一人での行動の方が、気楽らしい。あんまり構ってやるなよ」

「一人でって……そりゃあ、独り立ちしてんのは嬉しいけど……」

 メルが唸って黙り込んだ時、丁度エンが朝食を運んできた。

「あれ、葵さんは……」

「ああ、手分けして薪拾いしちまったから、迎えに行きてえんだが。お前が行ってくれるか?」

 血筋上では蓮の方が甥っ子だが、年齢を考えるとエンの方が若い。

 自然とこの上下関係は出来上がっていて、エンもそれを自然に受け入れていた。

 あっさりとメルの前から男を逃がし、唸っていた女を見やると、その様子を睨むように見られていた。

「何だよ」

「何で、あいつがここにいるんだよ」

「本人は、この国を出る為に波止場に向かって、船が出る時刻まで待っていたはずだと、言っていたぜ」

 故郷で、人知れず生き、静かに死のうと思っていたようだ。

「人知れずって、それ、ミヤと一緒じゃあ、出来ない事か?」

「怪我の回復が見込めねえんじゃあ、どうしてもミヤに負担がかかるだろうが。あいつにだけは、甘えたくなかったと言ってたぜ」

 事情を聞いた時もつい浮かんだ、苦笑いを浮かべて蓮が説明すると、メルは頬を膨らませてから叫んだ。

「何を甘ったれた事を、言ってんだっっ、あの馬鹿はっ」

「……日本語の使い方が、間違ってねえか?」

 水臭いと言うなら分かるが、甘えたくないと言う男に、甘ったれるなとは、どう言う意味だと思うが、感情が高ぶった女の耳には入らない。

「ミヤはな、やっと対等にエンと助け合えると思っていたはずなんだよ。それを、一時期の恥じらいごときで、無にしやがってっっ。よし、こうなったら、オレが、ミヤをここに呼んで来るっっ」

 勢いよく立ち上がったメルは、そのまま暇乞いの挨拶もなく、小さな家を飛び出していった。

「? 今の、メルさんじゃ?」

 ようやく家に帰り着いた葵が、不思議そうに呟く。

「思ったより、早く帰りましたね。朝食作り足そうかと思っていたんですが」

 葵を探し出したエンが、振り返って女を見送りながらも、ほっとした声を出す。

「結局、何しに来たんですか、あの人?」

「知らん」

 短く答えながら、蓮は首を竦めた。

 感情に任せて飛び出してしまったが、冷静に考えればそう簡単に引き合わせが済むはずがないのは、メルも分かっているはずだから、雅がここに来る心配はしていない。

 実際メルも、山を駆け下りた頃に思い当たった。

 雅も周りに頼りにされ、色々な仲間の手伝いをしていて、今日暇かも分からない。

 悔しい思いを胸に、山を見上げた時、はっと思いだした。

「ああっ、今、蓮がいたよなっっ?」

 慌てて再び山を駆けあがって小屋に駆け込んだが、その時にはすでに遅く、若者は朝食を済ませて出かけた後だった。

「……エン、お前、覚えてろよっっ」

 悔し気に睨まれたエンは、訳も分からず狼狽えた。


 あの顔も、憎らしいものがあったと、メルは言い切った。

「あの時、ヒスイとちゃんと話すように言えていれば、お前との距離が縮まってたんじゃあと思ったら、悔しくて悔しくて」

「いや、そりゃあ、ねえな」

 仕事に行く準備を整える横で話す女に、蓮は気のない言葉を返す。

 あの時のメルは、自分がヒスイの子供ではないと言う事を知らなかったから、そう言う悔しさが生まれたのだろうが、今もそれを引きずる理由がいまいち分からない。

「だからな、この機会に、最高に恥ずかしい目に合わせてやるんだっっ」

「そうか、そう出来るんなら、やってみたらどうだ」

 生返事を返す若者に、メルはデジタルカメラを差し出した。

 最新式の画像を、売りにしたカメラだ。

「これで、エンが怖がって泣きわめいて、ミヤに縋りつくところを、しっかりと激写してきてくれっ」

「……そんな、ピンポイントな場面が来るか? あいつの事だから、極力我慢するはずだろうが」

「大丈夫だ。ミヤの事だから、きっと、意地の悪い遊び方をするに、違いない。あいつも、相当含みを持ってたからなっ」

 雅がそこまで根に持っているとも思えないが、面白がってそうする可能性はある。

 メルの望みの画像を撮れる保証は出来ないが、一応カメラを受け取って頷いた。

「言っとくが、こっちもそれどころじゃねえし、タイミングも合わせられねえから、あいつらにカメラを向ける事も、出来ねえかもしれないぞ」

「そんなら、二人並んだとこだけでもいいや」

 いきなり、難易度が下がった。

「それでいいんなら、やってみる」

「頼んだぞ。あ、お前の連れにも、今度会わせてくれよなっ」

 嬉しそうに言われた言葉が、一番蓮にとっては難しい問題だった。

 朝早く現れたメルが帰って行く姿を見送り、蓮は準備を再開する。

 今回の仕事は、好都合な場所で起こっていた。

 偶然過ぎて不安もあるが、利用しない手はないだろう。

 そして蓮は、その仕事に臨むに当たり、一つだけ意に添わない事をする覚悟をしていた。

 

 入園時間の十分前に現れた蓮は、待っていたセイの目を見張る様子に、居心地悪そうに首を竦めた。

「婆さんが、どうせなら、完全に騙せる格好にしろって、聞かなかったんだ」

 珍しく言い訳がましい蓮は、セイが知っている若者の姿ではなかった。

 成長して、目線が少し高くなったものの、自分の方がまだ背丈はある。

 だが、双方何もしなくても、男女のカップルに見えると、変な太鼓判を、妹の朱里に貰って来た。

 だから、セイは普段の動きやすい服装で来たのだが、蓮は意に反した格好で現れた。

 いや、流石に服装は抵抗したのだろう、いつも通りの服装だ。

 だが、髪型が違っていた。

 腰まである黒髪は、後ろで編みこまれ、先の方はご丁寧に淡い色のリボンで結ばれていた。

 蓮より少しだけ背丈のあるセイが、エスコートする形になる絵面だった。

 短く切った薄色の金髪を持つ若者は、目を見張ったまま蓮を見つめ、言った。

「可愛いじゃないか」

「殴るぞ」

 いつもの無感情のまま言われ、つい睨んで返した蓮に、セイは不意に手を打ち、自分の上着の胸ポケットを探った。

 取り出したものを蓮の上着の胸ポケットに入れ、それについていた何かを外に見えるように下げる。

「うん、これでいい」

「……おい、何だ、こりゃあ?」

 若干、声が低くなった若者に、セイは無感情に答えた。

「携帯電話、だよ」

「知っとるわいっ。オレが訊いてんのは、その携帯についてるこれは、何だってことだろうがっ」

「え、知らないか? 昔、はやった奴」

 一昔前、犬や猫を、真正面から鼻を大きくした状態で撮るシリーズが、はやった。

 カレンダーや写真集も出て、結構人気があったのだが、それの縫いぐるみも、大きい物から、携帯のストラップとして使える小さな物まで、出回っていた。

「それの、チワワ」

「……それも、知ってる。オレが訊きてえのは、何で、そんなふざけたもんを、オレのポケットに下げたんだってことだっ」

「それは、言わなくても分かるだろ?」

 セイは、にっこりと笑いかけた。

 あまり見せない、揶揄う時に見せる笑顔だ。

「こうすれば、女子力と言う奴が、上がるんじゃないかって、思ったんだよ」

「……」

 拳を震わせて睨む蓮に構わず、セイは頷いている。

「良かった、変な所でも使い道があって。貰ってつけてはいるものの、ポケットに入れづらいんだ」

「……なら、外せよ。こんな形が潰れるのを、無理に入れねえでも……」

 そもそも、何故、こんな邪魔ったらしいものを、よく使う物につけているのか。

 大きな耳も特徴のはずのチワワが、完全にへしゃげた状態で、胸ポケットで下がっている様を見下ろし、蓮がつい言うと、珍しくセイが言い訳した。

「ミヤが、携帯に付けとけって言うんだ。これなら近くで落とした時、すぐに私のだと分かるだろって」

「? オレだって、今、お前がこんなもんつけてるって知ったってのに、他の奴には分かるのか?」

 その当然の問いに、セイは何故か顔を顰めて説明した。

 少し前、エンはこの犬を飼っている知り合いの家に、挨拶に行った。

 その夜から、次の昼間にかけて、何故かセイを見ては、笑いをこらえていた。

 雅が昼間に来てそれを見とがめて、不思議に思い尋ねたところ、エンは笑いを残しながら答えた。

「……あいつ、吠え掛かるこの犬を見て、昔の私を思い出して、爆笑しそうになったらしい」

 黒黒としたあの目、そっくりでしたよと、雅に報告した。

 そうしたらその翌日、雅はメルに連れられて行ったゲームセンターで、これを戦利品で取って来たのだ。

「……」

 蓮は一連の話を、縫いぐるみとセイを交互に見ながら聞いていたが、つい吹き出してしまった。

 中々笑いが止まらない蓮を、セイは苦い顔で睨む。

「まだ笑うなら、蹴り倒すぞ」

「た、確かに、こんな感じだったな。懐かしいぜ」

 掌に縫いぐるみを乗せ、まだ笑いを残したまましみじみと揶揄う若者に、セイは本気で返した。

「そんなに、小さくなかったよっ」

 そんな事を言い争う内に開園時間になり、二人は表情を改めて入園した。

 数分後、セイは仕事の場所に向かう前に、その二人が入園してくるのを見て、思わず目を剝いた。

 なぜ、この遊園地に、エンと雅が、連れ立ってくるのだ?

 驚く若者の前で、今日はいつもより女寄りの蓮が、目を剝いて呟く。

「おい、本当に来ちまったぞ」

 その声を聞き咎め、睨む若者を力任せに押し、建物の陰に押しやると、自分もその陰に身を隠す。

 その横を、二人が通り過ぎていく。

 少し歩いたところで雅が立ち止まり、振り返った。

「どうしました?」

「うん、今、蓮の匂いがしたような気がしたんだ。多分違うと思うけど……香水と、混じってたし」

「香水?」

 振り返って聞き返し、エンがつい笑う。

「つける事は、ないはずですけど、似合いそうですね」

「うん。もう少ししたら、可愛いなんて言えないくらいになりそうだけど、今なら女の子と言っても、疑われないもんね」

 本人がいるとは思っていないのか、雅もエンも、言いたい放題である。

 必死で怒りを抑える蓮の前で、エンが思い立ったように雅を見下ろした。

「そうだ、匂いで思い出しました。一度、セイに匂い袋を持たせてみませんか? そうすれば、隠れていてもあなたが見つけられる」

「匂い袋……そうか、その手があるか。いつ追跡してもすぐに撒かれるから、難儀してたんだ。それとなく、持たせてみよう」

 明るく頷き合い、二人は足取りも軽く、園内の奥に歩いて行く。

「……言いたい放題、言ってくれやがって」

「香水、つけて来たのか?」

「匂いを誤魔化すためと、婆さんに吹っ掛けられた」

 成程と頷いて、一組のカップルの背を見送った。

「……良かった、ストラップが匂い付きだったら、今日はすぐに、見つかってた」

 先に分かっていれば、対策も立てやすいと、セイは溜息を吐いてから、蓮を見下ろす。

「で、蓮? 言い訳は?」

 見慣れているはずの蓮ですら、思わず見惚れそうになる笑顔で、若者は短く訊いた。

 目だけは無感情のままのセイを見返しながら、蓮は平然と返す。

「仕方ねえだろ、婆さんが、どうしてもあの二人がくっつくのを、死ぬ前に見てえって、言うんだからよ」

「メルが、病気とは聞いてないけど? この間会った時も、ぴんぴんしてたじゃないか。それに……」

 もう遠い二人の背を見やりながら、セイは続けた。

「あれ以上、くっつくのか?」

「……」

 その問いに、蓮は少しだけ空を仰ぎ、言葉を選ぶ。

 知識や言葉は、詰まるだけ詰まっているが、偶に使いどころを間違うセイに、どう言えば分かるか考え、問いの形で返した。

「お前、あの二人が、夫婦の関係になるのを、望んでねえのか?」

 セイの目が、真ん丸に見開かれた。

 こういう時は、昔のままの愛らしさが出てくるのだが、それは言わずに答えを待つと、若者は戸惑いながら、問い返した。

「あんたも、それを望んでるのか?」

「望むっていうより、まあ、いいんじゃねえかとは、思ってるぜ」

「そう、なのか」

 戸惑ったままの若者に、蓮は駄目押しで言い切った。

「そう言う次第で、婆さんの思惑に乗ったんだ。いいだろ?」

「良くない」

 我に返ったセイが、睨んだ。

「あんたな、ここが、男女二人連れだと、不味い場所だと、知ってるだろっ?」

 だから、自分たちは敢て、男女二人連れに見えるように、振舞うことになったのだ。

 そう指摘すると、蓮は首を振って、その不安を一蹴した。

「お前な、あの二人が、今更、あんな場所に入って刺激を貰おうなんて、思う筈がねえだろうが」

 行くとすれば、ジェットコースターや、観覧車の類だ。

 そう指摘した若者の前で、セイは思わず振り返った。

 すでに、人並みに消えた二人は、もう見えない。

「……」

「まあ、別な心配は、あらあな。エンの苦手なもんが、てんこ盛りだ」

 だからこそ、二人の距離は縮まると思うのだが、蓮より二人を知る若者は、溜息を吐いた。

「……泣き出すような可愛い奴なら、女の人も慰める形で、集まってくれたと思うんだけど」

「ん?」

 エンは、高所恐怖症のきらいがある。

 仕事中や、何かに気が向いている時は目立たないが、我に返った途端、動けなくなったと言う事は度々あった。

 そして、その域を大幅に超えると、恐慌状態に陥るのだ。

「この遊園地は、観覧車も日本では五本指に入る位、高みに登る。費用も、それだけ掛かったはずだ」

 観覧車だけではない。

 この施設は、数年前に所有者が変わり、一新したばかりだ。

 アトラクションの一つ一つが、新しく作り替えられた。

 それを、恐慌状態のエンが壊したら?

 壊した拍子に、他の客を怪我させたら?

 そんな心配しか、セイには思い浮かばなかった。

「……あの左手、封じて来てんだろうな、あいつ」

 確かめておけばよかったと呟く蓮に、セイは正確に兄貴分の考えを分析して言った。

「そんな必要ないと思ってたかもな。緑の楽園、なんて、聞くだけなら、植物園にしか思われない」

 その上に地名が付いているし、横文字なのだが、日本のネーミング事情には疎いエンは、全く考えなかっただろう。

 楽園なのではなく、自分にとっては地獄だと。

 


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