幕間 心閉ざす王子、一縷の光
王となるべき者は正しくあれ。
王となるべき者は強くあれ。
王となるべき者は立派であれ。
物心ついた頃から、王とは、と教えられてきた。いつだってそれを求められた。
我が名はアルゲンタム・テール。テール王国の第一王位継承者。
幼き頃から始まった英才教育に関して、少し厳しすぎるのでは? との声もあったが辛さは感じなかった。だが、笑い方を忘れてしまった。
もっと同じ歳のご友人とお遊びになられては? との声もあったが勉強ばかりしていた。遊びとは何をするのか。友だちとは何なのか分からなかった。そんなことは教えられていない。
家庭教師や父上や母上、家臣たちが立派な王になるのですよと言い、様々な事を教えていく。私はそれをひたすらに聞き学んだ。
周りの大人たちの言う通りに振る舞い、考え、行動しなければならない。この国の王になる資格は誰しもが与えられたものではなく、特別な存在にのみ与えられた特権だと言う。
弟のアウルムはいつも楽しげに笑っていた。何故そんなに笑えるのか分からなかった。
彼は私とは違って、皆に好かれていた。彼の周りはいつも楽しそうな雰囲気に満ちていた。
私は…………どこか羨ましく感じていた。
ある日、笑顔のアウルムが母上から頭を撫でられているのを見かけた。
心が冷たく軋んだ音がした。
私はこんなに努力しているのに、母上はアウルムにしたように私の頭を撫でてはくれない。
最後に撫でてもらったのはいつだろうか。
母上の優しい笑顔を見たのはいつだろうか。
私がもっと努力して、立派な王になれば母上は頭を撫でてくれるのだろうか?
まだ王ではない私は、母上から褒められる価値の無い人間なのだ――――
私は更に自分の心に蓋をして、ただひたすらに学んだ。
だが、アウルムの生誕祝いのパーティーで出逢った変な子供――フェリックス。お菓子が好きでそれを褒め称えて食し、作った者への感謝と尊敬を表すのだと言う。どこにでもあるありきたりな菓子にだ。
変なやつだ。
それに、私の服に付いたクリームを取った姿に何故か母上が一瞬ダブって見えた。不思議だ。胸も何故だか温かく少しばかり鼓動が早くなったのも不思議だ。分からない。
あの子供と――フェリックスと一緒にいれば…………ともだちになれば、何かわかるだろうか?
ともだち――――
その響きに小さな灯火を感じた気がした。
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