第23話
今日は朝から曇り空。パッとしない天気に気分も少し落ち気味な日で、昼食の時に父上からお茶の時間にサロンに来るようにと言われた私とセバスチャンは屋敷の廊下を歩いていた。サロンに着くと、父上と母上にアシルたちもいて椅子へと促される。
「フェリックス様とセバスチャン様にお茶会の招待状が届いております」
アシルは私たちが座ったのを確認した後、二通の招待状を見せた。
白い封筒の縁に淡い緑色の蔦がデザインされたシンプルだが可愛らしいそれの表面には、それぞれ私とセバスチャンの名が幼い文字で書かれている。
「マリベデス家の御息女、サーラ様からです」
「わぁ! サーラから?」
喜びの声を上げ、セバスチャンは私を見た。私も同じタイミングでセバスチャンと目が合い、にっこりと笑む。
「サーラ様とは先日のガーデンパーティーでお知り合いになられたんですか?」
「そうだよ!」
聞いてきたアシルにセバスチャンは笑顔で頷いたが、アシルは、ふむ、と表情を変えずに淡々と続ける。
「その時に皇太子殿下ともお知り合いに?」
「そうだけど…………どうかしたの?」
隣でピクッとセバスチャンが反応したのが分かる。
私の問いにアシルはもう1通招待状を取り出した。取り出された白い封筒にはテール王家の紋章が刻印されている。
「実はサーラ様とは別に、アルゲンタム殿下からフェリックス様へお茶会の招待状が届いております」
「えっ!?」
声を上げたのはセバスチャンだった。
「まさか、あのアルゲンタム殿下からお茶会の招待状が届くなんて。フェリックス。貴方一体何をしたの?」
「ええっ!?」
母上の言葉に今度は私が声を上げる。
まるで何か悪いことをしたのを咎められているような口振りが気になるが、したことと言えばお菓子を皆で食べたくらいだ。
…………ちょっと、パフォーマンス含みなところがあったような気もするが。
私はとりあえず多目のオブラートに包んで、ガーデンパーティーでのことを母上たちに話した。
「そう。そんな事が…………」
と、大きな目を瞬かせ、母上は何度も頷く。
アルゲンタム王子の無関心無愛想ぶりは有名で、そんな王子が公式ではないプライベートなお茶会に誰かを招待するのはある意味事件なようだった。
「そうなのね……」
と、また呟いた母上は父上と顔を見合せ、そして父上もまた頷き、アシルに先を続けるように促した。
アシルはサーラからの招待状とアルゲンタムからの招待状を私とセバスチャンの前のテーブルに置き、口を開いた。
「問題は、この二つの招待状に書かれた日にちが同じだということです」
「「ええっ!?」」
二人同時に声が上がる。
「そ、そんなの後から来た殿下の方を断ったらいいんだよ!」
必死な顔で言ったセバスチャンにアシルは静かに
「招待状は両方とも今日届きました。届いた早さで言えば、殿下からの招待状が先でございます」
そう返す。
「なら、僕も一緒に殿下のお茶会に行く!」
「招待状はフェリックス様にしか届いておりませんので、それは出来ません」
必死のセバスチャンを軽く一蹴するアシル。
「でも、その、ガーデンパーティー。ガーデンパーティーで最初に会ったのはサーラなんだし、招待状も僕たち二人に来てるし、サーラの方に行くって断れば………」
尚も食い下がろうとするセバスチャンに、アシルは淡々と言葉を紡ぐ。
「セバスチャン様。いくら王族のパーティーに出席したからといって、必ずしも王家の方々とお近づきになれるとは限りません。ましてや、招待を受けるなど稀な事でございます。それに、日頃お勉強なさっているのですから、王家の方から招待状を受けとるという事がどのような事なのか、お分かりになりますよね?」
最後にニッコリと笑顔を浮かべるアシルだが、その目は笑っていない。アシルの笑顔の言葉の裏には、王族からの招待を断るという選択肢は存在しないと語っていた。
王家に少しでも近づきたい者はいくらでもいる。その為にあの手この手を使って気に入られるように媚びを売り他を牽制する。
王家の者とのプライベートなお付き合いは貴族にとって喉から手が出る程欲しい。王家と仲が良い。それだけで後から付いてくるものは大きいのだ。
黙り込んでしまったセバスチャンは膝の上で手を強く握りしめていた。
「父上。父上はどうお考えになりますか?」
私は黙ったままのヴィクトーに尋ねると、父、ヴィクトーは小さい声だがはっきりと
「…………父としての考えは、フェリックスが行きたいと思う茶会に行くと良い」
その言葉にパッとセバスチャンの顔が明るくなるが、すぐに、だが、と続けられたヴィクトーの言葉に顔を曇らせた。
「だが…………グリーウォルフ家当主として、フェリックスはアルゲンタム殿下の茶会に。セバスチャンはマリベデス家の茶会に出席するのが良いと考える」
この言葉を聞いた上で、私がサーラのお茶会に行くと言ったとしても、父上は反対はしないのだろう。父上はそういう人だ。
私は黒く清んだ父上の目としばらく見つめ合い、微笑んだ。
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