第22話
風の精霊と絆を結んで数日後。今日は夕食新メニューお目見えの日!
皆がどんな反応をするのかドキドキしながら私は席についた。
全員が席につくと、執事のアシルを先頭に使用人たちが次々と料理を運んでくる。綺麗に並べられていく料理が昨日とは違うことに気付き、皆の口から声がもれた。
ササミとゆで卵のソースは今日はバジルソース。
見た目は全体緑色で、初めてだと少し拒否感あるが、味は私のお墨付きだ!
「まぁ、美味しい!」
早速、バジルソースのかかったササミを口にし、目を開くシャルロットお母様。
「これは何?」
アシルを振り仰いで尋ねる母上にいつも通りの隙の無い動作でこの館の執事は答えた。
「バジルという香草を使ったソースでございます。フェリックス様がレシピをお考えになったそうですので、フェリックス様にお聞きになられるのが早いかと」
「まぁ! そうなの?」
アシルの言葉に大きな目を更に大きく見開き、母上は私を見た。
「えぇ……まぁ」
自分が作ったと周りに言うつもりが無かったので、とんだ不意打ちに歯切れが悪くなるが、母上は目を輝かせ、もう一度バジルソースの味を確かめる。
「うわっ! 草くさーい」
思い切り眉をしかめ、べぇっとセバスチャンは舌を出し口の中の物を皿の上に戻した。
お子ちゃまにはまだ早い味だったかもしれない。
「…………セバスチャン、汚いぞ」
「ふぁい。ごめんなさい」
父上に静かに注意されセバスチャンは眉を下げ、口の中の慣れない味を水で流し込んだ。
「セバスチャン、ソースを変えてもらおう。そのソースがついてる分は私が食べるよ」
「うん。ありがとう、兄さん! アシル~」
「かしこまりました」
アシルが素早く対応し、すぐにセバスチャンの前に別のソースが用意された。
ソースが準備される間に、セバスチャンの皿から私の皿にバジルソースとバジルソースがかかったもの。それとセバスチャンが吐き出したものを移す。
え? 汚いって? 小さい子の残しものを綺麗に平らげるのは普通でしょ! 胃に入ってしまえば一緒なんだから。と、オバサン思考丸出しでひょいひょい口に入れていく。
「バジル。バジル…………これを……いや、でも…………ぶつぶつ」
新しいソースに楽しげに食事をしていたはずだが、今は顎に手を当て、ぶつぶつと何か呟いている母上。突然独り言を呟きながら真顔で思案している母上は何か怖いものがある。父上もキョロキョロと視線だけが泳ぎ、母上をすごい気にしている様子。
私はごくり、と喉を大きく鳴らして口の中のものを嚥下し、母上を見守った。
セバスチャンはこの妙な雰囲気もどこ吹く風で、新しく用意されたソースに機嫌を良くしてパクパクと美味しそうに皿の上のものを食べていく。
やがて、見られている事に気が付いた母上は、コロっといつもの柔らかな笑みに表情を変えて、ぱくりと半分緑色のソースがかかったササミを頬張った。
「ほんと、このソース美味しいわね~フェリックスったらスゴいじゃないの!」
オホホホ、と笑う様はなんか怪しい。とても怪しい!
それは父上やいつもは澄ました表情から崩れる事のないアシルが僅かに怪訝な色を浮かべた事で益々嫌な予感のタネが生まれる。
しかしそんな妙な雰囲気に包まれた新メニュー晩餐は、表面上は穏やかに過ぎていった。
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