第18話
「なんか、前にも増してベッタリだな。どうした?」
日焼けした額から頬につたう汗を拭いながらライアンは小さく首を傾げた。そんな彼に私は無言で苦笑を返し、今私の服の背をしっかり掴んでいるセバスチャンをチラリと見た。
あのガーデンパーティーの日からセバスチャンは何故かやたらと甘えてくるようになった。多分、アルゲンタム王子を睨んでいた事と何か関係があると思うが、何故睨んでいたのかをセバスチャンに尋ねても、別に、と言うだけでまったく分からない。
「う~ん……まぁ、そんな日もあるよ」
ライアンは納得しないだろうなぁ、と思いつつ私は頬を掻きながら言ったが、案の定ライアンはふぅんと言いながらセバスチャンを見やり肩を竦めた。
「おぉ、おぉ! どうした? なぜ、ついてこないんだね?」
そんな私たちのところへ体全部が拡声器なんじゃないかと思うほどの大声でダンテ教官が駆け足でやって来ると、その場で軽快に足踏みしながら私たちを見た。
今は身体トレーニングの時間。
良く晴れた空に少し強めの風が汗ばむ肌の熱を取り去ってくれて気持ちが良い。相変わらず、皆より遅い走りで走ったり歩いたりしているのだが、いつもはダンテの後を走るセバスチャンが今日は私の側にぴったり付いて離れないのだ。
それを不思議に思い、先を行っていたライアンが戻ってきて、その後にダンテがやって来たという訳だ。
「兄さんが疲れたから歩いていたんです」
「ふむ。なるほど! しかしな、セバスチャン。君まで歩く必要はないんだぞー」
ハッハッハーと笑いながらダンテのもっともな発言に少し口を尖らせ、セバスチャンは反論した。
「だって、兄さんまだ体が弱いから何かあったら大変だし……」
「セバスチャン。私は心配しなくても大丈夫だよ」
「……………」
あまり私のレベルに付き合わせては悪いと思って言ったのだが、セバスチャンは憮然として黙ってしまった。
いつもと様子のちがうセバスチャンに、私は助けを求めてライアンへ顔を向けるが、彼は小さく肩を竦め首を横に振った。
「ふーむ、セバスチャン。本当の事を言ってみたまえ! トレーニングは四回目だが、こんなことは初めてじゃないか? どうした?」
片膝をつき、セバスチャンの視線の高さまで屈むとダンテはニカっと白い歯を見せて笑った。
視線を外して口を尖らせていたセバスチャンは、何度か口をパクパクさせていたが、やがて小さな声で
「……………だって、兄さんは僕の兄さんだもん」
と言って眉を下げた。
「セバスチャン…………」
淋しそうな顔でぎゅっと服を握る力を強くするセバスチャンに、私とライアンは顔を見合せた。
黙ってセバスチャンの言葉を待っていたダンテは、顎を一撫でし目を細める。
「セバスチャンよ。まだ、思いと気持ちを上手く言葉に出来ぬようだな。ならば、それは宿題だ。今、お前が感じている気持ちはなんなのか。何故、そう感じているのか向き合い答えを見つけるのだ。時間はいくらかかっても良いぞー! ちなみに答え合わせもない! 何故なら答えはお前の中にしかないのだからな!」
そう言って立ち上がったダンテは再びニカっと白い歯を見せて笑い、セバスチャンとライアンの手を強く握った。
「さぁ、宿題はトレーニングの後だ! 我々はもう10周するぞー!! フェリックスはあと5周だ! 歩いても構わんが、なるべく早い速度で歩くのだぞー! ハーッハッハッハー!!」
「わわっ!?」
「お、おいっ! 急に走り出すなよ、おい!」
高笑いを上げるダンテに手を掴まれ、引き摺られるように走り出す二人。ダンテに引っ張られながら、振り返ったセバスチャンに私は軽く手を振る。そのセバスチャンの顔はどこか寂しげで不安そうに見えた。
「セバスチャン……本当にどうしたんだろう?」
セバスチャンの態度や反応は初めてでどうしたら良いのか分からず私は戸惑いの溜息を吐いた。
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