皇国の守護者たち

天津 虹

神魂一族が暗躍して、日本が永世中立国になった件

第1話 プロローグ

「ねえ、玲愛(れあ)、この道で合っているの」

「大丈夫よ。京都は、道が碁盤の目になっていて、住所に大通りの名が入っているの。住所が道案内してくれるはずだから、住所通りにいけば、必ずあるんだから」

「なに、言ってるのよ。住所に大通りの名前が一つも入ってないわよ」

「ホントにねえー」


 京福電鉄の四条大宮駅から徒歩一〇分、スマホのGPS機能を頼りに、玲愛たち女子高生が目指す京都の八木邸は、新選組壬生屯所旧跡地であり、三人の幕末歴女が、修学旅行の見学先として、選んだ場所であった。

修学旅行の見学先としてマイナーな八木邸を選んだ張本人は、幕末歴女の中でも、高杉晋作命の玲愛と呼ばれる、腰までの長いストレートヘアに、凛とした瞳を持つ顔立ちが整った美少女であった。

 他の女の子二人は、土方命、沖田命の新鮮組ひいきの歴女であったが、幕末に散った志士たちの悲劇に憧れを持つミーハーな面を持ち、人物にのみ興味が行って、歴史ゆかりの場所については、実はそれほど興味もなかった。

 その中で、玲愛だけは少し違っていた、

もちろん最初は他の歴女と同じく、歴史に名を成した英雄たちの志や行動に引かれ、また、あらゆるところでビジュアル化されるイケメンの志士たちに憧れていたのであるが、それとは別に、今の日本の現状に小さな不満を持って生活してしたのだ。


その小さな不満とは、日本は明治維新から、幾多の戦争を繰り返し、お金や物資を豊富に持つ世界の主要国の1つになったのだが、そういった立場にあるはずの日本は、なぜか、世界の主要国には軽く見られ、政治的イニチアブを取ったことがなく、政治や経済のルールは常に日本の不利になるよう仕組まれていること。

しかも、各国の政治家たちは、自国が政情不安になると、こぞって日本叩きをすることで人気を回復しようとすること。

これは、スポーツなどにも言えることで、日本が何か優位に立つとすぐさまルールが変更されてしまい、世界では、日本人があまり活躍できないこと。


さらに、日本全体が外国に迎合して、国際化やグローバル化の合言葉のもと、自らの文化や精神を軽んじ、そして、自らその文化や精神を恥、捨て去ろうとしていることだった。

グローバル化と聞いて、文部省は日本語も危あやうい小学生に英語の授業を導入しようとさえしている。

そんな、中身のないコミュケーションなどなんの意味があるというのか?

まずは、自国の精神や文化に精通しなければ、外国人を相手に何を話すことがあるというのか?


そんな、小さな不満や疑問が、玲愛を、世界の歴史と比べても古精神や文化を育んできた歴史の世界にのめり込ませていくのだった。

玲愛は、それこそ、天孫降臨の神話から、歴史の裏舞台に関するものや、揚句の果てに、怪しげな陰謀説や暗躍説まで、幅ひろく知識を吸収していった。


だから、玲愛にとっては、歴史的名所もその歴史の背景を支えた立派な文化だと考えていた。

「はあ、やっと着いた。最近歩かないから、一〇分と言えど、結構疲れたわね」

「ねえ、これだけのもの?」

「もっと凄い歴史的なのを期待していたのに」

「無理言わないでよ。立派な武家造り屋敷で、立派な門には、幕が張られ、新鮮組の誠の旗が立っているでしょ」

「だって、いかにも、観光地ですって感じで、あまり歴史を感じない」

 そんなことは、分かっていたことだ。今の日本に文化とか言う方が間違っている。要は、人が呼べて、金を使って貰えるかなのだ。

 新鮮組と言えば、会津藩と同じ、日本の武士道を「誠」に賭け、最後まで守り通した一団である。どうして、その精神がこんな風になってしまうのか?

「ここには、イケメンの土方さんや沖田さんの姿絵が無いから、もう、次に行こうよ」

「待って、まだ、入り口だけでしょ。少なくとも、記録が書かれている立札や、石碑は読んでいかないとダメでしょ」


 三人は、武家造りの立派な門をくぐり、壬生浪士駐屯地跡地の中に入っていく。

 そこで、玲愛は道の端にある大きな庭石ような石碑に、なぜか目が奪われた。ただの新撰組と書かれたどこにでもある記念碑である。

玲愛は、その自分の背丈ほどもある石碑をまじまじと見つめ、そして、裏に回った。


「あれ、なんか書かれている? これ、触っても大丈夫よね」

玲愛は、何か書かれている石碑の表面を撫でながら、表面についたコケを落としていく。

「えっ、この模様は! 」

 その石碑の裏に刻まれた文様は、ピラミッドの頂点に目が描かれ、その下にはコンパスと定規が刻まれている。

 玲愛は、その文様を見て体が固まってしまった。

 これは、玲愛が読み漁った歴史の本の中で、とんでも本に書かれている歴史の裏で陰謀を巡らし、影から政府を操る国際秘密結社の文様である。

 そういえば、明治維新にも、これらの国際秘密結社が暗躍する陰謀説がある。


 玲愛は、明治維新の陰謀説を思い出している。

 国際秘密結社は、江戸時代の識字率の高さ、計算力の高さに目を付け、日本を植民地化するよりも、日本政府を裏から操って牛耳って、何十年、何百年と日本の財を絞り取る方が、利益が上がると判断して、当時の天皇派と幕府派をいがみ合わせ、傀儡政権を作り出したというものである。


 そして、現在、日本は、秘密結社の思惑通り、その文化、教養レベルの高さで、コツコツと積み上げた財を、知らず知らずのうちに吸い上げらているというものだった。

 戦争でも、日本という番犬を敵対国に嗾(けしか)け、あと少しでケリが付くというところで、横から利益をさらっていき、非人道的な出来事をでっち上げ、核兵器の実験台にしてしまう。

 そして、今日でも、例えば、円とドルの為替レートを少し変えたり、石油原価を少し変えたりすることで、日本企業が、血のにじむ努力で生み出したやっとの利益が泡と消えるのだ。


 玲愛は、その石に刻まれた例の国際秘密結社のマークを苦々しく思いながら、こんなところにこのマークがあるなんて、あの陰謀説まんざら嘘ではないのかもしれないと考えていた。

 すると、その石碑は、まるで、玲愛の心を読んだように、悲痛な叫びを上げたようだった。

 その石碑を中心に、超微震動が起こり、空間が揺れるように波を打っている。

「なにが起こったの? 由美! 真美! 助けて!」

しかし、前を行く二人にはドレミの声は聞こえていないようだった。

 やがて、空間を覆った超微震動は収まったが、そこにいるはずの玲愛の姿形はどこにも見当たらなかった。

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