④ 青春と書いて『ブルースプリング』と読ませる

 ナメ子は特別に海の家の許可をもらって、持参した塩分抜きのオニギリを食べ。

 熱いカニ鍋を汗だくで食べ終わった真緒たちは、休憩後……夏の砂浜へと繰り出した。

 今回はシュモクザメ〔ハンマーヘッドシャーク〕の頭に部分変化させて、背中に三角形の背ビレを出したフンドシ姿の海斗は。

「あちぃ、あちぃ、砂が焼けてあちぃ!」

 と叫びながら、海に飛び込み。遊泳していた周囲の海水浴客をパニックにさせた。

 満丸はプカプカと海に浮かび。

 果実は入念過ぎる準備体操をしてから、真緒に見せつけるように乙女モードで波に足先を浸して。

「きゃんっ」と、言って真緒の反応をみたが。真緒が砂浜で砂遊びをはじめたのを見て、自分に無関心だと知ると。

「けっ!」と、言って岩場に移動して、普通に頭から海に飛び込んだ。

 一色は砂浜にうつ伏せになって、甲羅干しをしながら。

 体の数個の薄目を開けて、真緒たちが危険な行動をしないように監視をしている。

 雷太は砂浜で体育座りをして、いじけ続けていた。


 常夏海岸には、ガニィ星人の他にも夏を利用して稼いでいる者がいた。

 ガニィ星人の海の家から少し離れた場所にあるカキ氷の出店前では。頭が氷イチゴの氷菓怪人──『氷一号』がタンクトップとハーフパンツ姿で立って、海を眺めていた。

「やっぱり、あっしら夏限定怪人には、この海岸は天国でやんすね……親分」

 氷一号怪人の視線の先には砂から頭だけ出した、スイカ怪人がストローハットを被って埋もれている。

「親分は相変わらず無口でやんすね……こんな暑い日は思い出すでやんすね、まだノットルン帝国が解散する前に。ソフトクリーム課長を罠にハメて溶かして亡き者にした日のコトを」

 悪の組織ノットルン帝国に所属していた。氷一号怪人とスイカ怪人は、白玉栗夢の父親を溶かして殺害した張本人だった。

「ノットルンが解散して仲間の食物怪人や、幹部はバラバラ。今、あいつらどうしているんでやんすかね?

幹部の『チョコパフェ生徒会長』は元気でやんすかね……『ティラミス書記』のモナカちゃんは可愛かったでやんすね」

 氷一号は頭の少し溶けたカキ氷の山を、削った氷で補充するとイチゴシロップをかけた。


 海斗たちが海で泳いで遊んでいる間に、真緒は砂浜に閃光王女狐狸姫の砂像を完成させ、ギャラリーの注目を集めてい

る。

 真緒の近くにクリアーな強化スーツとマスクを被り、雷太と並んで体育座りをしているナメ子が言った。

「すごい才能だな……オレにはこんな器用な砂像は作れないな」

「そうかな、夢中で作っていたから……見て、手足の関節部分は砂でジョイント構造にしてみたから可動してポーズ変えられるよ」

 真緒が砂像の手足を動かして、ポーズを変化させるとギャラリーがどよめく。

「す、すごすぎる」

「製作時間が三日くらいあれば、タイムセットで設定した時間に変形とかする仕組みも砂で作れるんだけれどね」

 真緒は時々、得体が知れない才能を発揮する。


 真緒がニ体目の砂像を作りながら、ナメ子に質問する。

「東名さんは、海で泳がないの?」

「オレは海に連れてきてもらっただけで満足だ、下手に海に入って溶けたら波にさらわれてクラゲみたいにプカプカ浮いて、どっかに流されていっちまうからな……漂流物になるのはイヤだ」

「そっか、本当に東名さんは勇気があるね……弱点と恐怖を克服するために、ナメクジ怪人が海に来るなんて凄いよ…………東名さん?」

 返答が無いナメ子を見た真緒の目に、砂浜に肌色の液体が溜まったクリアーな強化スーツを見た。

 大声を出す真緒。

「ナメ子さん、溶けたぁぁ!!」

 咄嗟に眠っていた背中の目を全開して砂浜から起き上がって駆け寄った一色が、溶けたナメ子が入った強化スーツを抱えると──ガニィ星人姉妹の海の家へと走る。

「ちょっと、冷蔵庫を借りるわよ! どうりゃあぁぁ!」

 溶けたナメ子を強化スーツごと、冷蔵庫に放り込む一色……数十分後。

「復活~っ!!」

 と、叫んで再生したナメ子が、冷蔵庫から飛び出してきた。

 そして……また数十分後。

「ナメ子、また溶けたぁぁ!」

 の声と同時に、ライフセーバーさながらに。うつ伏せ状態から立ち上がった一色が、肌色の液体が入った強化スーツを抱えて。

「どうりゃあぁぁぁ!」

 と、冷蔵庫に溶けたナメ子を放り込み。ナメ子が復活するというパターンが繰り返された。


 そんな様子を少し離れた、カキ氷の出店から眺めている氷イチゴの怪人は。

「アイツら、いったい何やっているんでやんす?」

 と、首をかしげる。

 氷一号がお客が来るのを待っていると、灰鷹満丸が砂浜を転がってやって来た。

「おじさん、カキ氷ちょうだい」

「あいよでやんす」

 氷一号は、削ったふわふわのパウダースノーのような氷にイチゴシロップをかけて満丸に差し出した。

「シロップはかけ放題でやんすから」

「ボク、氷メロンがいい」

「うちは、氷イチゴ専門店でやんすよ……だいたい、シロップの味は全部同じ甘味だけでやんす。色で誤認識させられた脳が勝手に味を感じてダマされているだけでやんすよ」

「それでも、ボク……氷メロンがいい」

「しかたがないでやんすね、そこにあるメロン味と書かれたサングラスをかけて、かき氷食べてみるでやんす」

 満丸が言われた通り、サングラスをかけると氷イチゴが氷メロン色に変わり、味もメロン味になった。

「わおっ、氷メロンだ」

「他にもレモン味やブルーハワイ味のサングラスもあるから、試してみるといいでやんす……うちのカキ氷はカレー味とか、焼きそば味とか三十一種類の味が楽しめるんでやんす」

 満丸は次々とサングラスを交換して、さまざまな味のカキ氷を楽しんだ。


 満丸がいなくなると、今度は女性客の声が聞こえてきた。

「おじさん、氷イチゴひとつ」

「あいよ」

 振り返った氷一号は、胸に水着代わりのサラシを巻いた、巨乳幽霊『飴姫』を見た。

 水着の下をどうするか迷ったのか? 普段は幽霊でも足がある飴姫の腰から下は、この時はニョルンとした尻尾のようなオバケ足だ。

「昼間から幽霊のお客でやんすか……まぁ、幽霊でもなんでも注文があれば、カキ氷作るでやんす……お金持っているでやんすか?」

 飴姫は、胸元のサラシの間から黄金色に輝く楕円形の物体を取り出す。

「これで足りるかな?」

「こ、小判でやんすか!?」

 氷一号は、山盛りのカキ氷を作って飴姫に差し出す。 

「シロップかけ放題でやんす! 注文してくれたら好きなだけカキ氷作るでやんす!」

 飴姫がカキ氷を食べていると、飴姫の足元の砂から次々と青白い幽霊の手が出てきて騒ぎはじめた。

「杓子〔しゃくし〕よこせぇ」

「ブラよこせぇ」

「カキ氷よこせぇ」

「金よこせぇ」

「単位よこせぇ」

「何かよこせぇ」

 金よこせぇと言って伸びてきた手を、氷一号はアイスピックで撃退する。

「なんでやんすか? こいつら?」

「海で憑いてきた舟幽霊、集合させればタンカーだって陸に揚げる……そうだ、この子たちにもカキ氷作ってあげてよ」

「そりゃあ、小判もらったから作るでやんすが……あまり変なのに、とり憑かれない方がいいでやんすよ」

 氷一号が削ったカキ氷を持った舟幽霊の手が、ブルブル震えて悲鳴が聞こえた。飴姫が言った。

「一度にたくさん、冷たいモノ食べたら頭がキーンとするよ……じゃあね、おじさん」

 舟幽霊を引き連れた飴姫は、氷一号の前から去って行った。呟くカキ氷怪人。


「今の乳幽霊、魔王の息子の不思議なパワーに引っ張られて常夏海岸に来たでやんすか……結局、魔王の息子には、ソフトクリーム課長殺害の濡れ衣を着せてしまったでやんすね」

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