X/F

キクイチ

異世界・転性

 死後の世界……天界。

 女神の前に一組の男女が立っている。


「ユウト=キリオカ、アヤナ=キタシロ。

 ようこそ天界へ。

 私は女神のアストレアといいます。

 不慮の事故に見舞われ命を落とした、あなた方を、新たな人生へと誘います。

 しかしながら、元の世界にはもう戻れません。

 なので、別の世界に転移して、続きの人生を歩んでいただくことになります。

 生命の因果律に従い、導き出された転移先は、剣と魔法の世界ゴエティア。

 そこで〝魔族〟の冒険者として新たな人生を歩んでいただくことになります。

 過酷な世界ですので、特殊スキルを充実させておきました。

 装備や日用品も潤沢に用意してあります。旅に困ることはないでしょう。

 安心して、残りの人生を歩んでください」


 アヤナが言う。

「ちょっと、まってください!

 質問しても良いですか?」


「はい、どうぞ」


 アヤナが言う。

「女神様って、私の悩みとかも知ってるのですか?」


「ええ、もちろん。

 アヤナは生前、かなり苦労されていたようですね」


 アヤナが言う。

「じゃ、続きをやるのじゃなくて、生まれ変わりたいのですけど」


「ごめんなさい。

 今回のケースでは、規則違反になってしまうので無理なのです。

 大丈夫ですよ、違和感がないように肉体は調整済みです」


 アヤナが言う。

「調整って、逆にしてくれたってことですか?」


「いえ、逆にしないでも違和感を覚えないようにしただけです」


 アヤナが言う。

「だと、無理です。しかも文化レベルの低い世界ですよね?

 かなりハンデキャップがあると思うのですが、どうにかなりませんか?

 調整済みと言っても、今の記憶引き継ぐから、苦手意識もあるし……。

 公平じゃないと思いませんか?」


 アヤナは、ユウトをチラ見する。


「公平性ですか……」


 アヤナが言う。

「そうだ、交換とかできません?

 それなら公平だと思うけど……」


 アヤナは、ユウトを再びチラ見する。


「なるほど、交換ですか。

 ちょっと調べてみましょう………………ほう、これは!」


 アヤナが言う。

「大丈夫そうですか?」


「たしかに、規則内で調整が効く範囲ですね。

 しかも、今以上の最適解がでました。

 これは推し進めるべき案件ですね……」


 アヤナが言う。

「ほんとに? ありがとうございます!」


「しかし、ユウトは大丈夫ですか?」


 ユウトが言う。

「俺、ですか? 交換て何を交換するのです?

 話についていけなかったのですけど……」


「転移先の肉体です」


 ユウトが言う。

「はい? ……俺がキタシロになるってこと?」


「そうです。よろしいですか?」


 ユウトが言う。

「いいわけないでしょ! どうしてそうなるの?」


「アヤナは女性であることに違和感を覚えて、辛い人生を歩んできたのです。

 公平性を鑑みると、交換した方がより公平であると算出されました」


 ユウトが言う。

「いあ、いあ、いあ。

 俺がこれから女性の体に違和感を覚えちゃいますよね?」


「大丈夫です。調整済みなので問題ありません」


 ユウトが言う。

「でも、不便そうですよね?」


「アヤナの人生とバランスが取れることも算出されています。

 そして、それ以上の理由として、二人の生命の因果律に最適解が出ているのです。

 これは極めて稀なことです。

 私は女神として、アヤナの提案を受理せざるを得ないのです」


 ユウトが言う。

「それって、俺に拒否権ないってことじゃ……」


「ごめんなさいね。

 転移するまえに心の準備をしておいていただきたいと思い、お伝えしました」


 ユウトが言う。

「マジかよ……」


 アヤナはユウトをみてニヤニヤしている。


 アヤナが言う。

「よかったね、年頃の女子になれるんだよ?

 チャンスじゃん、男子の夢でしょ?

 おめでと、〝アヤナちゃん〟」


 ユウトが言う。

「笑い事じゃないのだけれど?

 てか、キタシロってそう言う悩み抱えてたのか……」


 アヤナが言う。

「まぁね。これで解放されるのか。嬉しくてたまらないよ。

 アヤナちゃんの女子の悩みはボクが協力してあげるから、大丈夫。

 まぁ、文化レベル違うみたいだから、かなり心配だけどね」


「……」

 ユウトは何も言えなかった。


アストレアが言う。

「それでは、〝転移〟いえ、〝転生〟を執行いたします。

 〝魔人ユウト〟、〝淫魔アヤナ〟

 二人の人生に幸あれ!」


 世界が光で満たされていく……。



 ユウトが言う。

「あれ? 今さっき、しれっと〝淫魔〟って言いやがった!!

 ちょっとストーップ、ストーップ!!」


 世界が真っ白になった。



……



 世界ゴエティアにある最大の大陸、アレイスター。

 その南東の港町アンドロマリウスの近郊に、ユウトとアヤナは転移した。


 ユウトの笑い声がこだまする。

「あははははっ、あーはっはっは……」


 アヤナが言う。

「もー、笑いすぎだよ、誰のせいだと思ってるのさ?」


 ユウトの笑い声がこだまする。

「……ひぃひぃ、ははは………。

 あー、久々に大笑いしたわ。

 てか、ボクのせいじゃないからね。

 女神様も言ってたじゃん、公平だって。

 でも、ずっと女子やらされてたボクに言わせれば、ざまぁって感じかな」


 アヤナはサキュバスになっていたのだ。

 頭には角、背中にはコウモリのような羽、スペードのような先端の尻尾が生えており、ユウトの甲冑姿とは対照的に露出の多すぎる衣服を身に纏っていた。


 アヤナが宙に浮いて、膝を抱えるようにして胸と股間を隠しながら言う。

「飛べるのは便利だけど、この姿はいきなりハードル高すぎるよ。

 あの女神め。よくもやってくれたな。

 とりあえず、ちゃんとした服買おう。

 できれば甲冑がいいな」


 ユウトが言う。

「だめだよ。まず状況確認が先。

 持ち物やステータスその他諸々。

 ところで、アヤナちゃんの無駄に大きな胸の間に挟まってるのはなに?」


 アヤナがいう。

「え? 胸? 何かあるね。

 てか、ちゃん付けやめて、こそばゆい」


 アヤナが胸の谷間から、折り畳まれた紙を取り出し、広げて確認する。

「んー。2枚ある。

 でも、何て書いてあるのか、さっぱりわからない」


 ユウトが取り上げる。

「どれどれ?

 取説じゃん。

 こっちがボクのだ。

 アヤナちゃんのはこっち……てか読めないの?」


「うん、さっぱり」


 ユウトが取説を読み込む。

「あー、そう言うことか、文字の読み書きの基本スキルがないのか」


「じゃ、俺のも読んでよ」


「うん……ぷっ」

 ユウトが吹き出す。


 アヤナが言う。

「なに? 変なこと書いてあるの?」

 

「アヤナちゃんは完全に後衛職。

 甲冑とかの重装備は着られない。

 今着ている感じの専用装備をオーダーメードするしかないね」


 アヤナが言う。

「普通の服も着られないの?

 羽織るだけでもいいからさ」


「魔力使うと放熱するために肌の温度が急上昇するから自殺行為だってさ」


 アヤナが言う。

「……あの女神め。てか、なんとなく暑いとは思った」


「異空間バッグってのがあるね。

 そこに荷物が一式はいってるみたいだよ。

 確認の仕方は……」

 

 ユウトがアヤナに説明した。

 二人は、異空間バッグの中身を確認する。


 ユウトが確認しながら言う。

路銀ろぎんが多めにあるみたい。ありがたいね。

 ポーション類とかもたくさん揃ってる。

 日用品もたくさんあるね。

 そういえば、アヤナちゃんの方には生理用品入ってる?」


 アヤナが確認しながら言う。

「……ある。しかも差し込むやつ。

 てか、俺、これからそれ使うの?」


 ユウトが言う。

「ぷっ、いい気味。

 女子なんだから使わないと大変なことになるよ。

 でなきゃ、バッグにはいってないよね?」


 アヤナが言う。

「そりゃそうだけど……。

 替えの下着も際どいのしかないな……装備的に仕方ないのか。

 日用品も女性向けのがバッチリ入ってるな。

 化粧品のセットも潤沢に入ってる。

 あ……奥の方に多い日用セットてのが入ってた、マジか、マジで憂鬱だわ。

 ん? 冒険者証?

 これは、なぜか読める。

 へぇー、スキルはこんな感じなのか。

 ほんとに後衛だ」


「ボクは対照的に前衛向けのスキルばっかりだ。

 でも極大魔法がいくつかあるよ」


 アヤナが言う。

「ほんとに? 俺にはないのだけど……。

 いいなぁ、俺も極大魔法使いたかったな。

 ってか、俺、特殊スキルは空白なんだけど?」


「ボクの方には、たくさんあるね。

 まぁ、前衛だし、偏ってるくらいの方がいいか。

 回復魔法は使える?」


 アヤナが言う。

「直接的なのはない。でも、エナジードレインとかで、HPを分配することはできそう。チャームってスキルで、被ダメ減らせるくらいかな。

 あ、バフでHP吸収系のスキルがいくつかあるね」


「なるほどね……最悪、ポーションガブ飲みで耐えるか。

 冒険者証見せてくれる?」


 アヤナがユウトに冒険者証を渡す。


 アヤナが言う。

「結構たくさんあるでしょ?

 覚えられる?」


「記憶力には自信がある。

 基本スキルで補正がかかってるから。

 覚えた、ありがと」


 ユウトがアヤナに冒険者証を渡す。


 アヤナが言う。

「はやっ、俺まだ自分のすら覚えてないのだけれど……。

 なんか能力がキタシロに偏りすぎてない?

 俺、明らかに弱いよね?」


「いいよ、ボクが頑張るから。

 アヤナちゃんは後ろで、

 ボクの指示に従って援護してくれればいいよ」


 アヤナが言う。

「……わかった。

 てか、ちゃん付けやめてよ」


「俺じゃなくて私って言ってくれるなら、考える。

 てか、これから女子やるのだから俺はないともうよ?」


 アヤナが言う。

「たしかに……努力する」


「すぐ慣れるから安心しなよ。

 それから、ボクはユウト。

 キタシロはアヤナちゃんだろ?」


 アヤナが言う。

「そうだけど……」


「ボクの名前を言ってみて?」


 アヤナが言う。

「……ユウト」


「よろしい」

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