第10話 ~ヴェロニカSIDE~

~セラフィム王国 王都~



 わたくし、ヴェロニカ・セラフィムは、セラフィム王国の第二王女ですの。


 わたくしは王族という最高の家柄と、恵まれた容姿をもって生まれてきた、選民の中の選民で、欲しい物はすべて手に入れてきましたわ。


 そんな完璧すぎるわたくしでしたので、いつも心のおもむくままに、毎週のようにパーリーを開いておりました。


 名付けて『ヴェロニカ・プレゼンツ・イケメンパラダイス!』。


 ステキなイケメン貴族たちを集めては、一晩中ダンスを踊って、ステキな恋とちょっとアダルトな一夜の逢瀬を楽しむのです。


 とってもステキでしょう?


 そんな素敵なパーリーの席で、わたくしは若くして伯爵位を継いだアンドレアス様と出会ったのでした。


 アンドレアス様を見た瞬間、私の心が不思議なほどにときめきました。


 理由は特にありません。


 侯爵家という家柄も、王女の地位から見れば大したことはありませんし、そこそこのイケメンとは言えそこそこどまりで、能力がさほどずば抜けているというわけでもありませんでした。


 でもアンドレアス様に出会った瞬間に、ビビッと心が震えたのです。

 アンドレアス様の笑顔を見るたびに、心がキュンキュン激しく高鳴ったのです。


 ですから理由をあげるならば、ただただそれは一目惚れだったのでしょう。


 そんなアンドレアス様のことが気になって気になって仕方がなくなったわたくしは、色々とアンドレアス様のことを調べてみました。


 するとなんということでしょう、アンドレアス様には婚約者なるお邪魔虫がいたのです!


 お相手は『破邪の聖女』と呼ばれる特殊な力を持っているらしい、ミレイユとかいう、どこの馬の骨かもわからない素性不明のうす汚い庶民上がりでした。


 ああ、なんという悲劇!

 わたくしの愛するアンドレアス様が、このような庶民あがりのサルの婚約者にされてしまっているなんて!


 同時に、わたくしはアンドレアス様を絶対に手に入れなければならないと、強く強く確信したのでした。


 だってわたくしは王女で、ミレイユとかいう婚約者は庶民なのですよ?


 同じ人を好きになったのなら、どちらが譲るべきかは火を見るよりも明らかではありませんか?


 当然ミレイユとかいう庶民が譲るべきでしょう。

 立場というものをしっかりとわきまえるべきです。


 婚約者だとかそんなものも関係ありません。


 だってこれは神に選ばれたわたくしの、純粋すぎる愛の発露なのですから。

 掛け値なしのトゥルー・ラヴなのですから!


 だから叶うべきだし、叶って当然なのです。


 それを婚約者などというくだらない理由で庶民に邪魔されるなんて、そんなの絶対許せないません――!


 わたくし、ヴェロニカ・セラフィムは、セラフィム王国の第二王女ですの。


 欲しい物はすべて手に入れます。

 今までも、そしてこれからも――!



「ねぇアンドレアス様、わたしアンドレアス様のことをお慕いしておりますの」


「申し訳ありません。ヴェロニカ王女のお気持ちは大変嬉しいのですが、ボクにはミレイユという婚約者がいて――」


「ねぇアンドレアス様? わたくしと結婚すれば、アンドレアス様は王族の一員になるのですよ?」


「そ、それは――」


 アンドレアス様の目が誘惑に泳いだのを、わたくしは見逃しませんでした。


 ここでわたくしのモノにしてみせます――!


「ねぇアンドレアス様……アンドレアス様は、この国をご自分の手で動かしてみたくはありませんか?」


「ボクの手で、この国を……?」


「わたくし見てみたいな、アンドレアス様がいつかこの国の王になる日を――」


「ボクが、この国の王に――あ、いや、でも――」


「ねぇアンドレアス様。わたくしってせっかちなんです。だから今この場で、お返事をいただけませんか?」


 わたくしはアンドレアス様の胸にしなだれかかりながら、上目づかいで見上げながら、とろけるような甘い声でそっとつぶやいた。


「ヴェロニカ王女、ボクは――」


「そろそろ夜も更けて参りました。ねぇアンドレアス様、今からわたくしの部屋に参りませんか?」


「――――」


 答えはすぐに出ました。

 当然です。


 だってわたしは王女で。

 神に選ばれたエリートの中のエリートなのですから――。


 選ばれないはずが――ありません。

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