第10話 過保護まじうぜーーー!!

そして俺は日曜日当日を迎えた

まだ誰の場所に行くかも決められないまま、とりあえず上野を探した

じいさんが言うには夜の6時には完全に実体を失うとのことだ


「もう...どうしよ...」


時計の時刻は午後14時を迎えていた

約束の時間は上野も朝比奈も桜も18時

やばい...

そもそも上野は消えたかった

別に上野はまた記憶喪失になって帰ってくるわけで、結局現世に残そうとしている俺って一番タチが悪いんじゃ...


ふとテーブルを見ると上野のハンカチが見えた

ハンカチの端にはしっかりと

"一丁目病院"と記載があった





17時40分


「先輩、まだかな〜」


駅前にはたくさん人がいた

人生で初めて私は浴衣を着たが、なんだか着慣れない

先輩は、可愛いと言ってくれるだろうか


「ブーブー」


[ごめん、朝比奈 俺祭りには行けない]


「あーあ なんとなくわかってたのに、私バカだなぁ」








18時、大きな花火が上がった

私から見えた花火は、何故かぼやけて見えた


「も、もう、バイト先の人に...

って、ダメだな私

成長しなきゃ」


涙を拭いて、私は携帯を閉じた

失恋後の花火は、なんだか綺麗に見えた





17時30分


私は最低なのかもしれない

好きでもない人の好意を利用して、私だけが得をして

もう約束の時間まで30分だ

そろそろ用意して...


「さ、桜...」


ドアを勢いよく開けて相談所に来たのは一輝だった


「ちょ、何 どうしたの?」


「上野...上野ここ来てないか?」


「いや、来てないけど」


「わかった ありがとう」


その答えを聞いて彼は走り出した



私も何故か彼を追っていた

この時には、もう私は本当の気持ちに気づいていた

私のためにここまでしてくれて、私は最初に好意が無かったからと言って彼を好きじゃないと思い続けていた

迷惑かけちゃダメだと思ってた


「ちょ、待って一輝!」


「どうした? なんかあった?」


これで、迷惑をかけるのは最後にしよう


「ごめん、私 嘘ついてた」




きっともう彼の目には他の人が写っているんだとわかっていた

でも、それでも





「好きじゃなかったのは最初だけ...

でも、こんな私にここまでしてくれたのは君だけだから...」


他の男とキスなんてしても何も気持ち良くなんてなかった

でも、彼とは一緒にいるだけだったのに、なんで...


「私、あなたが好き」





「ありがとう、桜

でも、ごめん

あと、今日の約束にも...行けない」






そう言って彼は走って消えた

そっか...


17時58分

私は一度も自分でなんとかしようと思ったことがなかった

都合よく人をコマとして使って、私が傷つかないように他人を傷つけていた

これじゃ、ダメだね、私


「あら、桜〜! もう来てたのね!」


「例の彼氏は?」


18時、打ちあがる花火と共に、私は自分の全てを伝えた


「過保護まじうぜーーー!!」


初めて親にこっちの私を見せたが、なんだか清々しかった








14時30分

その後俺はハンカチに書いてあった病院に行った

「この病院の 上野かな さんに会いに来ました...」


予想通り彼女のハンカチに書いてあった病院名は上野が入院しているところのようだ


「こちらです どうぞお入りください」


病室に入ると、なんとも気持ちよさそうに寝ている上野の姿があった


「さてと、ここからどうするかだな」


ここに、こいつがいそうなヒントがあると思って来たが、思った以上に何もない...

よく考えたら居場所を探るのってクソむずいな


「結局何もわからねぇか...」


彼女がぐっすりと寝ている姿はとても可愛かった

まるで眠れる森の美女だ

携帯を見ると時間は15時を回っていた


「あれ、今日は来客がいるんですね」


「あ、どうも 上野さんの友達(?)です」


「私も同じ感じです かな の友達」


同い年くらいの女性が病室に入ってきた

彼女は来ると、花瓶に花を入れて上野の近くまで来た


「じゃあ、私はここで...」


「なんで かな が身を投げ出したのか知ってますか?」


「えっ...」


彼女の声は先程の声とは違って真剣な声だった


「いや、知りません...」


「少し話させてください これは かな の母から聞いた話です」


彼女はそう言いながら全てを語ってくれた

俺はもう一度座り直して話を聞くことにした







上野はシングルマザーの家庭に生まれた

母親は家賃と食費を稼ぐのに必死で、ほとんどおばあちゃんが面倒を見ていたそうだ


「おばあちゃん! 私小学校に入ったらたっくさん友達作るから!」


「そうかい そうかい 

おばあちゃんも楽しみだよ」


小学校入学前日におばあちゃんは倒れた

上野はおばあちゃんの顔を最後に見たのはその日の前日で、倒れた日は小学校の準備のために母親と一緒にいたそうだ


「おばあちゃん...」


唯一信頼していたおばあちゃんがいなくなったことで、彼女は深い傷を負った

母親はその後も忙しく、彼女のケアは出来なかった

小学校にも最初の4〜5ヶ月は行けなくて、だから少し浮いちゃっていた


大学生になっても彼女はほとんど一人だった

たしかに優しい友達、優しい後輩は沢山いたと言っていた

でも、彼女にはいなかった

本当の自分を見てくれるおばあちゃんみたいな人が

そうして思い悩んで彼女は身を投げた




「これが母から聞いた話です

まあ結局、彼女からは何も話してくれなかったので、憶測でしかありませんが」


「... お話ありがとうございました」


俺はそう言ってダッシュで病院を出る

時間はもう16時

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