第8話 新たなる後継者 前編(弟子はテンプレを丸焼き)。

 む、マドカの方を追うべきだったか? 

 なんか遠目で桜香がピンチみたいだったから、エンジン全開で突っ込んでみたが……。


「はい、ちょっとそのブレス待とうか?」

『──ガブっ!?』


 うん、勢いよく蹴ったが、思ったより深めにくい込んだ。ちょうど開いていた口を塞ぐように上唇を踏んだが、硬いのと独特な感触が脚にきて、なんか気持ち悪かった。

 普通の人間なら落とした踵の方が砕ける強度はあったが。


『──ブゥゥゥゥゥ!?』


 そして、間抜けなドラゴンフェイスの完成である。

 反撃されても嫌なので、そのまま顎から地面へ落ちる竜を踏み台にして、離れるように回転して地上へ着地した。


「……刃?」

「に、にい……さん?」


 側にいた桜香、少し離れたところで緋奈が呆然と見つめているが、俺は横目で視線を向けただけにしておく。

 非常事態なのは明らかで、別に今すぐ二人に話したい事がない。話し始めたらすぐ終わるとは思えないし。


『グルルルルルッ』


 それと明らかに俺に敵意を剥き出しなドラゴンが俺たちの会話中、行儀良く大人しくしてくれるとは到底思えない。保証ゼロであった。てか、お口デカ。歯は無事なのか?


「まぁ、それも込みで踏んだんだけど」

『ガァァァアアアアアッ!』


 俺の苦笑混じりなセリフが開戦のゴングとなった。

 全速力(多分)なドラゴンの突進。顎門を大きく開いて俺を噛みちぎろうとする。

 あら、綺麗な歯並び。ギザギザで太く尖ってなかったら理想的。


「っと……!」


 その顎門の攻撃を桜香から離れるように、俊敏よく退がって避ける。……ガッシャン!と凶悪な歯と歯が鳴り合っているのを聞くと若干ヒヤっとした。


「遠慮なしか。もっと仲良くいこないか?」

『グルルルルルァアアアアアア!』


 無理ですか。そうですか。


「残念無念」


 パンと手を合掌のように叩いた。───『融合』……発動。

 瞬間、混ざり合う。俺の中に宿る


「敵対するなら……覚悟しろよ?」


 次第に身体中に巡って馴染んでいく。

 視界を含んだ五感がよりクリアになって鋭くなる。思考回路もより加速して、僅かに抱いていたこいつに対する恐怖心も消え去った。


「俺は対人より怪物退治の方が得意だ」


 あのダンジョンの怪物共と四六時中相手されたから、なんていちいち言わない。

『魔力・融合化』の効果時間には限りがあるので、さっさと終わらせよう。


「……」

『?』


 ガシッとドラゴンの顔を片手で掴む。

 ドラゴンは目を点にして反撃する気配はない。

 そりゃそうだ。本当にただ掴んでいるだけだから……今だけは。


「……」

『───ッ!? ギィィィィィアアアアアアアアッ!?』


 固有の『オリジン・スキル』を叩き込む。

 手から流れ出すチカラは、あらゆる魔物を内部から破壊するスキル。

 途端悲鳴を上げたドラゴンが離れようとするが、頭に乗るように俺が引っ付くと悲鳴を上げながら暴れ出した。


『ギィィィァアアアアアアアア!』

「無駄だ。お前が死ぬまで、この手は離さない」

『……ッ!?』


 最後のセリフ。どうせ言うなら好きな女性に言いたかった。今はいないけど。

 俺の言葉が通じたか知らないが、ショックを受けたように固まった竜。恐怖を滲ませた鋭い瞳が大きく揺れていた。


「な、何が起きてる……?」

「兄さんが何で此処に……?」


 そして、頭部から流れていくチカラが影響して、次第に内部から肉体が崩れ始める。弱らせた訳じゃなく、巨体なことも影響してか少し時間は掛かっているが、この調子ならあと1分もあれば……。


『グルルルルルルッ!』

「ッ、今度はなんだ!」

「空から鳥型の魔物が……え、あのフォルムって」


 独特な鳴き声。獣のようだが、何処か響きが違う。

 鳴き声に驚いた桜香の声と緋奈の声よりも、俺は近づいて来たソレを既に察知していた。


「二体目の魔物グリフォンか。ドラゴンの危機に反応して助けて来たか?」

『グルルゥゥゥゥッ!』


 空から羽ばたいてやって来たのは、鳥獣の魔物。

 大きな爪の四足歩行、ドラゴンと同じで見た目は灰色だが、所々で黒色の羽毛もある。

 あとドラゴンと同じであの魔力がしっかり感じ取れる。間違いなく、俺の獲物だ。


「墜ちろ……!」


 片手でドラゴンの頭を押さえつつ、片手の指先から炎の玉を放つ。

 基礎・初級魔法の一つ。火系統の『火炎弾ファイア』が迫って来ていたグリフォンの翼に直撃。貫通はしなかったが、その羽毛に燃え移って発火。


『グルッ!?』

「消し炭だ」


 燃え移った炎が一気に爆散。すると片翼も骨まで高熱で粉々の炭となった。


「う、嘘っ!? 初級魔法の『火炎弾ファイア』の熱量で……」

「その射程も変ですよ……! 十メートル以上は狙いが定まらなくなるって、確か本にも……!」


 もう二人の戸惑う声が雑音でしかない。

 余計な雑音は排除して、落下して倒れたグリフォンと目の前のドラゴンを目をやる。

 ドラゴンの方はほぼ終わっている。悲鳴も弱くなって外側の皮膚も崩れ始めた。想像より粘った方だと俺は思う。


『グルッ、グルルルルルルルッ!!』


 一刻の猶予もないと悟ったか、片翼を失っているが、構わず駆け出して来た。

 まるで一つの台風のように見える。残っている片翼が風を纏って、暴風の塊となって迫って来ている。

 奴が駆けている地面は大きく抉れて、近くの物が吹き飛んで俺の元へ一直線に───。


 ───『身体強化ブースト』。


 その前に俺は異世界の魔法である『身体強化ブースト』を発動。

 こちらの世界にも身体強化の魔法は存在するが、こっちの方が慣れているので俺はこっちを利用している。


 ───“羅刹ラセツ


「フンッ!」

『グルッ!?』


 一トンはありそうなドラゴンの巨体をグリフォンに向けて投げる。掴んでいた片手のみで。

 暴風のグリフォンは大層たいそうな驚きを見せているが、急停止が出来なかったか、咄嗟のジャンプも間に合わずドラゴンと激突した。


『グルルルルッ!?』

『ギィアアアアアアアア!?』


 グリフォンはともかくドラゴンの方は最後の断末魔にも聞こえる。

 強靭な竜の鱗が暴風の刃で削れて、中の肉まで届いている。抉れて血飛沫を上げるドラゴンを見て、グリフォンは狼狽した様子で、とにかく纏っている暴風を止めようと慌てて緩めたのを───俺は


「『火炎弾ファイア』、『微風刃ウィンド』……」


 人差し指から風船のように膨らませた炎の玉を構える。

 そして狙いを二体の魔物へ定める。膨らませた炎の玉越しに息を吹き付けた。


 融合魔法『火龍劫火フレアード』。


 膨れ上がった炎が風によって熱量と形態を変化させる。

 巨大な龍の姿をした劫火龍が二体に巻き付くようにして、最後はその顎門で二体丸ごと飲み込んでみせた。






「へぇ……面白いね。彼──って!」

「逃すと思いますか?」


 別の建物の屋上では、刃の戦闘を覗いていた真っ白な女性を追い詰めるマドカが対峙。
 異質な気配を纏うドレスの姿の彼女に対して、マドカは何故か白のメイド姿。短めの黒刀を逆手で構えて、鋭い一閃を浴び続けた。……だが、踏み込み過ぎず、最大の警戒を持って相手と向かい合っていた。


「君も……普通じゃないね? もしかして人外かな?」

「答える義務がありますか? 

「クククッ……本当に面白いねぇ。そこまで知ってるんだ?」

「否定しませんか、なら貴方は私の敵です。貴方個人に恨みはありませんが、魔神は全員私の敵ですので」

「一切差別なしか。何か事情がありそうだけど、ボクの興味は君じゃない」


 仮装マスク越しで嬌笑な瞳を彼女へ向ける───魔神は両手から血のように赤い魔法陣を生成した。


「じゃあ、もっと見せてもらうかな? カ・レ・ニ」

「ッ、させません!!」


 もう待ったなし。即断で危険領域に踏み込んだマドカの一閃が魔神の首元へ。


「甘いよ」

「ッ!」


 しかし、一瞬で魔神が遠くへ移動したことで躱される。

 すぐにマドカも察知して振り返るが、魔神が発動させた魔法陣の準備は既に終わっていた。


「さぁ、暴れようか───『邪悪魔獣・融合イービル・フュージョン』発動」


 刃達がいる場所へ発動した赤い魔法陣を飛ばした。具体的には刃が燃やし尽くした二体の魔物の残骸地点へ。


 彼に興味を示した魔神が新たなゲームを仕掛けようとした。



*作者コメント*

 刃の融合化状態で使用する『身体強化』には、通常状態以外にもいくつか種類が存在する。


 その一つである『羅刹』は筋力の飛躍的な超強化。

 スピードなど機動力が低下する代わりに、攻撃力が数段アップする。

 一トンくらいのドラゴンも片手で投げ飛ばせれる。

 さらに体術の師匠から極悪的な格闘術を伝授されて、拷問紛いな技も会得している。

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