第4話 親友(弟子はテンプレを恨んだ)。

 龍崎刃は親友以外の何者でもない。 

 四条尊は学力、運動力、そして魔法力、全てにおいて天才かつ容姿に至るまで優れていたが、その正体はただの小心者。人見知りでウブでヘタレ、それが四条尊の本質であった。


 一番の原因は家柄と整った顔立ちであった。子供の頃から男友達が中々作れず、苦手なのに異性からチヤホヤされる度に影で虐められていた。

 さらに勉学では成績が良く、魔法の授業でも優れていたこともあり、連鎖的に虐めは悪化して、余計に他人を避けるようになっていた。


「そんなに凄いのに勿体ない。まぁ、苦手ならしょうがないかもな」


 もし家の付き合いで刃と知り合いになっていなければ、性格が歪んでいてもおかしくなかった。自分の鍛錬で忙しい筈なのに、彼が困っている度に相談に乗ったりフォローしてくれていた。


「いつか自分でどうにか出来るくらい成長してくれ。いつまでもお前らの側にいられるか……分からないんだから」


 だからこそ尊は刃に感謝している。一番の親友は間違いなく刃だ。

 だからこそ許せなかった。自分と同じかそれ以上に彼を想っていた筈のあの二人が彼を裏切ったことが。


「何をそんなに怒っているの? あんな欠陥魔法使い、居ない方がみんな幸せでしょう?」

兄さんあの人が神崎に残ったままでは、他の者達のいい笑いものです。家の評価にも関わりますし、別に外に放り出した訳ではありません。寧ろこれでもかと譲歩した結果ですが?」


 無駄に厳しい家の都合だ。追い出されたのは仕方ないと尊も分かっている。刃の親たちも苦渋の決断をしたのも彼は理解しているが、あの二人が一切反対せず、強く賛成したことがどうしても許せなかった。


 結局のところ結果は変わらなかったと思う。だが、もしまた同じようなことがあって、あの二人や他の人達が彼を蔑んだり、影で笑っているのをもし見たら───尊は自分を抑えれる気がしなかった。



 ───『火の化身』と呼ばれたその力を解放してでも、奴らを黙らせたかもしれない。




「え、魔法使いの資格カード?」

「ああ、引き出しに入れてたと思うんだが、見付からなくてな。何か知らないか?」


 部屋を出て、客達が集まっているであろう大広間へ向かう。

 途中、防犯カメラを見て駆け付けた警備の人と一悶着が起きそうだったが、ミコが上手く誤魔化して俺の事も説明すると、慌てたように謝罪して帰ってくれた。

 そろそろ時間も時間なので、歩きながら俺の次に人の部屋に入ってそうなミコに尋ねてみたが……。


「うーん、見てないな。親父さんが持っているんじゃないか? アレって一応『魔法の政府』の大事な物だし、警務部隊の親父さん的には放置出来なかったんじゃないか?」

「やっぱそうなるか。だとすると説明が余計に面倒になりそうだな」

「さっき言ってた学校の話か? 別に大丈夫じゃねか? だってもう神崎家とは関係ないんだろ? もう自由でフリーダムじゃん!」

「自由もフリーダムも一緒だと思うが……」


 魔法学校の入学は俺の目的の第一歩。

 出来れば逃してたくないが、あの人が素直に渡してくれる展開がどうしても想像できない。

 またテンプレ展開でバトルに走っちゃいそうで怖いんだが。


「にしてもジンだって強くなったじゃねぇか! オレの蹴り、見ずに避けるなんてよ!」

「まぁ、俺も色々あったからな。ここ数年……それを言うならお前だって、昔より体術が上がってるように見えたぞ?」


 具体的には向こうの世界で数年であるが、余計な事を言って話をややこしくする必要もない。

 問われても面倒なので、さり気なく話を逸らしてみたが……。


「うちのクソジジィと姉貴が鬼なんだよ……。次期当主だからってオレをイジメて……!」

「……あー、そうか」


 あ、ヤバい、地雷踏んだ。

 盛り上がっていたら、一瞬でどんよりとした空気になってしまった。

 どうやら四条家はミコを当主にする方針で固めているようだ。優しめな父親はそうでもないが、その分厳しめな祖父と、しっかりその血を引き継いでいるミコの姉さんが昔から超厳しい。


 なんせ火の神を祀る寺の生まれで、『火の化身』とまで呼ばれた天賦の才の持ち主だ。

 人見知りやヘタレの性格さえなければ、完璧かつ歴代最強かもしれない四条の後継者と呼べる。

 同じく神崎家の『神童』と呼ばれたうちの妹とよく比較されていた。

 厳しい教育方針だと前から思っていたが、どうやらまだ続いていたらしい。


「階級は何処まで上がったんだ? 【魔法剣士】?」

「いや、厳しかった分しっかり実ってたらしい。1年前から【魔法師】。試験官からは【魔導師】に近いって褒められたよ」


 これはビックリだ。既にプロのレベルに達して超えていたか。

 階級的には【魔法剣士】からプロの領域だが、【魔法師】はさらに上の一流のプロだ。相当厳しい修業を積んできたと思うが、まだ中学生なのに……やはり天才肌だな。中身はヘタレだけど。


「残念ながら俺はこれ以上階級を上げれそうにないが、魔法使いの道を諦めたつもりはない」


 そう、魔力が条件である以上、もう階級は絶対に上がらない。

 裏技を身に付けることには成功したが、公になるのはもっとマズイ。ていうか、絶対アウトだから。


「まぁこれでもそこそこ腕は上げたつもりだ。カードさえ手に入れば何とかなるさ」


 多分。……わざわざ言わないけどな。

 なんて会話をしている間に一階まで降りていた。





「あ、尊さまだわ! 新年いきなり縁起がいいわ!」

「ああ! 癒されるぅ! 頭ナデナデしてほしい!」

「抱き締められて、お持ち帰りしてくれないかしら!?」

「……ちょっと、あの隣の男は誰? 見ない顔だけど、まさか孤高の騎士である尊様のご友人!?」




「ハーレム級の人気者だな。何だよ孤高の騎士って」

「やめてくれ……い、胃が痛いんだ」




「え、嘘……」

「あ、彼は……まさか!」

「いや、だが、どういうことだ?」




「そっちだって結構注目されてんじゃん」

「……随分顔を出してない筈なんだが、人の記憶って意外なところで厄介だな。頭が痛い」


 広い洋風の客間に着いてみれば、時間も近いので流石に人が集まって来ていた。

 五十人は入れそうな広間で、二十人程が居ていくつもあるテーブル席に座っているか、立って喋っていたが、俺たちが部屋に入った途端、大半の視線がこちらに集まっている。


 普通ならあり得ないことだが、片やイケメン、片や元この家の息子だ。知っている奴なら視線が移っても仕方ないのかもしれないが、それは向けられているのが他人だった場合だ。当人からしたら堪ったものではなかった。


「分かれるか、それとも適当な席に座るか?」

「幸い一番騒がしそうなアイツらまだ居ない。ジンと一緒なら女の子達も少しは遠慮してくれそうだし、他の連中は……威圧で睨めば勝手に退がるだろ」

「後者の方が大変そうに聞こえるが、ミコにとって女の方が脅威か」


 ここ数年顔を出してないから知らない顔が多い。正直記憶が怪しいが、何人かはガキの頃に何度か話もしたことがある気がする。親父達の年代から同い年くらいの奴らも視線を向けてくる中、俺はミコに案内されるように、自由に座れるテーブル席まで移動した。


「ああ、早く帰りたい」

「オレも……これなら慣れてる神主の仕事を手伝った方がマシだ」


 そこからしばらく、鬱陶しい視線や耳障りな呟きを無視する苦労させられた。

 ミコ目当ての女性達は、正体不明な俺の存在に臆してか一定距離を保つだけで近寄って来なかった。

 中には知っている人もいたが、それはミコではなく、俺目当てで近寄ろうとした相手を睨み付けたミコの反応を見て断念。昔から俺とミコが仲が良かったことを知っているのかもしれない。


「そういえば、他の四条の家の人達はどうした? 咲耶さくや姉さんも来てないのか?」

「ああ、この時期はどうしても神社が忙しくてな。2年くらい前から代理でオレしか来てない。姉貴は彼処の巫女代表だから色々やることがある」

「言われてみればそうだな」


 帰省の問題で忘れてたけど、今日は元旦。お正月で神社とかが一番大変な時期である。四条家程の有名な神社なら、間違いなく大忙しなのは明らかであったが……。

 

「ならなんで一番こういう場所が苦手なお前が来てんだ?」

「この時期にオレが神社にいると大騒ぎになるから。……あとコミュ障克服も兼ねてるらしい。鬼姉貴曰く」

「ああー」


 ──教育的指導。流石は咲耶姉さん。挨拶出来なくて残念とか思ったが、この場に居なくて本当良かったと、こっそり心の中で安堵した。

 あとこうして話していれば、親父が来るまで大丈夫だと思った。ミコが睨みを利かせてくれたお陰で、全員ではないが、なんとかなりそうな気がした。



「オイ、なんで此処に欠陥品が混じってんだ?」


 気はしたんだが……。


「不良品はさっさと消え──ガバブブブっ!?」

「──黙れゴミが。テメェが先に消えな」


 そして何か割り込んで来て、何か言い切る前にキレたミコの回し蹴りで、部屋の隅まで吹っ飛んだ。気の所為か足が燃えてるように見えた。


「……」


 とりあえず、俺はテンプレを恨むことにした。

 同時に「早く来てくれ親父ィィィっ!」と心の中で絶叫した。

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