青春の2ページ目
ロジー
第1話 1ページ目の出会い
ー今日会える?
そんなメッセージがスマホに届いた…
いつもの朝、食パンに目玉焼きホットコーヒーがいつもの朝食だ。
慣れた手付きで半熟の目玉焼きを作り食パンを焼く、ホットコーヒーはインスタントで充分だ。
ただ、今日の朝は違う。白米に焼き魚、味噌汁、納豆だ。今日違う理由は単純で、会いたくて会いたくて会いたすぎて会いたくない人と会ってしまったから。
初めて会ったのは、そう俺の誕生日。友達が開いてくれた19歳の誕生会だ。
高校卒業後プラプラしていた俺は、何を思ったのか美容院で働くことにした。もちろん美容学校など行っていない。人を輝かせたいと、幼いながらも心のうちに秘めていた事は友人には秘密だ。
そろそろ仕事ありきの生活に馴染んできた頃、プラプラしている時に遊んでいた同級生の忠弘から電話が入った。俺は少し懐かしい気分になり何コール目かに電話に出る。
「もしもし、久しぶり元気か?」
忠弘の声を聞くのは数ヶ月ぶりだったが、懐かしさに俺の声は上擦り旧友との会話を続けた。
忠弘も、高校卒業後プラプラしていた。実家に住んでいたが親父さんの転勤に伴い県外への転居が決まっているらしい。もちろん忠弘は一人暮らしをする余裕はないので、着いてくみたいだ。
「それでな、久しぶりに遊ばへん?」
プラプラしていた頃では、考えられないが翌日の事を思うと前のめりの返事はできない。いくら仕事ありきの生活に馴染んできた頃でも、夜遊びできるほどの気力は無かった。俺は少し考えてから。
「まだ仕事慣れてないから翌日休みの日なら遊べるぞ」
休みの前日なら気にせず遊べる。俺が美容院で働き出したことを知っている忠弘なので。
「おーなら休み月曜日やろ?明後日の日曜日でどうよ」当時大半の美容院は月曜日定休だったのだ。
俺も翌日に仕事が無ければ遊びたいので明後日に決まった。明後日の仕事終わりに忠弘が職場に迎えにきてくれることになった。
スマホに届いたメッセージは数十年の月日をゼロにする。懐かしい思い出に耽っている内に食パンは焦げ焦げになってしまった。
焦げ焦げになった食パンは、俺の思い出と一緒でほろ苦い味がした。そりゃそうだ焦げているんだから。
そんな内なる自分に酔っている間にも刻々と時間は過ぎる。あっいけねー遅刻だ。俺は、急いで家を出る。今日の夜を楽しみに急いで職場へと向かう。いつもは、車通勤だか今日は電車に飛び乗る。電車で向かう理由は1つだ。仕事終わりの一杯をもう何年も会っていない友人と飲み交わす為だ。お互いの仕事終わり繁華街の駅前で待ち合わせだ。お互い歳を重ねた見た目も変わっているだろう。
今では考えられないがあの頃の1日は今よりも長く長く感じていた。特にお客さんが入っていない時間は地獄だ。1分が10分にも感じられたそんな頃の明後日何て、悶々とする程に待ち遠しく感じていた。
俺は、久しぶりの再会を前に浮き足立ちながらも仕事終え約束の繁華街へと向かう。
えっ?仕事はしっかりやったのか?だって、勿論だ。俺も中年だ。ある程度、社会の流れに揉まれてきたつもりだ。
スマホを取り出し早速メッセージを送る。 「到着!今どこだ?」
返信は、すぐに届いた。
「こっちもさっき着いたところ、カフェの前に居る」
駅前には二軒のカフェがある、一軒は若者が好んで行くお店。もう一軒はどちらかと言えば中高年が良く行くお店だ。俺は迷わず中高年が良く行くお店へと向かう。
「了解、今向かってます」
一応向かってる事だけは知らせておく、入れ違いになるのは二度手間だからな。
少し歩くとカフェに到着した。カフェの前には待ち合わせだろうか、数人の人間がスマホを片手に周りを伺っている。
1人の男性らしき人物がこちらを怪訝な表情で見てくる。あいつなのか?あいつは、小走りで近づきながら声をかてきた。
「おい!久しぶりだな!元気してたか?老けたなー」
何年か振りの再会でも会えば一瞬で昔に戻る。少し驚いていた俺は「おー久しぶり!変わったなー!誰かわかんなかったぞ!」
「そりゃそうだ、もう何年も会っていないからなお互い様だ」
俺たちは、その場で少しお喋りを重ね近場の店へと足を運ぶ。何軒か連なっている内の新鮮魚と看板に書かれている店に入る。
店内はほどほどに混んでいそうだが、カウンターに空きがあり待ちなしで入る事ができた。
「とりあえずビール?」
と俺に尋ねてくるあいつは、少し大人になったのだろう。
「オッケー、俺刺身とたこわさ食べたい」
あいつも同じ思いだったのだろう。
「ビール2つと、刺身7点盛りと、枝豆とタコワサ、後はこの当店オススメのサラダ頂戴」俺は、メニューを指差しながら注文しているあいつを見て昔を思い出していた。あの頃のあいつなら今の3倍ぐらいのスピードで注文するだろうし、サラダだじゃなくフライドポテト一択だろうなと時の流れを感じながらも再会に浮き足立っていた。
すぐにビールが届いた。
「再会を祝してかんぱーい」
待ちに待った当日だ。たった2日間されど2日だ。今日は特に予約のお客さんもいないので早く終わりそうだった。まっ大抵は予想通りには行かない。今回もギリギリでお客さんが駆け込んできた。客商売ゆえのジレンマだ。今なら有難い事だが、当時はとても嫌な気分になっていた。仕事よりもプライベートが優先なんだから。俺はその日以来ギリギリに入店する事を避けるようになった。余談だが…。
忠弘から既に外で待っていると連絡が入っていたので俺は店の前に停めてある真っ赤なクルマの助手席に座っている忠弘に視線を伸ばした。
俺は、顔の前で両腕を交差させ、バッテンマークを作りもう少しかかると口パクをしていたが勘の悪い忠弘には伝わらず、代わりに運転席にいる女が気づいたようだ。女は両腕を大きく上げ顔の前で○印を作る。その女を俺は知っている。昔少しだけ付き合ったことのある3つ上の元彼女だった。元彼女が来るとは聞いていなかったが特段気まずい関係ではないので、気にも留めなかった。
駆け込みのお客さんは仕上がりが気に入らないのかオーナー兼トップスタイリストの前原さんに文句を言っているようだ。正直言って俺はその様子を見てどうでも良く思えていたし、もう自分がいても大して役に立つ事はないので先に帰ろうかと思っていた。しかしその気配を察知したセンパイから釘を刺され駆け込み客が帰るまで渋々待っていた。
このあいだこそが1分を10分にも1時間にも変える俺の大嫌いな時間だ。
ようやく納得したのか渋ちんの客は帰って行った。俺は心の底から駆け込み入店だけはしまいと誓った。オーナーは疲れ切った顔をしていたが、俺の尻を触り今日は上がっていいよと声を掛けてくれた。正直もっと早くていいだろうと思ったがそそくさと挨拶をし店の前に停めてある真っ赤な車の後部座席へと乗り込んだ。
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