第20話・防御特化艦【ブラックハート】


 惑星ガルバンゾ星域──赤い衛星キドニー近くの空間に、防御特化艦ブラックハートは跳躍してきた。

 対峙するホボ邪魔団の大船団を前に、ロックウェルはひゅうと口笛を吹く。

「こりゃまた、廃棄寸前で売却された豪華客船の改造宇宙船やら。どこかの星の中古軍艦を寄せ集めた、豪華な宇宙船団だな」

「シャーまだ、惑星ガルバンゾに対する嫌がらせは開始していないみたいシャー。どうします艦長、先制防御で一番でっかい艦にぶち当たりますかぁ、よっシャー」

 艦長椅子に座ったミリ・ヘレンが、バスタブのような大きさのティーカップに注がれたミルクティーを飲む。


「向こうから何も仕掛けてこないのに、こちらから手出しする必要もないだろう……それに、織羅側とアリアンロード側は目安箱にSOS通信を発信した人物と。ホボ邪魔団に依頼した人物を確定してから動いても遅くないと言っているからな……焦らない、焦らない」

 椅子に座って、モチのようにグデェとリラックスしているポアズが言った。

「その織羅側とアリアンロード側から通信入っています……アリアンロード側からは、状況を見て場合によってはアリアンロード十五将の中から数名の将を、お助け人として派遣してくれるそうです……モチ肌ぐでぇ」

「それは心強い」

「織羅側からは、えーと……極楽号防衛の迎撃責任者『鉄ウサギの月華』と、口から冷気を吐く東洋竜頭族の運転手が一人というか一匹……あと一人は……えっ!? まさか、この人が来るの!?」

 ミリ・ヘレンがポアズに訊ねる。

「誰にそんなに驚いている? 織羅・レオノーラか?」

「違います……銀牙系伝説の巫女、イカ巫女です」

「イカ巫女?」

 ミリ・ヘレンは巫女姿をした等身のイカを思い浮かべ、ミルクティーを飲みながら含み笑った。


 その頃、惑星ガルバンゾに極楽号から向かっている中型宇宙船があった。

 操縦者はカプト・ドラコニスの色違いの弟で、口から冷気を吐く『カウダ・ドラコニス』

 乗員は『鉄ウサギの月華』に加えて一名。

 スダレ前髪を少し掻き分けながら月華が言った。

「惑星ガルバンゾには、すでにナユタが先に入って情報集めをしてくれているから……あたしたちは、穂奈子をガルバンゾに無事に送り届けて護衛するコト」

 月華は、少し離れた陰になった座席に無言で座っている十代後半くらいの少女に目を向ける。

 顔の辺りが陰で隠れている少女の服装は、金属製の肩当てや腰防具を付けた巫女姿だった。

 月華が『穂奈子クローネ三号』に、向かって心配そうに訊ねる。

「もしかして、連続の跳躍で酔った? 惑星ガルバンゾはもうすぐだから」

 イカ巫女こと、穂奈子クローネ三号は、包帯が巻かれた口元と喉で静かにうなずいた。


 惑星ガルバンゾの昼の公園のベンチ──一人座った、ココ教授は開いた新聞に目を通していた。

 紙面を連日独占しているのはホボ邪魔団の嫌がらせが、いつ開始されるかという不安のニュース記事だった。

 新聞を読んでいるココ教授のところに、ナユタがやって来て言った。

「紙の情報媒体ですか」

「なんの用だ、儂は別におまえさんに用はないぞ」

「いやぁ、ホボ邪魔団に惑星に対する嫌がらせを依頼した人物がわかったもので……ココ教授、やっぱり貴方でしたね」

「ふんっ、それがどうしたら」

「全財産を依頼金に使った……亡き妻と一緒に住んでいた思い出の屋敷まで売却して、今は安い借家住まい……やっと分かりました、ホボ邪魔団に依頼した人工災害発生の期日は、明日……亡くなった奥さんの命日ですね」

 ココ教授は読んでいた新聞紙を閉じると、両目を細め雲の間に浮かぶホボ邪魔団の宇宙船を眺める。


「妻は元々、体が弱かった……それに加えて、ここ数年の大気汚染の影響で妻の喘息が悪化してな……田舎に住むコトも考えたが、妻が生まれ育った土地から離れるコトを嫌がってな。土壌汚染、水質汚染、海洋汚染、森林の過剰伐採、自然環境の破壊が妻の体調を悪化させ死を早めた……妻は星に殺された、いや違うな星には罪はない」

 ココ教授は拳を握り締める。

「人間のエゴイズムに殺された」

「だからと言って、人工災害を依頼するのは本末転倒ではないですか……惑星研究者の貴方なら、惑星ガルバンゾの悲鳴は聞こえているはずでは?」

「ふん、儂も大きな災害は望んでおらん……天災は人災、それをこの星の連中にわからせるためだ……惑星には自然治癒力がある、だが人間のエゴイズムは、惑星の治癒力を遥かに越えている……ホボ邪魔団の嫌がらせ程度なら、それほど惑星に与える影響は少ないじゃろう」

「だと、いいんですがね」

 ナユタは遊牧民風衣服の頭布を少し下げて目元を隠した。


 その日の夕刻、ホボ邪魔団の嫌がらせ船団は、惑星ガルバンゾの上空随所に散って嫌がらせ準備に入った。


 明朝、朝日と同時に数日間に渡る嫌がらせが開始された。

 ある町の上空に居座った宇宙船は、日陰を作って洗濯物を乾きにくくしたり。


 ハゲヅラ型の巨大反射鏡を使って、朝日と同時に反対側からも夕日ハゲを上昇させて、見た者を混乱させたり。


 ある地域では、二十四時間雷鳴を発生させ、放牧されている宇宙乳竜にストレスを与えて竜乳の出を悪くさせたり。

 鳥に進化途中の鶏竜に異常産卵をさせて、卵の価格相場を暴落させたりした。


 真夏の島の海水浴場に、空中輸送で運んできた氷河を船内で、クラゲ型に削り細工して海にバラ蒔いてみたり。


 真冬のスキー場に大音響で、宇宙夏ゼミの声を響かせてみたり。


 星空にプラネタリウムのように、別惑星の半球天を投射して天体観測者に悲鳴をあげさせたり。


 虹のスペクトルを変化させて、真っ赤な虹や、真っ青な虹を出現させて見る者を不安がらせたりもした。


 中でも特に悪質だったのは、バタフライ型の宇宙船の羽ばたきで惑星の反対側にいくつもの連なった、小型台風を発生させたコトだった。

風力は、そよ風程度で。

 雨量は小雨程度の数珠連なり小型台風だったが。

 ある場所まで接近すると突然、ネズミ花火のように分散してランダムな動きで台風進路地域の住民をイラつかせた後、温帯低気圧に変わって台風一過を引き起こす迷惑なプチ台風だった。

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