1395話 リーゼロッテ純愛ルート 出産

 数年後――


「まだか……。まだなのか……!?」


 俺は焦燥に駆られていた。

 リーゼロッテさんが産気づいてから、もう1時間になる。

 だが、まだ生まれないのだ。

 俺とリーゼロッテさんの子ども……。


「早く生まれてきてくれ……!!」


 俺は出産部屋の前で、神に祈る。

 神が実在するかどうかは分からないが……。

 少なくとも、異世界転移してきた俺に『ミッション』を与えていた超常の何者かは存在する。


 しかしそう言えば、いつの間にかミッションは出されなくなっていたな……。

 パーティで行動する都合上、いくつかのミッションを無視してしまったことが原因かもしれない。

 俺は神に見放されてしまったのだろうか……?

 ならば、俺たちの子どもは……。


 ――!!!

 不意に、産声が聞こえた。

 生まれたのか……!?

 俺は慌てて立ち上がり、部屋の中に入る。


「リーゼロッテさん!」


「タカシさん……」


 そこには、生まれたばかりの子どもを抱きながら、気だるそうに寝台に横たわるリーゼロッテさんの姿があった。

 産婆によると、元気な赤ちゃんが生まれたようだ。

 俺は感極まって涙を流してしまった。


「ありがとう……! ありがとう、リーゼロッテさん……!」


 俺は感極まったまま、リーゼロッテさんを抱きしめる。

 彼女はにっこりと微笑んでくれた。


「ふふっ、タカシさんったら……。これでは身動きが取れませんわ……」


「す、すみません……!」


 俺は慌ててリーゼロッテさんから離れる。

 リーゼロッテさんは上体を起こすと、我が子をじっと見た。


「まあ……! 目元はタカシさんに似ていますわね……」


「本当ですか? あ……でも髪の色は俺と違ってますね」


「そうですわね。タカシさんの黒髪は受け継がれなかったようですわ」


 リーゼロッテさんはクスリと笑う。

 俺の髪色は、日本人としてはごくありふれたものだ。

 だが、このサザリアナ王国では少し珍しい。

 ヤマト連邦とかいう国では、黒髪もありふれているらしいが……。

 ラスターレイン伯爵家の分家として少領を拝領した今の俺には、他国へ赴く機会などない。


「それにしても……とても可愛らしい子ですわね」


 リーゼロッテさんが我が子の頭を撫でる。


「はい! 俺、頑張って子育てしますね!!」


 俺は気合十分に答える。

 イクメンとして、この子を立派に育て上げてみせるぞ!


「ふふっ、頼もしいですわね。……でも、無理はなさらないでくださいましね?」


「はい!」


 俺は元気よく返事する。

 リーゼロッテさんはそんな俺を見て、再びクスリと笑った。


「ところで……この子の名前はどうしますの?」


 リーゼロッテさんが尋ねる。

 俺は少し考え込んだ。


「そうですね……。男の子ならカッコいい名前を、女の子なら可愛い名前を考えてたんですが……」


「あらあら。ひょっとして、候補がたくさんあるのですか?」


「実はそうなんです。落ち着いたら、改めて相談させてください」


「承知いたしましたわ。……では、タカシさん……」


 リーゼロッテさんが我が子を胸に抱く。

 そして、彼女は俺に視線を向けた。


「改めて、これからもよろしくお願いしますわ」


「ああ、こちらこそ……。リーゼロッテさん、幸せにしてみせますよ」


「ふふっ、もう十分に幸せですわよ」


 俺とリーゼロッテさんはキスをする。

 俺たち2人の――いや、俺たち3人の幸せな日々は、まだまだ始まったばかりだ――

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