1363話 アイリス純愛ルート 聖女の襲撃
「さて、今日も稽古しておくか」
「そうだね。張り切っていこう!」
数か月後。
俺とアイリスは、まだゾルフ砦に滞在していた。
俺たちが暗殺したのは、やはり国王夫妻だったらしい。
そして、拉致してきたのは王女。
トップを失った上に王女まで拉致されたとあっては、オーガの国も戦争どころではなくなった。
今はサザリアナ王国との間に講和条約が結ばれようとしているようだ。
特殊な魔道具を使えば、彼らとの意思疎通も可能らしい。
俺との戦闘中は、ただ黒い目を濁らせて唸り声を上げるだけだったのだが……。
あれは闇の瘴気とやらが関係していたとのことだ。
落ち着いて話し合えば、もっと早い段階で和解の道もあったかもしれない。
悔やまれることだが、俺たちは俺たちで必死だったのだ。
もうどうしようもない。
前を向いていこう。
「しかし……。なぁ、本当にアイリスのご両親に挨拶しに行かなくてよかったのか? 結婚は人生の一大イベントだぞ?」
「うん。まぁ、そのうちでいいよ」
俺はアイリスに尋ねるが、彼女は特に気にしていないようだ。
俺たちは順調に仲を深めている。
エドワード司祭にも祝福され、ゾルフ砦で新婚生活を送り始めた。
異世界人である俺にそれっぽいファミリーネームはなかったこともあり、アイリスに婿入りする形での結婚である。
今の俺は『タカシ=シルヴェスタ』だ。
俺がガルハード杯で優勝した宣伝効果により、メルビン道場の人気もうなぎのぼりとなった。
俺やアイリスは準師範代。
門下生を指導する傍ら、自分自身も鍛えている。
特にアイリスは、『武闘聖女』という二つ名で呼ばれ大人気だ。
まさに順風満帆な日々であった。
――多少の事件は起こりつつも、月日は平穏に流れていく。
俺とアイリスの間に、アイリーンという子どもが生まれた。
とても可愛い。
まさに幸せの絶頂と言っていいだろう。
そんな折に、ある来訪者が訪れた。
その少女を見て、アイリスは顔面を蒼白にさせる。
「せ、聖女様……!?」
「アイリス? どうしたんだ?」
俺はキョトンとした顔をする。
アイリスが聖女と呼んだ女性は、10歳ぐらいだろうか。
外見だけなら、ただの子どもにしか見えない。
しかし、アイリスがここまで動揺しているということは……。
「おい! なんなんだ、お前は!?」
俺は声を張り上げる。
だが、少女は問答無用でアイリスに殴りかかった。
俺の愛しいアイリスが、タコ殴りにされていく。
彼女の実力ならば抵抗できるはずだが、恐怖か何かで上手く体が動かないようだ。
「やめろっ!!」
俺はアイリスを庇って、少女の拳を受け止める。
その威力は、これまで戦ってきた武闘家たちの比ではなかった。
「こ、これが聖女の力なのか……?」
俺は少女を観察する。
改めて見ても、ただの子どもだ。
しかし、不思議な威圧感を感じる。
その瞳は、星が浮かんでいるかのように煌めいていた。
そんな彼女が、ようやく口を開く。
どうやら、アイリスが『武闘聖女』と名乗っているのが気に入らないらしい。
聖女である彼女個人がアイリスを嫌っている……というような感情的な問題ではない。
教会の上層部が、教会全体に対する侮辱として捉え、怒り心頭であるとのことだ。
既に『武闘聖女』の二つ名を放棄する程度では治まらないほど、アイリスの存在は知れ渡ってしまっている。
不届き者を確実に始末するべく、彼女という本物の聖女がこの地に派遣されたのだ。
「事情は分かった。聖女という存在の重さを、俺たちは甘く見ていた。それは認めよう。……だが、俺としてもアイリスを見捨てるわけにはいかない。俺の名はタカシ=シルヴェスタ。聖女よ、お前を殺してでも……俺は家族を守る!!」
俺は拳に闘気と聖気を纏わせる。
鍛錬とチートの合わせ技により、俺の戦闘能力は凄まじい領域に達している。
攻撃魔法や治療魔法はさほど伸ばしていないので、臨機応変な対応は難しいが……。
1対1の徒手空拳での近接戦闘なら、俺は誰にも負けない自信があった。
「ふっ!」
俺は聖女に肉薄する。
アイリスは止めようとするが、もう止まれない。
俺の拳が、聖女を襲う。
震えていたアイリスも、少し遅れて俺に加勢してくれた。
――結局、聖女とは和解することができた。
俺やアイリスの実力が彼女の想定以上に高かったらしい。
武力を用いた処分が不確実でデメリットが大きくなると同時に、もし教会側に取り込むことができればメリットが大きい。
総合的に見て、メリットとデメリットが逆転したのだ。
俺たちの武力を背景に、半ば強引に和解してもらったような状況であると言ってもいい。
聖女と仲良しこよしとはいかないが、何とか穏便に撤退してもらうことができた。
「ふぅ……。肝を冷やしたな」
「ごめんね、タカシ……」
俺たちは自宅に戻り、一息つく。
アイリスは申し訳なさそうな顔をしていた。
俺は彼女の頭を撫でる。
「気にするなって。アイリスのせいじゃないさ。『武闘聖女』なんて、みんなが勝手に呼び始めただけだ。それに、俺にとってのアイリスは武闘聖女の前に……俺の愛する妻だ」
「タカシ……」
「愛しているぞ、アイリス……」
俺は彼女とキスを交わす。
その後、アイリーンも含めて家族団らんの時間を過ごしたのだった。
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