1361話 アイリス純愛ルート オーガの国
「これがオーガの国か……。警備がずいぶんと手薄だな」
先日のガルハード杯で、俺は無事に優勝した。
メルビン師範やエドワード司祭が援助してくれたおかげだ。
生活費を気にせず、ずっと鍛錬に集中できた。
そして忘れてはならないのは、『ステータス操作』のチートだ。
はっきり言ってズルだが、俺は武闘関連のスキルを集中的に伸ばしまくった。
チートなしの武闘家を相手に、負ける要素など皆無だったと言っていい。
そして、大会が終わった直後、ゾルフ砦の南にあるオーガの国と戦争が勃発する。
小競り合いが続く中、俺はアイリスと2人だけで相手国に潜入した……というわけだ。
「油断しないでね、タカシ。戦争は……何が起こるかわからないから」
「ああ。わかってるよ」
俺はアイリスと手を繋ぎながら歩く。
彼女には加護を付与済みだ。
ガルハード杯には間に合わなかったものの、今や彼女の実力は俺に近いものがある。
実質的に、ガルハード杯の優勝者2人が敵国に潜入しているような状況だ。
魔法や剣の戦いは物音が大きくなりがちだが、武闘は必ずしもそうではない。
しかも、俺たちは『気配察知』や『気配隠匿』のスキルも強化している。
まさに潜入作戦にうってつけだった。
Bランク冒険者を始めとした援軍が来るという話もあったが……。
今の俺とアイリスなら、2人だけで十分。
ゾルフ砦上層部にそう直訴し、援軍を待たずに潜入作戦を決行した。
――その後も、俺とアイリスは順調にオーガの国を進んでいく。
途中で6人の強者集団と遭遇したが、聖闘気を使って蹴散らした。
無事に宮殿の最奥部に潜入し、そして……
「まさか、ここまで上手くいくなんてね……」
「そうだな……。アイリスがいなかったら、こうはいかなかっただろう」
俺とアイリスは、オーガの国王らしき男の亡骸を見下ろしつつ、そうつぶやく。
彼はそれなりに強かった。
しかし、聖闘気術を始めとした俺の持つチートを駆使すれば、もはや敵ではない。
膝を庇う様子があったし、古傷でも傷んでいた可能性はあるが……。
戦争において、敵方の事情をこちらが斟酌する義理はない。
「こっちの女は……ハーピィだな。オーガとハーピィは別種族と聞いていたが……」
「このあたりはハーピィとオーガの共同支配領域らしいよ。一部では混血も進んでいるみたい」
俺の問いに、アイリスが答える。
ハーピィは鳥のような羽付きの腕を持つ種族で、オーガは鬼のような角を持つ種族だ。
完全に別物の存在だと思っていたが、ハーピィとオーガの混血も進んでいるらしい。
「アイリスは博識だな……。俺なんか、武闘以外の知識は何もないぞ」
「ふふ……。タカシに褒めてもらえて嬉しいよ」
俺はアイリスの頭を優しく撫でてやる。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「しかしなぁ……。殺してしまったのは、少しやり過ぎだった気もする」
俺は2人の亡骸を見ながら言う。
男の方が国王で、女の方は王妃の可能性が高い。
ここは宮殿の最奥部だし、彼らの服装は少し豪華だからな。
彼らは『オーガ』や『ハーピィ』という存在である。
サザリアナ王国を始めとした諸国とは正式な国交がないため、どのような生態をしているのかは不明な点も多い。
意思疎通が可能かどうかも怪しいところだ。
俺との戦闘中も、目を黒く濁らせながらただ唸り声を上げるのみだった。
だが……。
時間をかけて言語を解析したり、あるいは特殊な魔道具でも使ったりすれば、コミュニケーションは可能だったかもしれない。
いくら戦争とはいえ、これで良かったのだろうか?
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