1359話 タカシ=バーへイル『スミス・スタイル』

「――はっ!? い、今の記憶は……?」


 俺は我に返る。

 ここは……ヤマト連邦の『霧隠れの里』の地下にある古代遺跡だ。

 里長カゲロウと巫女イノリの連携プレイにより、並行世界の俺の幻影が10人以上召喚された。

 俺はそれらの幻影と戦っていたところである。


「今の記憶はなぁ……! お前が選ばなかった世界だよ!!」


「え?」


「愛しのマイエンジェル・ミティとの幸せな純愛結婚生活を、お前は選ばなかった。その世界だ!」


「な、何ぃ……!?」


 今の記憶は、並行世界における俺とミティだけの結婚生活か!

 確かに、俺はそれを選ばなかった。

 この世界の俺は、ハーレムを築いてしまっている。


「二兎どころか、十兎以上を追っかけ回す浮気者のお前は……この俺に勝てん! 鍛冶系スキルに特化した俺にはなぁ!!」


「くっ!」


「俺は……タカシ=バーへイル『スミス・スタイル』! そしてくらえっ! 【紅剣インフェルノ】ぉお!!」


「ぐわあああ!?」


 俺は、幻影の俺の攻撃をくらってしまう。

 並行世界の俺だけあって、その戦闘能力はかなり高い。

 彼の場合、武器性能の要素が非常に大きいようだ。


 剣を使った攻防では分が悪い。

 火魔法の出力も、おそらくはブーストされているだろう。

 火以外の魔法か、あるいは剣以外の近接戦闘に持ち込もう。

 それならば、なんとかなる。

 俺は紅剣クリムウェルをアイテムボックスに収納するが――


「おっと。敵は一人じゃないぞ?」


「な、なにっ!?」


「やあっ!!」


「ぐはっ!?」


 俺は背後からの攻撃を受けてしまう。

 また別の幻影からの攻撃だ。


「ははは……。身のこなしがお粗末だぞ? 俺!!」


「ぐぬっ!?」


 その2人目の幻影は、素晴らしい格闘技術の持ち主だった。

 回避しても、即座に次の攻撃が飛んでくる。

 それに、高い身体能力によるパワーとスピードも併せ持っている。


「ほら! ほらぁ!!」


「くそっ……! がはっ!?」


 本当に俺の幻影なのか?

 とんでもない格闘センスだ。

 とても真似できない。


「さらに絶望させてあげよう。右手に闘気。左手に聖気……」


 彼は両手に、それぞれ闘気と聖気を集め始める。

 あの技なら知っている。


「舐めるな……! 俺だってそれぐらいできる! ……右手に闘気。左手に聖気。それを混ぜ合わせて――はっ!」


 俺も同じように両手に闘気と聖気を混ぜ合わせ始めた。

 そして、次の瞬間……。


「【聖闘気・二聖の型】」


「【聖闘気・七聖の型】」


「「くらえ!! 【虎天拳】ん!!!」」


 俺と幻影の俺は、同時に技を放つ。

 聖気と闘気をブレンドした、遠距離攻撃弾だ。

 単純な出力なら、チート持ちの俺が負けることはそうそうない。

 俺はそう思った。

 しかし……。


「ぐわああ!?」


 俺の攻撃は弾かれてしまった。

 そして、その隙に幻影の俺が距離を詰めてくる。

 彼の正拳突きが、俺に直撃する。


「ぐふっ! ば、馬鹿なっ……」


 俺は膝をついてしまう。

 そして、またもや俺の脳内に流れ出した。

 存在しないはずの記憶が……。

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