1126話 ムウの特別治療
「それでは、これより特別治療を始める。みんな、準備はいいか?」
「大丈夫だよ」
「はい、兄さん」
「わ、私も頑張ります」
俺の確認に、モニカ、ニム、メルルが返事をした。
ここは、秘密造船所の医療室だ。
治療魔法『リカバリー』をもってしても意識を取り戻さないムウをここに運び込んだのである。
ベッドに寝かせたムウを中心にして、俺を含めた全員で取り囲んでいた。
俺を除けば、全員が女性である。
場合によってはちょっとアレな治療方法になるし、こうした配慮も必要だろう。
「あの……ムウさんは死んじゃうんでしょうか……?」
メルルが心配そうな表情を浮かべる。
既に涙目だ。
魔導工房における店主とお手伝いだけの関係と聞いているが、それ以上の感情がありそうだな。
親友か、姉妹か……。
いずれにせよ、この子にとっては大切な存在なのだろう。
「安心しろ。治療魔法『リカバリー』によって、外傷は治療されている。脳にも異常はないはずだ」
「でも……目を覚まさないんですけど……」
「魔力回路に異常が生じているみたいなんだ。放っておいても、1日ぐらいで回復しそうだが……。今回は、俺たちの手で魔力回路を刺激してみるつもりだ」
俺がそう言うと、モニカとニムはこくりと大きくうなずいた。
俺も彼女も、こういった方面のエキスパートではない。
だが、『ステータス操作』によって少なからず魔法方面のスキルを伸ばしているわけだし、全くの素人というわけでもない。
そんな3人の意見が一致しているのだから、正しい判断である可能性は高いように思う。
「魔力回路を刺激する……ですか?」
「ああ。体内魔力の流れが悪いと身体に不調が生じることがあるんだが、治療魔法では回復しないのが難点でな。物理的な刺激か、魔力的な刺激を与えるしかない」
「へぇ……。さ、さすがはハイブリッジ様です。そのような知識もお持ちなんですね」
「ま、これぐらいはな」
俺は領主としての仕事や冒険者活動がメインだ。
しかし、その隙間時間でちょっとした治療回りをすることもある。
するとたまに、俺の治療魔法でも体の不調が全快しない者がいるのだ。
治療魔法の専門家サリエ、本好きのトリスタ、老執事セバスなど知識の深い者たちに相談してみたら、そういう症例があることを教えてくれた。
ムウに施す特別治療も、別にぶっつけ本番というわけではない。
「まずは……俺の魔力をムウに流し込む」
「流れが悪くなっているところに、魔力を流し込むのですか?」
「ああ。軽症なら、これだけで改善することもある。やり過ぎると、悪化することもあるがな」
例えるなら、詰まりが発生している水道管に敢えて水を流すようなものだろうか。
軽い詰まりなら、勢いよく水を流すだけで解消できることもある。
しかし、重度の詰まりの場合、一気に解決しようとすればどこかで破裂なども問題が発生してしまう可能性もあるのだ。
「では、いくぞ……。みんな、ムウを仰向けで寝かせてくれ」
「はい!」
「わかったよ」
「はい……」
ニム、モニカ、メルル。
3人がそれぞれ協力して、ムウの姿勢を変える。
「よし。モニカはムウの両手を握っていてくれ。ニムとメルルは、ムウの足を左右に開いて固定してくれないか?」
「こうかな?」
「こ、こうでしょうか?」
「分かりました……」
俺は3人の協力に感謝する。
そして、ムウに足の間に入り込み、覆いかぶさるようにベッドの上で四つん這いになった。
「では、始める。――はっ!!」
俺はムウの胸に顔を埋め、股間から腹に向けて自分の体を押し当てた。
続けて、魔力を開放してムウに流し込んでいく。
「んん……っ!?」
ムウが声を上げる。
少しは効果が出たか?
「な、なんだかエロいよ……。ダーリン……」
「い、いけません……。兄さんが……」
「ハイブリッジ様……。そ、それはダメな気がします……」
上からモニカ、ニム、メルルの声が聞こえてくる。
俺は気にしない。
「落ち着け。これは必要な行為なんだ。一箇所だけから流し込むと、一部にだけ大きな負担が生じるからな」
一度に大量の魔力を注入することだけが目的なら、口と口で注入する方法もある。
あるいは、手と手とかな。
しかし、今回は魔力回路の異常解決が目的だ。
一箇所だけに負担をかけないよう、いろいろな箇所から流し込む必要がある。
俺は引き続き、ムウの体に密着した状態で魔力を流し込んでいった。
「んんっ……んんんっ……んんっ……」
ムウは声を上げ続けている。
先ほどよりも苦しそうだ。
「――多少の効果はあったが、これ以上はマズそうだ」
俺はムウから体を離し、ムウの全身の状態を確認した。
まだ魔力回路に異常が残っているようだ。
体内の魔力量が一時的に増えた影響で、異常箇所が把握しやすくなっている。
「では、次のフェイズに移行する」
俺はムウの全身を注視しつつ、みんなへ静かにそう告げたのだった。
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