1120話 人生で最も酷い裏切り

 俺の変態疑惑を証明したいエレナ。

 彼女は、生き埋め状態の俺にタオルをかけた上で、何やらストリップを始めてしまった。

 俺から見えないところで彼女のおっぱいが露出されている……。

 その事実が、たまらなく悔しい。


「ふふっ。どう? 私の胸はきれいだから、みんなに注目されちゃっているわね~。タケシにだけは見せないけど」


 エレナは勝ち誇っている。

 俺は彼女に何も言い返せない。


「エレナちゃんー……。趣味が悪いよー」


「どうしちゃったんすか? 最近のエレナっち、変っすよ?」


 ルリイとテナがエレナを注意する。

 2人は俺の味方をしてくれるようだ。


(ルリイとテナ……。俺にとっての女神だ!)


 2人のおかげで、少し冷静になれた気がする。

 ここでエレナに言い返したところで、俺が不利になるだけだ。

 ここは耐え忍ぶべき場面である。


「タケシ、今の気分はどう?」


「……」


 俺は無言を貫く。

 エレナの質問なんて無視だ。


「ふーん、黙り込むんだ。残念ねぇ……。あんたが自白するなら、見せてあげようかなと思ったのに」


「!!??」


 な、なんだって……!!

 エレナの言葉を聞き、俺は大きく動揺する。


(こいつ……! 正気か!?)


 まさに悪魔の囁きだ!

 俺が変態だと認めれば、彼女の胸を拝めるというのか……!


(俺の心が揺らいでいる……。ダメだ……。エレナの誘惑に負けてはいけない……!)


 俺は歯を食いしばり、エレナの誘惑に耐える。

 股間も熱を帯び始めてはいるが、まだ大丈夫だ。

 エレナのストリップ気配を感じて興奮し始めているが、なんとか我慢できる。


「あら、頑張るわねぇ」


「当たり前です。俺には愛する妻もいますし、エレナさんなんかには屈しませんよ」


「本当にいいの? ただ自白するだけでいいのよ? 『私は変態のカスです。エレナ様の胸を盗み見して興奮していました』ってね。そうすれば、あんたの望み通りの展開になるのに……」


「なっ……!」


 エレナが追い打ちをかけるように言う。

 なんとも屈辱的なセリフだ。

 しかし、所詮はただのセリフだとも言える。

 言うだけで素晴らしいおっぱいが見られるのなら、一考の余地がある気がしてきた。

 こんなことを言われ、俺は一体どうすればいいのか……。


「ふふっ。ほら、早く白状しちゃいなさいよ。そうしたら楽になれるわよ?」


「……」


 俺は誇り高きタカシ=ハイブリッジ男爵だ。

 そして、『紅剣』の二つ名を持つBランク冒険者でもある。

 決して、このような低俗な誘惑に負けてはならない。

 絶対におっぱいなんかに、負けたりしない!!


「はぁ……。強情ねぇ。じゃあ、下も脱ごうかしら……。今日は暑いものねぇ……」


「!?!?」


 エレナが呟いた直後、しゅるりという衣擦れ音が聞こえた。

 今まさに、彼女が水着の下を脱いだのかもしれない。


(くっ! 下半身まで露わにされたら、さすがに耐えられなくなるぞ……!!)


 俺は戦慄する。

 このままだと、俺はエレナに敗北してしまう。

 そうなったら、もう取り返しがつかなくなってしまう。

 それだけは何としても避けなければ……!


「どう? これが最後のチャンスよ。早く自白しなさい」


「…………くっ」


「残り5秒以内に答えないと、全ての水着を着直すわ。5……4……3……2……」


「『私は変態のカスです。エレナ様の胸を盗み見して興奮していました』」


「はい、自白ゲット~」


 俺の敗北が決まった。

 おっぱいには勝てなかったよ……。

 悔しい反面、俺のマグナムは期待感でさらに膨らみ始めている。


「ふふんっ。やっと認めたわね。最初から素直になればよかったのよ。さーて、それではご対面~」


 エレナが嬉々として声を上げる。

 それと同時に、俺の顔にかけられていたタオルが剥ぎ取られた。

 俺の視界にエレナの胸元が入る。


「なっ……!? 水着を着ている……だと……!?」


「当然でしょう? 私が人前で脱ぐはずないわ。あんたの変態を証明するために、脱ぐフリをしただけ。まんまと自白したわね!」


 エレナが嘲笑を浮かべた。

 俺はエレナのストリップを楽しみにしていたのに……。

 そんな……!

 俺は失意のどん底に突き落とされた。

 人生で最も酷い裏切りにあった気分である。


「くっ……! こ、こんな自白は無効です! 対価のために仕方なく言っただけですから!!」


「自白は自白よ! そもそも、あんな下らない対価につられて自白する時点で、変態なのは確定的に明らかでしょう!!」


「くっ……。そ、それは……」


 エレナの正論を前に、俺は口籠もってしまう。

 確かに、俺が自白した動機は、エレナのおっぱいを見たいがため……。

 変態の疑いをかけられても仕方のないことだ。

 しかし、言い負かされてばかりではいられない。


「男なら、当然のことですよ! 美少女の胸を合法的に見たいと思うのは!! さっきの自白は、俺が変態であることの証明にはなりません!!」


「ちっ……! 往生際の悪いカスね……!!」


 俺は大の字で砂に埋められた状態のまま、エレナとにらみ合う。

 ここまで持ち込めば、話は平行線となるだろう。

 舌戦は引き分け……ってところか。

 後は、この股間の猛りを気付かれないまま鎮めることができれば……。


「あんた、何をモゾモゾしているのよ?」


「いえ……。ずっと埋められていたので、砂が少しかゆくなってきただけです」


 エレナが俺を睨む中、俺は平静を取り繕う。

 頼む……。

 気付いてくれるな……!

 一刻も早く股間の怒張を鎮めるため、俺は精神を集中させるのだった。

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