709話 ミリオンズvs黒狼団

 俺たちミリオンズは、賊たちと対峙している。


「ザコどもが……。かかってこいよ……」


 俺はそう言って、両手を広げ挑発した。

 実際にはザコとは限らない。

 少なくともネルエラ陛下に認知される程度の実力はあるはず。


 だが、俺はあえて挑発した。

 得体の知れない相手からの初撃は、愛しい妻たちには向けさせられない。


 この場のおける俺以外の唯一の男であるキリヤに先陣を切らせたいところではあるが、あまり露骨過ぎるのもな。

 彼からの忠義度が下がるかもしれない。

 うまくいけばいずれは通常の加護も狙える彼の忠義度は、可能な限り下げたくない。


「この野郎が……。調子に乗るんじゃねぇよ!!」


 賊の1人が怒りの形相で斬り掛かってくる。


「ふっ!」


「ぐあっ!」


 賊の振り下ろしを半身になってかわすと、すれ違いざまに足を引っ掛け転ばせた。

 そして、その背中に膝を落とす。


「ぎゃああ!」


 悲鳴を上げながら地面をゴロンゴロンと転がり、うずくまる。

 その隙に、仲間がフォローに入る。


「おらぁ! くらえええ!!」


 仲間の2人が左右から挟み込むように同時に斬りかかる。


「甘いな……」


 俺は左の敵の懐に入り、腹に拳を叩きこんだ。

 右の敵には蹴りを入れる。


「ぐぼぉ……」


 左右の敵が吹き飛び、地面に倒れた。

 俺が一瞬で3人も倒したことに、賊たちが動揺している。

 その動揺を見逃さず、ユナが矢を放つ。


 シュッ。

 ユナの放った矢が、倒れ込んでいた賊に突き刺さった。

 彼女は、矢を放ったと同時に次の矢をつがえて弦を引き絞っている。

 まるで曲芸のような動きだ。


「ちぃ! 何してやがる! まだ戦えるだろうが! 早く立て!!」


 リーダー格の男がそう叫ぶと、倒れ込んでいた3人が立とうとする。

 まあ、俺は適度に闘気を抑えて攻撃したし、ユナの弓も頭部や心臓などの急所は狙っていない。

 頑張ればまだ立てるだろう。


「命は奪わないというのは甘かったか? 確実に殲滅した方がいいか……」


 俺は迷う。

 自分や大切な仲間たちを害そうとする者に対しては、容赦しないという覚悟を持っていたつもりだ。

 しかし、この賊たちは意図的に俺たちミリオンズと敵対しているわけではない。

 あくまで、王宮から金貨10000枚を盗んだ彼らを、俺たちミリオンズが追ってきたというだけだからな。

 そういった状況を考えれば、容赦せず殺していくという選択を行うのは少し躊躇われた。


「ふふん。問題ないわ。タカシの不殺主義は知っているから」


「ユナ? だが……」


「あれを見なさい」


 ユナの言葉に従い、俺は倒れ込んでいた賊たちに視線を向ける。


「「「あばばばば!!!」」」


 ユナの弓が突き刺さっていた賊たちが、泡を吹き白目を剥いて痙攣していた。


「麻痺毒? いや、雷魔法か? いつの間に使えるようになったんだ?」


 ユナの得意魔法は火魔法だ。

 その他、獣化術やテイム術といったスキルも持つが、雷魔法は未習得だったはずである。


「ふふん。これは……」


「私の雷魔法と、ユナの弓の合わせ技だね。矢じりに遅効性の雷魔法を仕込んでおいたの」


 モニカが得意げに胸を張っている。


「へえ? だが、それなら直接”パラライズ”をぶっ放せばいいんじゃないか?」


「範囲を絞るのが難しいからね。さっきタカシも言っていたように、金貨に攻撃の余波が及んで破損したら大変だし。それに、あの風呂敷の中にいる馬もちょっと可哀想だし」


 モニカの雷魔法はスキルレベル5に達している。

 MP強化レベル4や魔力強化レベル5も持っており、既に一流の雷魔法使いであると言っていい。

 ただし、繊細な制御に関してはどうしても経験による限界がある。

 範囲を絞ったパラライズの発動は難しいようだ。

 その点、物理的な矢に遅効性の雷魔法を付与しておくというのは、素晴らしいアイディアのように思う。


「それはいいな。あと、馬以外にも、ひょっとしたら人質がいるかもしれないしな。万一、人質を傷つけてしまったら厄介だ。俺も賛成するよ。ありがとうな」


「どういたしまして」


「ふふん。大したことないわ」


 俺、モニカ、ユナがそんな会話をしている間にも、戦闘は続いている。

 賊のリーダー格の男だけは剣を抜いて応戦しているが、残りの賊はミリオンズに圧倒されている。


「くそがああああああ!! なめんじゃねええええええええ!!!!」


 リーダー格の男が叫び声を上げながら斬り掛かってくる。


「おっと!」


 俺はその斬撃を軽くかわすと、男の鳩尾に拳を叩きこむ。


「ぐふぅ!」


 男は崩れ落ち、意識を失った。

 これで賊は全て無力化したわけだ。


「さて、とりあえず縛るか……」


「はい!」


 ミティとニムが中心となり、気絶した賊たちを縛り上げていく。


「これで全員でしょうか?」


「んー。あそこの風呂敷の中に1人……いや、2人いるんじゃない?」


 サリエの問いに、アイリスがそう答える。

 俺の初撃『”でかくてビッグな大風呂敷” -ジャンボジャンボクロス-』で包まれた中には、馬車が丸ごと入っている。

 闘気や魔力を抑える効果があり、それに捕らえられた賊は未だにもがいている様子だ。


(しかし、拘束できた盗賊は1人だったような気がするが……。今改めて気配を探ると、馬以外に2つの生命反応がある。俺としたことが、見落としていたか)


 とりあえず風呂敷を回収しよう。

 中にいる賊は抵抗するかもしれないが、他の賊は既に戦闘不能。

 ミリオンズの14人対残党2人では、もはや勝負にすらならない。

 人質を取られたりしない限りな。

 さくっと片付けてやるぜ。

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