659話 貴様たちは強すぎる

 ゴブリンの巣を目の前に、作戦会議をした。

 参加者は、俺、モニカ、蓮華、キリヤ、ベアトリクスの5人だ。


「よし。みんな、準備はいいか?」


「うん。大丈夫だよ」


「バッチリだぜ」


「いつでもいけるでござる」


「……」


 俺の確認に対して、3人とも力強く答えてくれた。

 ちなみにベアトリクスは、俺たちの会話に加わるつもりはないようだ。

 少し煽りすぎたか。

 彼女は俺たちのやや後方で、そっぽを向いて待機していた。


 まあいいさ。

 万が一俺たちがピンチになったら、さすがのベアトリクスでも援護ぐらいはしてくれるだろう。

 そもそもピンチになる気はないけどな。


「詠唱を開始しろ」


 俺は短く指示を出す。

 まずは合同魔法の出番だ。

 俺、モニカ、キリヤが魔力を高めていく。

 そして、詠唱が終わる。


「「「デス・パラライズ」」」


 強力な雷の合同魔法が炸裂した。

 対象はゴブリンとオークたちだ。

 巣全体を覆うように雷撃がほとばしる。


「ギィッ!」


「グゥッ!」


「ギャアァッ!」


 麻痺の効果が発揮されたのか、ゴブリンとオークたちがバタバタと倒れていく。

 これでほとんどの敵が動けなくなったはずだ。

 まだ息はあるだろうから、トドメは必要だが。


「なっ……。なんだこの魔法は!?」


 ベアトリクスの驚く声が聞こえた。

 さっき説明しただろ。

 拗ねて聞いていないからそうなるんだ。


「これが俺たちの合体技だ」


 俺は得意げに言った。

 この合同魔法は、初級の雷魔法であるパラライズを応用したものである。

 3人の魔力を融合させ麻痺の効力を上昇させたのだ。


 ハイブリッジ家もずいぶんと大所帯になった。

 同じ属性の魔法を扱える者も多い。

 定期的に合同魔法の鍛錬を行っている。

 魔法のイメージやお互いの信頼感が大切な合同魔法だが、俺が核となることで効率的に習得できる。

 俺は加護付与スキルの副次的な恩恵により、ハイブリッジ家のみんなと確かな絆を結んでいるからな。


「バ、バカな……。数十対もの魔物の群れを一撃で麻痺させるとは……」


 ベアトリクスが驚愕している。

 その表情は、まるで化け物を見ているようだった。

 失礼だな。


「おいおい。驚いている場合か? みんなはもう次の段階に進んでいるぞ」


「なにっ!?」


 俺は視線でモニカと蓮華を示す。


「いくよ!」


「いざ、参らん!」


 2人が魔力を開放する。


「術式纏装”雷天霹靂”」


「術式纏装”疾風怒濤”でござる!」


 魔法の力を身に纏い、2人はゴブリンたちの群れに突撃していく。


「なっ……。なんなのだあの速さは……」


 ベアトリクスは絶句する。

 そりゃあ驚くよな。

 チートの恩恵を最も多く受けている俺ですら、短距離におけるスピードでは彼女たちに及ばない。

 今の彼女たちの動きは、目で追うことすら難しい。

 麻痺で動けなくなっているゴブリンやオークを次々に葬っていく。


「ふっ。俺も負けてられんな」


 キリヤも張り合うかのように戦闘に加わる。

 ミリオンズの除いたハイブリッジ家の中で最も強い彼ではあるが、さすがにまだ纏装術は使えない。

 しかし確かな実力により、1匹1匹にトドメを刺していく。


「……よし。俺たちも行くぞ」


「あっ、ああ!」


 俺はベアトリクスに声を掛け、駆け出す。

 そして、麻痺しているオークに向かって剣を振り下ろした。


「ハッ! セイヤァー!!」


 オークの首が飛ぶ。

 続いて数匹のゴブリンにも攻撃を加え、倒していった。

 ベアトリクスも負けじと数匹のゴブリンやオークにトドメを刺していく。


「こっちは終わったぜ」


「私も全部倒したよ」


「拙者も問題無しでござる」


 3人とも無事に殲滅を終えたようだ。

 俺は全員を労ってから、ベアトリクスに声を掛ける。


「どうだ? 俺たちの強さは?」


「……認めないわけにはいかないな。貴様たちは強すぎる」


「そうだろう。もっと敬え」


「調子に乗るな! ……だが、我だけでは、ゴブリンやオークを全滅させることはできなかっただろう。礼を言う」


「気にすんなって。俺たちは仲間だろ? サザリアナ王国の発展を願う同志じゃないか」


 俺は笑顔で言う。

 するとベアトリクスは、どこか諦めたような顔になった。


「王女である我と仲間……か。貴様は本当に不思議な男だ。我が騎士団や高位貴族の人間ですら、ここまで我に気安く接する者はほとんどおらぬぞ」


「ん? もっと敬った方がいいか? ベアトリクス殿下が望むなら、頭を地に伏し、靴でも舐めましょうか?」


 俺はわざとらしく言ってみた。


「いや、いい。貴様にそんなことをされたら、逆に恐ろしくて夜も眠れなくなる」


「ハハハ。冗談だよ。まあ、俺たちは対等な関係でいこうぜ」


 俺は彼女に手を差し出す。

 騎士爵の俺が、第三王女と対等?

 自分で言ってて何だが、調子に乗りすぎか?

 だが、ベアトリクスの反応は少し意外なものだった。


「そうだな。その方が気が楽だ。しかし、他の者の目もある。公式の場では少しぐらい敬うように」


「ははーっ! 承知致しました。ベアトリクス殿下!」


 俺は大袈裟に姿勢を正し、敬礼する。

 ベアトリクスはブルッと身震いしてから言った。


「やめろ。ここは公式の場ではないぞ。貴様にそんなことを言われたら、気味が悪いと言っただろう」


「わかったよ。じゃあ、いつも通りでいく」


 俺は苦笑して言う。

 ベアトリクスは呆れた様子だったが、どこか嬉しそうな顔をしていたのだった。

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